Episodes[10] // 目がぁ……


「ふぉおおお、目がぁ……真っ暗くらくらデス!」


 ツバメの間の抜けた雄叫びが、建物内に轟いた。


 ツバメは身を起こし、自らの目の前に手をかざした。しかし、その視線は、手のひらではなく、アカネでもなく、どこか遠く、雲の向こうに向いていた。


 アカネはツバメに駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

 

 アカネはツバメの手を取って、体を支える。


「ふぉわっ、アカネさん、話ができるですか?!」

「はい」

「うおおおお!ずっと、ずっと、お話できなくて辛かったでべそ」

「何をしたんですか」


 アカネはやや焦燥した口調で尋ねたが、ツバメは喜びに満ちあふれた馬鹿でかい声で応じる。


管理者ルート権限を奪取して、nebulai-visiondを強制終了したデウス。まさかCVE-2070-E000223の脆弱性が自分にも使えるとは!!」

「……そんな無茶な!」

「しょーもないリスクを恐れてどうするデスか!」


 次の瞬間、パチンと大きな音が響いた。反響音がキンと耳をつんざく。ツバメの頬には赤い手形が、そしてアカネは自らの手を押さえて、顔を歪めていた。


 暴力行為はだめ――忠志はそう言おうと口を開いたが、声が出なかった。

 あまりにも突然のことに動揺を隠せない。


 ツバメは両手を挙げて抗議する。


「アカネさん!? 何するですか? うぐ!?」


 アカネはツバメの胸ぐらを掴んだ。


「リスクをもう少し恐れるべきです! わたしたちの不注意で、何人が命を落としたと思ってるんですか! あなたも死ぬかも知れなかったんですよ!」


 そして、アカネの頬にぽろぽろと水滴が輝いた。


「どれだけ心配したと思ってるんですか」

「アカネさん、ぐ……るじい……苦しいでつ」

「本当に分かっているんですか!?」

「……分かってる、です。私は好奇心に抗えなかった……」

「その好奇心を少しはコントロールしてくださいって言ってるんです」


 ようやく、ホシが割って入った。


「ツバメさん、事件については後で聴取します」

「ぐぬぅ……アカネさんは悪くないです。チョーカーを外して、代わりに私を逮捕するデスよ……」


 そう言って、ツバメは明後日の方向に両腕を差し出す。

 ホシはツバメの腕を押し下げた。


「そのつもりはありません。そのようなことに、時間を費やす時間的猶予はないのです」


 忠志は明るい口調を努めた。


「じゃあ、これでツバメさんの力も借りられますね。改めて、僕たち四人で、この世界的危機に立ち向かいましょう」


 すると、ツバメは首をかしげた。


「五人じゃないデスのん?」

「え?」

「いや、何となく、もう一人いる気がしてたです」


 アカネは肩をすくめ、あたりをキョロキョロと見回した。


「えっ……怖いことを言わないでください」

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