Episodes[9] // 相部屋をお願いします
蛍光灯がチカチカと明滅したのち、点灯する。
「今夜はこちらの部屋になります」
それは独房を少し広くしたような質素な部屋だった。漆喰の壁にはひび割れが大きく伸びており、雨漏りの跡があった。組み立て式の長机、パイプ椅子、そしてカーテン付きの二段ベッドがある。木彫りの彫刻などどこにも見当たらない。数日間を過ごしたVIPルームに比べると、雲泥の差であった。入口には『仮眠室』とある。
「だいぶグレードが下がったなぁ」
忠志がそう呟くと、ホシは相変わらず不機嫌な口調で応じた。
「ご不満ですか?」
「いや、ちょうどいいんです、これが」
忠志は二段ベッドの下段にシーツを広げながら、笑顔でそう言った。ようやく、落ち着いてゆっくり眠れる場所を確保できる。身の丈に合った部屋こそ至高である。忠志はベッドに腰掛け、枕カバーを交換した。
「それから、仮眠室は二部屋しかありませんので、相部屋をお願いします」
ホシはそう言って、梯子を登り始めた。
「えっ、誰と?」
「ぼく……私です。この地域は治安も良くありませんので、同室のほうが保安上も好ましいかと」
「えぇ!」
ホシは足を止める。
「何か勘違いなさらぬよう」
「ああ、撃たれたくはないですからね」
忠志は両手を挙げ、降参の意思を表示した。
「でも、いいんですか? 高校時代、学生寮でルームメイトに逃げ出された実績があるけど」
「その理由は?」
「人工臓器の開発を夜な夜なやっていたら気味悪がられてね、そのうち僕が寮から追い出されたんですよ。ははは」
「そういうのは別に構いませんが……」
ホシは上段に登り切ると、そそくさとカーテンを閉めた。
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