Episodes[5] // そうでなければ、わざわざ


 忠志はタブレット端末を取り、ハカリを呼び出した。

 忠志が遠隔操作のアイデアの概要を説明すると、ハカリはしばらく沈黙の後、深く頷いた。


『我々が思いつくまでには、数年は要しただろう。医務省の連中が何と言うか分からないが……』

「やはり、祝園さんが関わっていることが問題になりそうですか?」


 ハカリは首を横に振った。


『実のところ、警察省も医務省も、あれはスケープゴートだと分かっているんですよ。恐らく、本当の犯人も知っている』

「え……」

『そうでなければ、わざわざ凶悪事件の実行犯をハリマ警察署に留置したままなんかしないでしょう』

「ああ……」


 確かにそうだった。あんな辺鄙な警察署、しかも警察官が一人しかいない状態で留置されていた。ホシの命令と独断で身柄の引渡や一時釈放が行われてしまうほどである。確かに本気とは思えなかった。


『私から話は通しておきますよ。昔取った杵柄……いや、呪縛だな。彼らを動かすネタの一つや二つは握っている。何とかなるだろう』

「お力添え感謝します」

『……いや』


 ハカリは奥歯を噛みしめ、渋い表情を浮かべた。


『これは、私の力不足だ。こうなったのもすべて……。だが、嵯峨さん、あなたなら解決策を見つけられるに違いない』

「謙遜しないでください」

『謙遜なんかではないよ』

「この緊急対応フェーズが終われば、根本療法を探さなければならなくなります。そうだ。先生は、症例をたくさん見ておられるはずです。何か根本療法のヒントになりそうなことは?」

『私も目の前のことで手一杯でね。だが、強いていうなら、何か、そう。地理的なものが影響していると思う。裏付けるデータは示せないがね』

「つまり?」

『東ハリマ自治区にヒントがある』


 ハカリはさらに何かを言おうとしたが、それ以上何も言わなかった。

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