間合いの駆け引き

 圏境けんきょう、すなわち間合いを測ることは手合せにおいて重要だ。

 当然のことながら、遠すぎては当たらない。かと言って近ければ良いと言うものでもない。既に相手に触れ合うほどの距離から、果たしていかようにして拳を突き出せば良いのか。寸勁すんけいでも会得していなければかなり難しいことだ。


 すなわち、敵と対峙するにあたって「間合いの駆け引き」とは戦況を大きく左右する重要な要素だ。

 両者全速力で駆け寄って激突――という展開も悪くはないが、毎度考えなしに突っ込むのもいかがなものか。


 間合いには種類がある(あらかじめ言っておくが、分類と命名は私が勝手に行ったものだ)。


 まず「届かない間合い」。相手と自分とが離れすぎており、すぐには接触しない距離だ。この時点では攻撃に出ず、じりじりと距離を詰めて次の段階へと入る。


 次の段階とは「一足一刀いっそくいっとうの間合い」である。これは剣道用語だ。一歩踏み込めば相手を打ち、一歩引けば逃れることのできるギリギリの間合いを意味する。

 イメージとしては剣先がカチカチと触れ合っているぐらいの距離だ。徒手ならば少し手を伸ばせば相手の構えた拳に触れる距離になる。


 さらに接近すれば「懐の間合い」となる。それ以上踏み込まずとも相手に届く距離だ。徒手では拳が相手に触れており、剣劇では間近で白刃が煌めく。「一足一刀」から一歩踏み込んでこの間合いに入り、同時に一撃を与えるのが理想となる。

 一方で、この間合いに居続けるとなれば攻撃も防御も難しくなる。既に踏み込んだ状態にあるため、攻撃するにはいわば「助走」が足りない。拳を突き出そうにも十分な加速を得る前に相手に当たってしまう。剣を振るおうにも取り回し辛い。防御もまた然りだ。


 最後は「接触した間合い」。ここまでくると完全に互いの胴体が接触している。剣劇であればお互いの息が吹きかかる距離で鍔迫り合いをしているような場面だ。

 この間合いも「懐の間合い」と同様、攻防どちらも難しい。が、実のところ足払いや体当たりを浴びせて体勢を崩したり、あるいは掴みかかって関節技や投げを打つなどの手段が増える。


 当然ながら、これらの間合いの距離は徒手であるか、剣を手にしているか、あるいは槍などの他の武器を手にしているかで変化する。

 槍は知っての通り長柄兵器で間合いが広い。槍の繰手にとっての「一足一刀」は剣にとっての「届かない間合い」である。よく「槍は剣に勝る」と巷で言われるのはこれが所以である(とは筆者の言)。先に間合いの利を得ることができるのだから攻め易いは当然だ。

 ところが、剣が「一足一刀」に入れば槍は「懐の間合い」だ。状況は一転する。これが間合いの妙である。


 いかにして「一足一投」を取り、同時に相手にとっての「届かない間合い」または「懐の間合い」に立つか。

 この間合いの争奪もまた戦闘を面白くする一因となるだろう。

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