喋っていたら舌を噛むぞ!
創作の中の戦闘場面では、敵に対して、あるいは味方同士で言葉を交わす場面が見かけられる。
別にそれは構わないのだが、時々私は思うのだ。
――そんなに喋っていたら舌を噛むぞ!
実際、武道武術の試合に於いて、気合声以外の言葉を発している選手などいない。もちろんルール上私語厳禁を定められていることもあろうが、そうでなくとも真剣勝負の最中に話しかける輩はおるまい。
話をするということは、頭の中で会話を考えるということで、それはつまり意識が目の前の相手から逸れている。なんという油断か。
とまあ、そんな現実的なことはさておき。小説で戦闘を書く中で一言のセリフもないのは書き手も辛いし、読み手も辛い。
それに私自らが「適度に手を抜く」の中で「間を入れよ、会話もその一つだ」と述べたではないか。
正直なところ、私はこの辺りをほとんど感覚で書いていた。しかしよくよく考えてみると無意識の中にもある程度のセオリーがあるようだ。そこで今回は、それが正解かどうかはさておき、私が戦闘場面に会話を混ぜる際の留意点を書き連ねてみることにした。
……長い前置きだ。
先に述べた通り、戦闘中に長々と言葉を発していれば舌も噛むし集中も途切れる。そこで、「一つのセリフはたった一言だけ」にする。
「このっ!」「せやっ!」「うわっ!」「えぇい」「なにをっ!」「小癪な!」「バカなッ!?」
このような極々短いセリフにする。ほとんど感嘆符だ。これらの言葉はほとんど思考を伴っていない反射的な言葉だ。ゆえに、登場人物らの集中力は未だ眼前の戦闘に向いているといえる。
それでいて段落を区切る口実ができるので、長く続いた場面描写に一区切りを入れることができる。
さらに言うと、私はその前後に局面の変化を入れる場合が多い。これらの語を発する前と後では優勢劣勢が入れ替わるのだ。
主人公が優勢だったのが、「ばかなっ!」で劣勢に陥る。そこから追い詰められ、あわやのところで「うりゃぁ!」と起死回生する。
もう少し長いセリフ、意味のある一文を喋らせたい場合もある。しかし彼らは戦闘中なので、一手と一手の間にそれだけの言葉を一気にまくしたてることはできない。そうなると、きっと言葉を発しながらも攻めの手を繰り出しているに違いない。
そこで「読点」を使う。そのキャラが発する一文に含まれる読点に区切られた語句の数だけ、そのキャラに攻めさせる。
具体的なわかりやすい例を挙げる。
「君がッ、泣くまで、殴るのをやめないッ!」
元ネタがわかった方は理解できたかと思うが、そちらではセリフに合わせて三回相手を殴っている。この一文に含まれる読点区切りの語句も三つ。一語句を発する間に一回攻撃した勘定だ。
文章の場合も同じだ。このセリフの後には三回分の攻撃描写を入れる。この数は極力増減させてはならない。増えた/減った分の攻撃がどの瞬間に行われたのか、リズムが崩れて読者が混乱してしまう。
描写の際には語句の長さに合わせた描写をする。この場合、一発目二発目よりも、三発目を大振りにさせる。大振りにしたからこそ長めのセリフが言えるのだ。
これはセリフの主が一方的に相手に対して言葉をぶつけながら攻める場面に多用する。相手の答えなど待ってはいない。押して押して押しまくる場面での用法だ。
言葉のやり取りをさせたい場合。戦闘とは互いの意思のぶつかり合いでもある。己の信念や考えを相手に説き伏せながら戦う場合もあるだろう。
とはいえ、既に何度も述べたように、戦闘中にだらだらと言葉を連ねる輩はいない。そんな暇などないのだ。
が、意外にもある瞬間ではそれが可能だ。それは「技を繰り出す瞬間」と「防御した瞬間」だ。
そんな一瞬で言葉を発するなど本来ならばできない。が、技には予備動作というものがある。その予備動作の間に喋らせる。受ける側もそれに応じて防御の姿勢を取る、その瞬間に話させる。
つまり流れとしてはこのようになる。
「お前があの時ああしていれば!」と攻め手が大きく武器を振り上げる。対する相手は「今さらどうこう言って何になる!」と言って下から斬り上げる。直後、互いの武器が接触して火花が散る――。
予備動作が大きな技であればあるほど、セリフを語らせるチャンスが大きくなるというわけだ。
もっと長く、例えば二文も三文も語らせたい場合は?
互いに距離を取り、次の攻め方を思案している相対の瞬間。これを利用する。両者が向かい合いながらも動かないのは間合いが離れているからであって、間合いが離れているということは攻めに転じるまで一瞬の余裕がある。そのような状況であるならば、会話にいくらかの思考を割いていると考えても不思議ではない。
ただし少し打ち合っては離れ、少し打ち合っては離れを繰り返しているとダレてしまうので注意がいる。
最後はほとんど反則技だ。同じく二文も三文も語らせたい、会話を何度も往復させたい場合。私はそのようなとき、読者の想像力にすべてを任せてしまう。
すなわち、求める会話をさせた後に「二人は言葉を交わしながら数十合を斬り結んだ」と書いてしまうのだ。
「なるほど、数十手も技の応酬が繰り広げられていたのならば、先の長い会話も可能だろう」
読者はそのように思いながら、各自でその数十合を補完してくれる――と、私は期待している。実に横着で他力本願である。一応、どのような技を主に繰り出したのか列挙して想像を補助してやったりもする。
しかしこちらも使いすぎには注意が必要だ。
要するに、戦闘はほんの一瞬の駆け引きが重要。その中で言葉を交わすなら、その間にキャラの思考が戦闘以外に逸れない(と読者が見なすことができる)ことが大事なのだ。
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今回のネタはtwitterにて乙島 紅さん(@Beni_Otoshima)よりいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
……これで参考になるといいなぁ。
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