第一章
→桃園鬼斧にて
ピンクのマニキュアも愛らしいその指先が、引き裂くようにカーテンを開けた。
防弾ガラスのむこうに
猫の
「
ぱんぱん、と幽苺は
何重ものフリルがめぐるスカートがふわりと広がる。
返事を待つあいだ両かかとは赤じゅうたんの床を叩き、
「何か用か?」
ノックの後、ドアから背の高い
男にびっ、と人さし指をつきつけて幽苺は花が咲くように笑った。
「あなたのお腹を切り分けてソーセージにしようと思うんだけど!」
「すまん悪かった。それだけは。バラすのだけは勘弁してくれ」
全身黒スーツ、サングラスまで整えた中年男の土下座だった。
幽苺はむうっと唇を
「悪かったじゃないでしょー? ねぇ、いー加減に地上げのひとつくらい出来るようにならないわけー? 頭さげるだけじゃなくてさぁー!」
げっしげしとその頭や腹部に叩き込まれる少女の木靴。
“幽苺のお部屋”と刻まれた白金プレートがドアと一緒にそっと戻っていく。
丸い窓の外に広がるのは彼女の
「あなたのおかげでナメられちゃうのよー。虫も殺せない腰抜けマフィアだってー。まぁ、言ったヤツの口はきっちり閉じさせたからいいんだけ、どっ」
クリスタルの灰皿が紫皇の後頭部へ直撃する。彼は微動だにしない。
「……すまん、次は努力する」
「次~ぃ? そんなものがあるかしらー? まぁどうしても今ツブされるのがイヤっていうなら考えてもいいけど、一緒だと思うなー」
古い服を捨てるか捨てないか、くらいのノリで少女は唇に指をあて思案する。
「頼む、チャンスをくれ。死ぬのは嫌だ。怖い」
「あっはハ、オッカし、紫皇ってばほんとミジメだから好き」
ありったけの調度を駆使して幽苺は紫皇を痛めつけたあと、
「いいよーでも本当に次はなし。失敗したらブチッ、ね」
何でもない風に指をつまんで見せた。
その言葉が比喩でないことを紫皇は知っている。彼女本来の破壊性にくらべればこんな暴力は遊びのようなものだ。
「努力する」
「はーいがんばれー。さってっとー、あーすっきりした、ふんふーん♪」
背を向けてステップを踏みながら幽苺は天井を見上げてくるくる回る。
その姿は父親の書斎ではしゃぐ娘そのままに見えた。
紫皇は立ち上がると、彼女を刺激しないようゆっくりと後ろ向きに退室する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます