→視点:Cinooh=Favela

 中央広場セントラルエリア上空では、ドローンが追う参加者たちの映像が次々に映し出されている。


『さて、いきなりのビッグネームに少々ゲームがまれてしまった感がありますが……注目のアクターといえばこの人もそうです。新進気鋭のバッドボーイ! Rank-DのDはダークホースのD! ヤンス=K=バッツ!』


〈クソクソクソ! 俺より先に目立ちやがってあの女ども! せいぜい下で吠えてろよ、トロフィーは俺がもらってやる!〉


『はい、飛行中にもかかわらずカメラ目線のポーズありがとうございました! 多少バタついているのは構造上しかたがないことなのです。むしろ見上げたサービス精神! 看板娘ちゃんはどんな男の子がタイプですか?』

『ふぇっ!? え、っと、お、大きくて、頼もしい人がいいなって……』

『はい可愛い! お客様の中に該当者はいらっしゃいませんか!? プラムストリートを行くようですヤンス選手。あっとカメラが別選手に切り替わりま……うわあああ!?』


〈……コー……ホー……〉


『ベ○ダー卿です! 某古典SF映画の悪の総司令が直立姿勢で飛んでいます天河目抜めぬき通り! 空飛ぶ足場はさながらプロト版デス○ターか!? というかこれ放送的にアブないやつなんで画面切り替えてください!』

『これ知ってます! ダースベ――』

『待って! 今ちょっとだけ純粋さを引っ込めてね看板娘ちゃん! これもお仕事だから!』


『……えー、続きましては中央広場。ここではまさかの機械化歩兵きかいかほへいで参加のチーム名:《ブラックアウト》、巨大なロボットアームで見事なバルーンアートを――』


 そこまで聞いて、紫皇は窓から離れた。

 封鎖され人気のなくなった管制タワー“アメノヌボコ”の展望スペース。

 骨組みから壁や床にいたるまで、すべてをガラスで造られた建築学のすい

 紫皇がここにいる理由は、おおよそ三時間前にさかのぼる。


§      §      §


率直そっちょくに言おう。ここは危険だ」


 朝早くに第13研究室を訪れたマリー・ピアは開口一番そう言った。

 寝袋に包まった状態のままい出したアンジェが哀れをさそう声で訴える。


「危険なのはワタシの生活習慣です……お医者にまでちゃんと寝ろって言われてるんですよ。あぁ、こんなことならニューヨークでギター弾いて暮らしとくんでした……」

「お前の人生の選択ミスなど聞いていない。五分と取らせないから起きろ」

「はい、はい……すぅ……」


 うなずきながら再入眠するアンジェ。その枕もとに立ったマリー・ピアは一切を無視して話し出した。


「現在ここは我々がにらみをきかせているが、その目が離れるのを待ってヒューマノイドの身柄をおびやかそうとする勢力がある。ついては一時的にそれを預かりたい」


 もぞもぞと頭の半ばまで寝袋にもぐってうごめいていたアンジェが、胸元からようやく取り出した片眼鏡をかける。


「…………それが建前たてまえで、彼を早々に略取りゃくしゅすることが目的の可能性は?」

「私は手段を選ばないが、それは自らを卑劣とののしらずに済む範囲でのことだ。第一、お前もサンシャイン=デイビスの母親もわが社の系列だろう。奪うならもっとスマートな方法がいくらでもある」

雇用こようを盾にした強要は卑劣ではないと……?」


 ぶるっと寒さ以外の何かで身を震わせたアンジェはしばらく考え、声をかけた。


「あなたは、どう思いますか。シノー」

「行こう」


 いくらかぶりに目を開いて紫皇はこたえる。


「彼女に害意はないと思う。それに離れるなら早いほうがいい」

「…………確かにそう、ですね。わかりました」


 微妙な表情でアンジェは同意した。

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