Episodes[18] // 死んだ人は帰ってこない


「おはようございます」

 

 忠志は笑顔を務めたが、心の中に錘が吊されているかのようだった。立ち止まれば心が締め付けられ、動こうとすれば心が引きちぎられそうになる。泣き腫らしたまぶたがひりひりとしていた。


 拘置所にいたころのアカネの気持ちが分かるような気がした。できる限りのことは行った。自分にそれ以上の法的責任がないことは分かっている。けれども、どうしても責任を感じてしまうのだ。


 一度しか話したことがない人物の死が、これだけ悲しいのである。少年の気持ちを分かった気でいたが、まったく分かっていなかったのだと実感した。もしこの場にコンピューターウィルスの作者がいたなら、冷静ではいられまい。


 そして、臨床経験のないホシにとっては、これが患者を亡くす初めての経験だったらしい。彼女は大好きなTofuoトフーオにも手を付けない。結局、朝食に手を付けたのは、その場にいなかったツバメとアカネだけだった。


「何遠慮するですか、朝食を抜いても死んだ人は帰ってこない、です! このだし巻き卵! 美味しい、です!」


 ツバメはモグモグとしながら、アホ面でそう言った。


 アカネはため息をついた。


「あの、少しは反省してください。あなたの不注意も原因ではあるんですよ……」


 ツバメは箸を落とす。


「えっ、私!? 私が悪い、ですか!?」

「そうです。ゲームだとか言って安直にプログラムを実行したのが不注意なのです」

「そうだった! 私が悪い、です! うわあああああん」


 ツバメは突然号泣した。

 そのあまりにも度が過ぎる泣きっぷりは、忠志がむしろ冷静になったほどである。


 忠志は、ツバメが少し落ち着いた頃を見計らい、口を開いた。


「今不注意を責めるのは、やめましょう……。今回の件も含めれば、ここにいる全員が何らかの不注意を冒した。裁くのは司法に任せて、今は前に進みましょう」


 すると、ツバメは突然けろっとして言った。


「ういっす! 頑張るぞい、です!」


 もしここにハリセンがあれば、忠志は彼女の頭に一発振り下ろしていたことだろう。


 朝食を終えたのち、忠志らは研究室で亡くなった警察少尉のデータの分析を始めた。

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