千変万化の技

 一撃を繰り出す。躱される。

 一撃を繰り出す。受けられる。

 一撃を繰り出す。当たるが効かない。

 一撃を繰り出す――より先に反撃される。


 この戦闘、何が敗因であろうか?

 答えは「単調さ」だ。武術的にも、そして文章としても単調に過ぎる。


 最近は中学高校の体育で「武道」をやるそうな。私は元より柔道部員だったので、柔道以外の選択肢はなかったが。

 さて、その授業ではいくつかの技を教える。背負い投げ、体落とし、大外刈り、小内刈り――などなど。

 そうして最後には試合形式で組み手をやるわけだが、経験者と初心者ではまったく攻め方が違う。


 初心者は先に述べたような限られた技しか知らないこともあり、技が連続しないのである。例えば背負い投げを仕掛けようとしても、経験者側が少し体を動かしてこれを破ってしまうと、無理に持ち上げようとして動きが止まるか、あるいはまた元の組み手に戻ってしまう。

 一方の経験者側はと言うと、二手先、三手先までの「連続した技」で攻める。

 例えば先の背負い投げが決まらなかった場合、即座に身を転じて小内刈りやきびす返しに転じる。大外刈りが決まらなければ体落としに転じ、更に決まらなければ大内刈りに転じる。

 決して一つの技に固執したり、早々に諦めて仕切り直そうとはしない。「攻撃は最大の防御」ということもあるが、攻め続ければ続けるだけ相手の体勢が崩れていくためでもある。

 先の例えで言えば、背負い投げや体落としは相手を「前に投げる」技だ。そして大外刈りや小内刈りは「後ろに倒す」技である。

 人間は突然前方向に引っ張られれば、無意識にそれに抗って後方へ仰け反るだろう。そこへ突如として後方へ押し倒す力がかかったらどうだろう? 為す術なく転倒するに違いない。

 柔道の連続技はおおよそこのように「前へ後ろへ振り回す」ように繋がっている。


 もう一つ具体例を紹介しよう。今度は上下の攻めだ。

 例えばまず足元を踏みつける。これは「死角を取る」で紹介した。相手はつんのめるか、痛みで思わず下を見下ろすだろう。その下がった頭部を膝で蹴り上げる。次いで、空いた胴体へ拳を突き入れる――。

 あるいはむしろ、頭が下がったところでさらに肘で後頭部を打つも良い。相手が怯んでいるのならば同一方向に攻め続けるのも悪くない。ただ相手が怯まず防御が硬いと無意味であり、また力押し感も否めなくなってしまうが。


 武器の場合は、例えば斬撃振り抜いた姿勢からの刺突への変化など有用だ。延々と斬りつけるのではなく、途中で異なる用法を混ぜるのだ。


 起点となる技、使う技が同じでも、それに続く技が変われば相手が取るべき対応も変化してくる。

 技の繋ぎ方によって戦闘は千変万化するのだ。

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