Episodes[20] // 搬送


 忠志は慌ててフォースフィールドを解除する。

 ホシは演技の可能性を考えて、銃を構えた。


 忠志は少年のこめかみにディスポ電極を貼り付ける。コンソールを見て、ハリマ熱病の発症を確認した。予想通りであれば、少年は既に感染しており、何らかの条件――たとえば潜伏期間――を満たしたために発症したと考えられる。


 幸いにも脳内温度が五十度に達するにはまだ時間的な猶予があった。だが、この状況では、nebulai-visiondの停止措置は認められていない。あくまでも緊急措置なのだ。


「ホシさん、首都病院に搬送しましょう」


 だが、医療用ドローンを待っている時間はない。


 忠志は少年を車に乗せ、ホシの運転で駅に向かった。高速鉄道なら一瞬で首都オカヤマに到着できる。

 サイレンを鳴らし、車は商店街のアーケードを駆け抜ける。特価の白菜も萎れるがままに放置されたままだった。この街はもう死んでいる。そんな実感があった。


 検問所の中には相変わらず誰もおらず、ただ、変わったことといえば、武器庫が破壊されていることだけであった。これは少年が破壊したのだろう。


 検問所を抜け、旧・国道二五〇号線の廃道へとさしかかった。

 速度表示は時速三百キロメートルを突破する。ハンドルを握るホシは表情一つ変えない。


 忠志は額に汗を浮かべながらシートに深く座り、グリップを握りしめた。反重力装置で浮上しているとは言え、こんな廃道を新幹線並みの速度で駆け抜けるホシの正気を疑った。



 ヒメジ遺跡駅北口に到着すると、首都病院の医療スタッフと警察官が待ち構えていた。

 最後に少年の脳内温度を確認した。まだ三十七度である。処置を行うには十分に間に合う温度だった。


 直ちに少年は臨時列車に乗せられた。

 ホシが警官に事件に関する情報を引き継ぎ、敬礼を交わすと、臨時列車は首都オカヤマへ向けて発車した。


 この少年が自分の命を奪おうとした事実は消えない。だが、だからといってこの少年の命が奪われて良いわけではない。忠志はほっと胸を撫で下ろした。

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