Unknown：シノー＝ファベイラの花嫁

ー序ー

　ファンタジー映画でもVR：仮想現実（バーチャルリアリティ）でもなく。

　人が空を舞った。簡単な防具とボードだけで。

　わずか五分半の動画はしかし、久しく忘れられていた生身の肉体がもつ可能性を人々に見せつけるに充分だった。

　21世紀中ごろ、群発した大地震の傷跡も癒（い）えぬ極東の一都市での話だ。

　都道府県というくくりが形骸（けいがい）化し、どの友好国の経済圏に属するかで住民の生活は様変わりする状況。

　多くの自治体が海外企業に圧倒されるなかにあって、その街は奇跡的な共栄を果たした。

　『未来型環境都市（スーパーエコシティ）』『世界と繋がる技術の街』。

　そして《Cybernetics（サイバネティクス） Amakawa（アマカワ） Games（ゲームス）》。

　いくつもの代名詞を冠するにいたったその街は黄金期を迎えこう呼ばれた。

　不夜文明都市　天河。