14 ―作戦会議―
14―作戦会議―
結局空也と朝までコースだった。
日が昇り、朝食をとったら作戦会議が始まった。
無論、対ユートピアのためのものである。
「そういえばあの三人がいっぺんに来たら空也のアドバイスがあっても勝てないんじゃないの」
空也の飲んだ缶やら瓶やらをゴミ袋に詰める。
まるで酒屋でもやるのかという種類と量だ。
「ん? んー多分、それはないかなぁ」
「この間は三人纏めてきたけど」
「んはははは。そうだったね。まぁそこは何とかするよ。ならなくてもなんとかするかんねぇ」
先行き不安だ。私が言い出したことに付き合ってもらっているわけで、あまり大きなことは言えないのだが。
「大丈夫大丈夫。そこんとこ、気にしないでいいよぉ。あ、少年お酒新しいの取ってぇ」
「……もうないよ」
「えぇっ。マジかよぉ。テンション下がるぅ……」
「また買ってくるから、話続けてもらえるかな」
「じゃあ若王子ちゃんの話しよっかぁ。若王子ちゃんから倒していくのがベストだからね」
若王子さんの拳を思い出す。
鈍く重い痛み。口から内臓が飛び出るかと思った。
あれをもう一度食らうと思ったらぞっとする。
「少年ビビるなよぉ」
「空也がベストって言うならベストだと思うけど……なんで若王子さんなの?」
「一番強いからねぇ、若王子ちゃん倒したら後はなんとかなりそうだねぇ。それにあの子だけがぁ他の子のピンチに駆けつけてきそうだし」
やはりと言うべきか彼女が一番強いらしい。
「私とおんなじくらい強い」
今さらっと自分も一番強いと自己主張する空也だ。
強さ、という面で見れば空也が若王子さんと並ぶ存在とは思えないのだ。
「あ、今疑わしいって思ったろぉ。やめてよねぇお姉ちゃんには君もまだ知らない魅力があるんだぞぉ」
「思ってないよ」
ここはそう言っておこう。
「そう? そうかそうか、じゃあいいんだよう。若王子ちゃんは強い。霊能力も彼女自身もね。彼女の能力は『強化』なんだ。彼女はいつだって『私の考えた最強の私』って存在になれるんだよ」
「最強の私」
「そうだねぇ。ゲームでならレベルもステータスも全部カウンターストップ。五段階評価でオール十って感じ」
「十だったら五段階を超えてるよ」
「そう。超えるんだなぁ。地球上にいるどんな動物も建物も機械も全部全部指先一つでダウンさせる。それが若王子羽彩ちゃんなんだよ」
若王子羽彩、『強化』の霊能力者。
曰く彼女の力は足し算ではなくかけ算らしい。
つまり一たす一ではなく一かける百の能力者。
「さて少年。ここまでは彼女の霊能力の話。じゃあ反動の話するねぇ」
反動。私であれば人に記憶されないということ。それと暗示などにかかりやすい体質だ。
若王子さんほどの能力ならばその反動も凄そうだ。
なるほどそこを突いていけば若王子さんに勝てるかもしれない。
「自分の力を百倍にするのが彼女の霊能力。Xかける百の答えをより大きくするために必要なのはぁ……Xの数をおっきくすることだよねぇ? 若王子ちゃんの体はより自分の 霊能力を強力にするためにぃ、成長しちゃったんだぁ。彼女の意志に関係なくねぇ」
それから空也が私に聞かせたことは耳をふさぎたくなるようなことだ。
これからそんな化け物と戦うのかと思うと気持ちが落ち込む。
Xの数を大きくする。それはつまり彼女の体自体がもはや一般人とはかけ離れる力を持つということ。
百メートル走七秒台。フルマラソン一時間足らず。水泳百メートル二十秒代後半。走り幅跳び十メートル。ベンチプレス三百キロオーバー。
これらはまだ一部である。非公式記録ではあるが世界記録に登録されるものばかりだ。
この基礎力に加えてさらなる強化を加えられる。昨日の時点で彼女は自分の能力を使っていなかっただろう。
もっと怖いのはその力を自由自在にコントロールし一般人同様の生活を送っていることだが。
「じゃあそれ弱点ないんじゃないのか」
「んー霊能力を使うと反動で体に負担がかかる」
霊能力がなくても勝てそうにない。その上デメリットもデメリットといっていいものなのか。
「で……対策とかは」
「んーそもそも勝負しないのが正解?」
「対策もくそもないじゃないか」
「あははは。怒るなよぉ。私だって考えてるんだからさぁ。でもさぁ勝負事でぇ羽彩ちゃんに挑むのはねぇ……油断してても強いんだもんなぁ」
「横綱相撲では勝てないか……」
「お、少年難しい言葉知ってるねぇ」
勝負事では勝てない。この戦いにルールはない。空也が色々と手を回してくれたとしてもだ。
直接ユートピアの妨害は出来ないはずなのだから、なにか相手に制限をかけて立ち回ることもできない。
彼女の能力が及ばない勝負というのがあるのだろうか。彼女の逸話は身体能力に関するものが多かった。
であれば頭脳戦か? だが頭脳を引き上げてしまえるとしたら? 将棋でもして葛葉さんや桂御園さんを狙わないようにと願うのか?
どれも決定的ではない。私は頭痛がしてきた。空也の酒気に当てられたのかもしれない。
人類最強になれるような敵とまともに戦えるかどうかも怪しい。
「あ、少年。免許持ってる?」
「急になんだ……原付なら持ってるけど」
「あー原付かぁ。せめて普通二輪ならなぁ。ほらぁ若王子ちゃん普通に四十キロ五十キロぐらいで走るからさぁなるべく速いスピードで逃げられるのがいいなぁって」
逃げる前提であることが不安感をさらに煽る。しかし真っ正面からでは勝てないだろう。
本当にどうするべきか。
「……空也。原付じゃ勝てないよね?」
「難しいねぇ。霊能力使えば車も追い越せるしぃ、原付ぐらいなら霊能力使わなくても追いつかれるかもぉ」
「でも走るよりはマシだよね?」
「そりゃあ当然。あーでも少年なら霊能力で原付並みの速度出せるかなぁ……他の事で霊能力使えなくなるけどぉ」
「……そうか。空也、ちょっと案があるんだけど聞いてもらってもいい?」
「ん? いいよ。聞こうじゃないか少年」
私は彼女に耳打ちをした。
これが駄目ならまた私の頭痛が酷くなるだろうと思いつつだ。
「……へぇ。うぇへへ。少年、結構イイ線かもよぉ」
「……よかった」
どうやらいけそうだ。うまくハマってくれればいいが。
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