→サンシャインを庇う
遅れてサンシャインも顔を上げ、その姿を認める。
「頑張ったな。大丈夫か?」
かばうように立ちふさがる紫皇。
つかみ取った炎蛇の先端を
「可燃ガスを噴出するケーブルの先端に、着火パーツを改造した電撃針だ。もとの用途はファイヤーパフォーマンス、10m圏内に人がいない状態で使用しろと注意書きがあったはずだが」
握った拳の隙間から針のかけらが散る。
「はン、そがぁなこと知らんわ。そもそもからして
黙り込む紫皇。その顔がふっと
「……ああ、まぁ、もしかしたら、成りゆきによってはな」
最大限の
「ほぅか。そんなら死ねやあッ!」
パシュパシュパシュと連続する火花の射出。
その正確な目視も後回しに、紫皇はサンシャインを
「わ、わ、わ!」
「走れるか?」
訊ねるとサンシャインは混乱した様子でまくしたてる。
「スーツが固まって……!」
「一度デバイスのメニューから【
「……あ、ホントだ! ぅうっ?」
紫皇に抱えられながら脱力したサンシャインはすぐに背筋をピンとさせた。
「どうした?」
「こ、腰が抜けて……」
「そうか、怖かったな。もう安心して構わない」
「ぁ……」
共感は簡単で外しにくい会話パターンだ。相手の感情を理解していると伝えるだけで成立する。今はそれ以上の建設的会話にリソースを割く余裕がなかった。
「え、えっと、あれ、ぜんたい何なの? デバイスが勝手に試合を承認して……」
「
中華
「紫皇ぉ! おどれ姉弟子さまに
「うるっせえ、仕様だ!」
どうして組織の人間は自分に無理な命令ばかりするのかと紫皇は頭を振った。
このまま全力で走れば振り切ることは可能だろう。
だがおそらく商店街のまわりは祓巳の部下が固めている。その囲みを無事に突破できるかは分からない。それに――。
「待って、待ってよシノー! 逃げるのっ?」
「ああ、そうだ!」
「そんなの……っ」
サンシャインは訴えるように紫皇を注視している。
「……俺に、この状況を変える力はない。お前にも」
「っ分かってる、分かってるよ、けど……!」
紫皇の腕越しに背後をのぞいたその目から一粒の水滴が
「けど、それでもあたし……っそんな計算したくない!」
すがるように掴まる手、悔しそうにぎゅっと閉じられた
「っええい、くそっ、意味が分からん!」
これでは逃げきれない。反転し他の手段を考える。
プロジェクトを提起、再演算。
:要件数:86 [ALL GREEN], コスト:10423Plowatt [GREEN]
:不可逆の変更有
:現状においてもっとも妥当
プロジェクトを実行。
:Sunshine=Davis へのマスター登録を提案
「えっえっ、何このメッセージ?」
戸惑いデバイスの下で目を左右させるサンシャイン。
「実を言うと、俺は人と戦えない」
「へ? う、うん。それは、何となくそうじゃないかなって思ってたけど」
紫皇に最初から課された大ルール。
人に危害を加えない、それを見過ごさない、命令順守、自己保存。
「けどそれは優先度の問題でな。今はニュートラルだが例えば、嬢ちゃんが俺のマスターになってくれるなら俺はその保護を第一に行動できる」
「……戦えるってこと? ていうかニュートラルって未登録ってことよね?」
困惑したように問うサンシャイン。
「ああ」
「じゃなくて! なんでマスター登録されてないの? 誰のものでもないんなら、あんな奴らの言うこと聞く必要だってないんじゃないのっ?」
「《蜃気楼の夢幻郷》モジュールには制限があってな。一人で二つ以上所有すると古い方が自壊する。俺をよそから
ぐっと噛まれたサンシャインの下唇に、紫皇はまた泣くかと身構えたが
だがそこからの彼女の動きは予想を越える。
腕から飛び降りたサンシャインは、ふんっと腰に手を当てて立ち上がる。
「シノーは、戦わなくていい」
「……は?」
「だって! ずっと辛いの我慢してたんでしょう? けんかも出来ないのにあんな仕事させられて、失敗したら……っこれ以上苦しい思いなんかしなくていい」
「待て、お前何を」
サンシャインは怒る牛のように息荒く重心を低くする。
「あたし、あたしがっ……やあああッ!」
「待て待て待てえええっ!」
逃げてきた方へ駆け出した彼女を寸でのところで捕まえられず、紫皇の手は空を切る。
評価を改めなければ。彼女はおそらく熱血とかがむしゃらとか無鉄砲とか、でなければ馬鹿と呼ばれる性格パターンを持っている。
紫皇は全力で追いすがった。
「ハハハッなんじゃ
燃える廃墟の前では祓巳が待ち構えている。
背後から軍用ブーツらしい足音もいくつか聞こえてきた。包囲が近い。
「ええいくそ、嬢ちゃんの好きにしろ。俺はそれを守る」
「っ、うん!」
やむなしだ。どこまで出来るか分からないが少なくとも自分が壊れるまでは。
「→【
サンシャインの命令に
「【
祓巳の
「シノー、跳ぶわ!」
返事をする間すらもどかしく、前に出た紫皇は即座に反応した。
上方に迫る炎蛇を最優先に、拳で打ち払う。
そのわずかな隙間をぬって彼女は紫皇の陰から跳んでいた。
祓巳が笑みを深くし、腰のモジュールへ手をかける。だが。
「→【
その状態からサンシャインは宙を舞った。
脚甲の圧縮空気によるジェットが両足を後方へ跳ね上げ、前宙返りのように回転させる。
強化スーツは全身をバネのように引き絞り、その溜めを落下するかかとに集中させた。
「ゴッ……ぉあ……っ!」
白目をむいて天を仰ぐ祓巳。それを追うように体がぐらりと傾き、倒れた。
「……やっ、た? ぅ熱っ!? あっつい!」
尻餅をついたサンシャインが飛び上がる。火の消えたケーブルを下敷きにしたらしい。
念のため着火装置をかねる電撃針を踏みつぶしつつ、紫皇はその手をとった。
「平気か?」
「ひゃっ、う、うん! 大丈夫!」
腰回りをのぞき込むとサンシャインは慌てたように紫皇へ向き直る。
その向こうでピクリと、倒れた祓巳が身じろぎしたのを紫皇は視認した。
「危険だ!」
「ふえっ?」
同時、だらりとアスファルトへ投げ出されていた手足が地を掴む。
虎が飛び掛かるように弾けたその肢体に対し、紫皇はサンシャインを突き飛ばした。
「遅いんじゃ阿呆ウッ!」
祓巳のモジュールが寄せ木細工ように割れ、隆起した一部が柄の形をとる。
抜き出された青白い刃はあやまたず紫皇の背面中央を貫通した。
「ガヅッ――ゴ ザ―― !」
瞬間、全身で本来あり得ない電圧が感知される。
スタンブレード:放電機能をもつ刀刃によるものだと結論した時、紫皇の意識は寸断された。
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