Extras[0] // 24世紀のグルメ・トフーオ
それは四人掛けの机が三台三列に並んだ小規模な食堂だった。忠志の知る大学の食堂に比べると、圧迫感を感じるほどの手狭さだ。入口脇のカウンターには、やや大型の電子オーブンのような装置が並んでいた。
ホシはその装置の前に立ち、忠志に説明する。
「これは複製器といいます」
「噂の時空複製器?」
忠志は装置の窓を覗き込む。少なくともターンテーブルはないようだ。
「いいえ。時空複製器は小さいものでも、この部屋一杯ほどの大きさです。これは主に食品用の複製器です」
「なるほど……料金は必要なんですか?」
「いえ。貨幣制度は一部の地域を除き存在しません」
「じゃあ、食べ放題なんですか!」
「資源には限りがありますので、節度を持って利用してください。何をご希望ですか?」
「うーん……それならせっかくだし、ホシ少佐が好きなものを」
ホシは一瞬だけ怪訝そうな表情を見せたのちタブレット端末に視線を落とした。
「……わかりました」
ホシがタブレット端末を操作すると、低い共鳴音と共に、複製器の中で光の粒子が舞い上がった。それは徐々に直方体の形状に収束して行く。
ピーという音が鳴ると、ホシはその扉を開く。現れたのは皿に載った白い直方体であった。
「……豆腐?」
「はい。
「え、待って、この単品だけですか?」
「はい。これで一日に必要な栄養素はすべて摂取できます。ヒトへの害もありません」
その
ホシは席に着くと、忠志が着席するのを待たずにその
なるほど、それほど美味しいものなのだろうか。忠志は恐る恐るスプーンでその物体を口に運ぶ。
忠志は衝撃のあまり目を見開き、スプーンを落とした。口に広がる苦みと雑味。薬局の健康サプリメントをすべて水に溶いて固めたかのような、世界で最悪の味であった。食感はコンニャクゼリーであるが、その滑らかさをもってしても忠志の喉は必死に抵抗する。けれどもホシが好きなものなのだからと言い聞かせ、吐き気を堪えながら、必死に飲み込んだ。額に汗が浮かんでいた。
忠志の様子に気付いたホシは、首を傾げた。
「お口に合いませんか?」
「いや、うーん……良薬口に苦し……って言うからね」
忠志は引きつった笑顔で、ホシに応じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます