Episodes[16] // 大変デス!


 ホシは少年を尋問した。

 忠志には共通語が分からなかったが、その鬼気迫る尋問は、忠志も手に汗を握るほどであった。無表情ほど恐ろしいものはない。


 最初は頑として何も喋らなかった少年だったが、一時間もせずに根負けした。


 一週間ほど前から潜入していたこと、忠志達がコンピューターウィルスを開発していると勘違いしている様子であること、首都病院のロビーでの出来事からいわれのない恨みを抱かれていることが分かった。


 正直な所、忠志は自分を殺そうとし、ホシを傷つけた少年に怒りを抱いていた。


 だが、同時に同情せずにはいられなかった。大切な人を失う苦しみは計り知れない。NebulAIにはそういった苦痛がプログラムされている。もし少年の立場だったならば、忠志自身も同じように仇討ちを考えたかも知れない。


「ぎゃぼしー!」


 突然、ツバメが悲鳴と共に倒れ込んできた。

 床の凹凸に蹴躓いたのだろう。目が見えないのに歩き回るたくましさや適応能力の高さには目を見張るものがある。彼女のハードウェアは先天的にハイスペックなのである。だが、危なっかしい。


「ツバメさん、大丈夫ですか?」

「うひー……いててて。あ、そうだ! 大変デス! 東ハリマ警察署から全然応答がないですよ」


 その言葉を聞いた途端、忠志の脳裏に悪い予感が過った。


「……またあの人一人なんじゃないですか?」


 ホシと目を見合わせる。何も言わなかったが、ホシも同じ考えのようだった。

 

「行きましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る