→終盤戦へ

 二台の飛行バイクが交錯する。

 一方は黒く武骨ぶこつな軍用クアッドコプター。もう一方は目にあざやかなレジャーモデル。


「っりゃあ! 届いてっ!」


 パークトゥパーク、バロック様式で飾られた高級ホテルの前庭上空ぜんていじょうくう

 ひとつの風船バルーンをめぐって起こった競り合いは、伸ばした御幣:おはらい棒の差で〈パラ&サニー〉が制していた。


「Nooooゥ! やるじゃねえかお前ら、愉快ゆかいなナリしやがって!」

「ありがとう応援ヨロシク!」


 バンダナに丸太のような腕をした相手ライダーのくやしまぎれを聞くのもそこそこに、次なる標的をめざしてGembeeジェムビー-LTを駆る。


 すでにゲームは終盤戦に突入していた。


『さあ、参加者の皆様はポジションの決定をお願いします! すなわち、自らが冒険者、開拓かいたく者となって宇宙を目指すのか!? それとも有望な才能を後押しするスポンサーとなって一かく千金を狙うのか!? あるいは両方でも構いませんが、現状トップの参加者でもヒントをすべて見ることは出来ないと申し上げておきましょう!』


 ったタマゴを開くと黒い炎があがり、煙のように空へと吸い込まれていく。炎の中には小さな銀河が見えた。アプリによるAR演出だ。


「今ので何個め!?」

「12個!」


 サンシャインはタマゴのカラを座席下に放った。

 デバイスの片すみに固定した公式中継を見る。

 ランキングトップはマリー・ピアの33個。かるく倍以上の開きがあった。けで集めるポイントを含めれば更にどこまで伸びるか分からない。一方で自分たちは悪い意味で未知数だ。


『ではここからは各選手への投資とうし状況を含めて実況していきましょう。ヒントの開示まであと二分となりました。オッズの変化なども見ながら最後の決断をお願いします!』


 上位ランキングに表示された選手の獲得数ポイントが一気に伸びていく。途中からパフォーマンスでの勝負に切り替えたサンシャインたちはランク外だ。


「あーあー、あんなの出されちゃ大体はあっちに入れちゃうよ。マズいなぁ」


 げんなりと肩を落とすパラミラ。

 トップ20位まで表示されるランキングは、まるでこれが選択肢のすべてだと言わんばかりに大映しになっている。


「うわ、ヤンスの奴ちゃっかり入ってる! しぶとい!」


 サンシャインが何気なく見たちょうど20位にその名はあった。

 普段なるべく無視していても、こうやって数値で示されると何となく見上げるような気持ちになってしまい悔しい。


「あたしたちもちょっとは伸びてる、け、ど……?」


 デバイスに表示される二人の獲得ポイントはジワジワと増えている。それは上位ランキングの一部が数字を止めてからも続いた。


「お、お、これいけるんじゃない? サニー?」

「ジョーク枠なんだわ、あたしたち。本命にいくらか賭けたあと端数はすうをこっちに投げてるんだと思う」


 たまにゴソッと十個ぶんくらい増えるのは大穴おおあな狙いか物好きか。

 とはいえその上昇速度はランカーのそれにくらべてあまりに微速。

 ヒントの開示まで30秒を切っていた。


「遅くなってきた……あ、あ、駄目、止まっちゃう……!」

「見て! ランキングにったよ私ら!」


 15位まで順位をあげたヤンスの5つ下につけて20位。だが。


 1位 マリー・ピア 238個

15位 ヤンス    159個

20位 パラ&サニー 148個


 この時点でトップとは一回りの差があった。そして数字の上昇が止まる。


「あぁ、駄目だ足りない」

「……っ!」


 最終ヒントの開示率は集めたポイントで決まる。約100個の差がどれだけの情報格差となるか分からないが初動で不利になるのは間違いない。


「諦めない! 二人で考えれば効率はあがるわ!」

「……、そうだね、まだまだ」


 パラミラがうなだれていた頭を二度、三度と振った。

 その手を後ろからサンシャインが握る。と、その直後。

 締め切り寸前でランキングが書き変わった。


 4位 パラ&サニー 181個


「「……は?」」

『――え』


 二人の困惑と実況席の声が重なる。


『こ、れは――2位の宇宙総司令風ジョーンズ選手、まさかの全投資!? 直前までマリー・ピア選手とデッドヒートを展開していたハズですが一体どういう心境の変化か!? それを受け浮上したのは巫女ツインズ〈パラ&サニー〉!』


「何これなにこれどういうこと!?」

「あ、あ、あたしに聞かないで! あたしだって意味わかんない――!」

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