→視点:Cinooh=Favela
視界が欠ける。
二つの目のそれぞれの役割は人間とそう変わらない。位置の異なる左右から一つの対象を
「まあ聞けよ、シノー」
その機能を大幅に損傷させた張本人は、
「本来お前は出てくるべきじゃなかったのさ。チャイナマフィアなんかに使われた時点でな。一度泥沼にはまったヤツが
損傷の
それはぼんやりとした、広く浅いものだった。
「ついた泥は
サミュエルが銃を向ける。奇妙な、まるでカメラアイのような。
「
引き金にかけた指が動いた瞬間、紫皇は真横へと飛んだ。
ザガガッ――と右の聴覚が異常をきたす。強烈なノイズと電流の
「ああ、だから俺はまだ破壊されるわけにはいかない。ここではサニーが悲しむ」
紫皇は半身に
「指向性
「ご明察だ」
みたびその指が引き金を引く。
紫皇は
一気に距離を詰め、銃を奪おうと手を伸ばす。
その直前、サミュエルが片手で抜いた携帯灰皿からナイフの刃が飛び出していた。
「お前らみたいな化け物に、火器以外で対応するための
まるで
当然のように付与された電撃が周辺機能を
「ぐっ、あ!」
左
顔を上げたところで、残った右目を狙いつける発生器を視認する。
膝をついたまま、ボクシングのガードのように両腕で顔を
「あぁ、撃ったところで
立ちあがり態勢低く側面へ回り込むように走る。
頭の上下をわざと大きくし狙いにくくした状態で、腕の間から敵を
そこには誰もいなかった。
「――――、」
一瞬の思考。
煙のように消え失せた相手を探そうと、ほんのわずかに視界を広げた
右のこめかみへ、真横からそれは突き付けられていた。
「――けどよ、その
チチッヂヂヂヂヂッッ!
「オ ああア アア ッ!」
干渉の波は頭部をおおかた
頭部には人間の五感にして触覚以外のすべてのセンサー系が搭載されていた。それらことごとくがブラックアウトする。
いなかったはずだ、そこには。確認するように右側へ腕を振るうもやはり拳は何も
かろうじて無事だった左耳が、その声を拾っていた。
「【
棒立ちは危険だと走ろうとした矢先、その足が
前に転倒し、
「お前の同類だよ、《
透明化だ、と紫皇はおそらくの正解に至る。
その正体は多機能
閉鎖された展望室に突然現れたのも、あらかじめ隠れていたというのが真相だろう。
背中が強く踏みつけられた。
「誰だかのために死ねない、なんてのは
頭上から降るサミュエルの声。
「お前みたいなのは基本、生きてるだけで
――ああ。
「……そう、俺も思ったんだが」
「あん?」
駄目だ、出来ない、それだけは。
「壊れた俺を見て、サニーは泣いた。とても泣いて、怒って、落ち込んだ。もうあんな思いはさせたくない。それが俺にできる最後のことだ」
両手両足で地面を
【 Enable:《星呑の蜘蛛》Bonus
Downloading drivers “Spiderweb”… 】
ざくりと手の甲にスタンブレードが突き立った。
力が入らなくなり、ふたたび顔が床へつく。
「で? だから死にたくねえってか。結局そこだろ、自己保存に大層な
ゴリ、と後頭部へ発生器が押し当てられた。
「お前は人のことなんざどうでもいいんだよ。気持ちよく生きて死んで、それがちょうど人間に
その言葉は、まるで欠落した倫理を
ああ、きっとそれは当たっている。自分は、機械はどこまでいってもそういうもの。
「
見も知らぬ誰かのために、とはもはや思えなかった。だが、ああ。
彼女を不幸にしたくはないと考えた。考えてしまった。
そのためならここで壊れることも仕方がないと。
狂っているというのなら、いっそ振り切ってしまえばマシだったものを。さらに重ねたジレンマに、感情値は今にも叫び出しそうなほど乱れている。
「
直後。放たれた電磁波は今度こそ完全に紫皇の頭部回路を弾けさせた。
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