→■■■を抱えて跳ぶ
入り口を吹き飛ばして現れた
――ヒュゥッ
直後、横合いから飛んできたスタンブレードを人ではありえない反応精度で飛びのいて避ける。そのまま壁に取りつくとロッカーの上を走りぬけて部屋の奥へと着地した。
「へえー、そういうことするんだ。やっぱり紫皇ってー
「っ、ぐえっ、げほっ、ごっほ」
強引に引きずりだされ投げ飛ばされて
――それでもあたし……っそんな計算したくない!
――あなたは確かにロボットだけど、もっと新しい何かになれるってあたしは思うの
――ロボットは命令に従わなきゃ意味がないなんて、決めつけなくていいと思う
「“俺はこれまで自分のことを、人を傷つけず自分が壊れず、そして人の命令に従う為に動作するモノだと思っていた”」
そう、そうだ。こんなにも大きな欠損だった。忘れるべきではないことを、自分は忘れていた。
「”だがそれだけって訳じゃなさそうだってことに気付いた。さっきの感謝のメッセージを見た時、俺は《嬉しい》と感じた”」
「何を……」
誰へともなくあふれだす言葉に、幽苺が
連鎖的に記憶が、言葉が繋がっていく。
再現された感情パターンが《怖れ》を塗り替え、かつての波形を取り戻す。
[Download completed “
:《朗読する》ことによる
:またその《感情値》へのあらゆる加減乗除を2倍から100倍する
いつの間にかそのログはあった。
ただ情感を込めて読む、それだけの
英雄譚なら勇ましく。悲劇ならば切々と。
誰かを励まし、楽しませ、慰める。そんな未来を希望した彼女の願い。
「“俺は、何をするために造られたんだ?”」
いつかのままに自問した紫皇に幽苺が眉をひそめながらも
「あハッ、そんなの決まって――」
「” ――決まってるわ! 幸せになるためよ!”」
「――、」
嘲笑が固まる。紫皇から発せられた、彼ではない誰かの声に。
「“俺は”――“サニーの考えを分かりたい”」
ギリィッと歯の削れ軋む音がガスマスクの奥から響いた。
「……くだらない。くだらないくだらないばかバカ馬鹿! そんな
激昂と同時、マシンガンが
紫皇はサニーを
「”危険だ、逃げるぞ”」
へたりこんだヤンスに言うより早く、彼は廊下へ飛び出していた。
「クソがあっ! 何だよ、なんなんだよっ、ふざけんな変態ども!」
「……」
いまだ薄く煙る中を駆けだしたその背中と逆方向へ紫皇は走る。
罵倒されたことは分かったが何より先に安堵があった。人が傷付くことは嫌だ。例えサニーでなくとも。そんなことさえ《怖れ》に支配されて忘れていた。
「逃がさないッ!」
大蜘蛛が壁を飛んで迫る。
絶え間なく床が撃たれて弾け飛ぶ音がする。それは時どき紫皇の足や背中を
ロケットグレネードの射出音が複数。
「く、ぐ、お、お、おおオオッ!」
全身を
「―― 、 ――!」
叩きつけられ
三階へ続く階段の陰に這い入ると、抱えた大事なものをあらためた。
「“サニー”」
変わらず意識はないが息はある。
だというのに感情値の波形は苦しく悩ましかった。
アンジェの言葉がフィードバックする。
――あなたが感情に従うことでその
ああまさに、あの言葉は現実になっている。
自分の不十分で衝動的な行動のせいで今、彼女は命の危険に瀕している。
――だからアクターになろうって決めたの!
――それに素敵じゃない? どんな形であれ人の役に立てるって。
あの輝きが失われる
なぜ彼女が、という思いと、そんな未来は絶対に認めたくないという思い。
それを総括してなんと呼ぶのか、今の紫皇に知るすべはない。
眉を
爆煙が晴れるまであとわずか。
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