間合いの駆け引き その二
相手の間合いに取り込まれたなら、もはや為す術はないのだろうか?
いやいや、そう簡単に諦めてはいけない。方法はある。間合いに適した技を使えば良いのだ。
前回「手にした武器で最適な間合いは変化する」といった内容のことを書いた。つまりは、状況に応じて最適な間合いに合わせることができるなら、勝負は既に手中にあると言えるのだ。
具体的な例を示そう。
拳での突きを最大の威力で相手に当てるなら、最適な間合いは間に一歩の距離がある状態だろう。踏み込みも加味すれば一歩半か。
これが懐の間合いにまで接近してしまうと、拳は十分な加速を得られず十全の威力を発揮できない。
ここで思い出してほしい。「武術たるもの全身を武器とする」ことを。
例えば、肘を使った打撃は半歩ほどの距離でこそ最大の威力を発揮する。しかも、相手に近いということは、それすなわち「予備動作が短い」とも言える。
拳を用いる場合の「一足一刀」は一歩半かも知れないが、肘を用いる場合の「一足一刀」は一歩ないし半歩の距離であるわけだ。
次いで武器を持つ場合を考える。これについては北野武監督・主演の「座頭市」が実に参考になる。
凄腕剣士の若侍と座頭市が初めて出会う場面。二人は互いが腕の立つ相手と悟るや、間に一歩の空間を挟んで刀を抜く。しかし若侍が柄を握って僅か数寸を引き抜いたところで、座頭市の仕込み杖はすでに彼の胴を撫でていた。加えて、若侍の刀は座頭市の体に阻まれそれ以上引き抜くことができなくなっていた。そして座頭市は言う。
「こんな狭い所で刀そんな風に掴んじゃダメだよ」
終盤、二人は再び
若侍は前回の教訓から座頭市と同じ間合い、すなわち十分に接近してからの間合いで、自らも逆手の刀捌きで応じる腹積もりであった。
相対する二人。まだ互いの間には距離がある。ところが、座頭市は突然仕込み刀を順手で引き抜くと、そのまま踏み込まずに斬りつけた。若侍は驚愕すると同時になんとか一矢報いようとするが、その間合いは逆手の刀では遠すぎる。剣先がわずかに座頭市の肩を撫でただけで勝負はついた。
若侍は二度の勝負に臨み、その両方で間合いの優勢を掴めずに敗北したわけだ。
武器の間合いはこのように「持ち方」で容易に変化する。徒手よりもさらに変幻多彩だ。
もしもあなたの小説の登場人物が常に同じ間合いで戦っているようであれば、その間合いに適さない武器や技を使う相手を出せば容易に強敵となり得るであろう。
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