【体験レポ】戦国体感セミナー 刀編

 午後、着替えて外へ。

 まだ五月だというのに気温が30度を超えるだなどと、いったい誰が予想していただろうか。というわけで水と塩タブレットも忘れずに。


 まずは全員で甲冑を身に着ける。甲冑といっても鉄製ではなく、強化プラスチック製。軽く、しかし丈夫である。何しろこれで打ち合うのだ。

 剣道の防具とは構造が違うので付け方も違う。そもそも剣道防具に背面はない。まず脛当てと小手を着ける。小手は他人に結んでもらう必要がある。胴当てと背面を腰の位置で結び、片方の肩当てを仮結び。これを上から被るようにして装着し、左右の肩当てを再度結び直す。

 腰に巻いた帯へ短刀を挿し、太刀を吊るす。最後に陣笠を被れば足軽が一人完成だ。


 短刀と太刀はもちろん本物ではなく、ダンボールを巻いて作った紙製である。


 そのダンボール刀を使ってまずは構えの練習。

 戦国時代の刀は片手用で、柄も短い。完全な半身になって、切っ先と肩で相手を捉える。私はついつい双手刀の形になってしまい、意識しなければ胸を相手に晒しがちになっていた。下半身はやや後ろの足に重心を寄せ、腰を落とし腹を引いた、中国武術の虚歩に若干似た形となる。腹を引いて猫背になるという部分だけ見れば、西洋剣術にも通じる部分がありそうだ。

 踏み込みは後ろの足を前の足、踵近くに寄せ、そこから前の足を踏み出して斬り込む。受け側はその足が動くのを見て距離を取る、あるいは攻撃を躱して小手を狙う。

 足を見て小手を打つ。これが基本戦法となる。


 実際のところ、刀はほぼ合戦場では使われなかったそうだ。

 槍よりも間合いが短く、組み打ちとなれば刀よりも短刀を突き刺したほうがはるかに容易であるからと。

 もしも刀を抜いたならいち早く相手の頭をかち割ってやるしかなく、間合いに入れば滅多打ち、生きるも死ぬも考えずただひたすらに「殺す」を念じて攻撃するのだと。


 ――というわけで、これから皆さんに殺し合っていただきます。

 という発言はなかったが(おい)、そのような趣旨でチャンバラ合戦を行った。これはダンボール刀でも全力で振るうとさすがに痛いので、スポーツチャンバラ用のスポンジ刀を使う。

 甲冑の赤色と黒色で二陣営に分かれ、10人ずつの団体戦だ。


 ルールは簡単。腰帯にプラスチック板を差し込み、これに洗濯ばさみを挟む。これを叩き落されるか、あるいは自身の刀を取り落とすと負けである。


 さて古月、これにいきり立たぬはずもなく。

 ホラ貝の合図が鳴り響くや、「日ごろ鍛錬した剣技、今こそ試すとき!」とばかりに飛び掛かる。






 結果: 惨 敗






 自ら打ち込んだ瞬間に刀を落とすという、文字通り「惨めな敗北」であったとさ。


 しかし実際、腹の位置にある洗濯ばさみはなかなか狙いにくい。腕が邪魔であるし、打ち込んでも腹を少し引っ込めれば当たらなくなる。あれは洗濯ばさみよりも小手を狙い打ったほうが効率的だったのではと後になって思い返す。


 初戦を勝ち抜いた猛者によってさらに乱戦が繰り広げられ、結果四人が生き残る。なんとうち三名が女性であった。これは偶然か、あるいはなにか理由があるのか。そればかりはわからない。


 このチャンバラ合戦を区切りに刀の実技は終了。いったん休憩である。

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