Episodes[4] // 容疑者・祝園アカネ


 署内はしんと静まりかえっていた。響くのは三人の足音のみ。


「いやあ、本当にすみませんね。本省からどなたかお越しになるーとは聞いとったんですが、何分こんな状況ですから」


 人懐っこい笑顔で、警官はそう説明する。忠志は警官と世間話を交わしていたが、ホシは仏頂面を貫いていた。

 ところで、忠志には一つだけ気になることがあった。


「あなたは感染されてないんですか?」

「ああ、本省に半月ほど研修に行っとったんです。ほんまギリギリセーフでフライトモードにできたんです」


 フライトモードとは、航空機に搭乗した際に通信機能を無効する機能である。

 

「ほー、感染には時間差があったんですね」

「いや、あっちゅう間でした。若手の職員には早めに情報が回ったこともあって、ギリギリ助かったんやと思います」

「なるほど……」

「あ、こちらです」


 警官は頭を掻きながら、留置所に案内した。

 鉄格子の向こう側に、部屋の隅で蹲る被疑者の姿があった。


「被疑者の祝園アカネです。彼女も過去から複製されたヒトです」

 と、ホシは言った。


 ボサボサ頭の被疑者は、ちらりとこちらを一瞥すると、何も言わず再び顔を伏せた。


「被疑者の身柄は本省で預かります」


 ホシがそういうと、警官の顔がぱっと明るくなった。


「ホントですか! いやあ、助かります。この状況ですから十分な食糧もなく、送検もできず……。あ、正式な手続きはしとってですか?」

「本省命令第二三三〇-二五六号、命令者はホシ少佐です」

「あーはいはい、それじゃあ」


 と、警官は鍵を解除した。

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