一撃は大砲の如く

 海外の何かの番組だったろうか。「最も威力のあるパンチを繰り出すことのできる格闘技とは何か」を特集していた。

 私としては「それは格闘技そのものではなく、実際に拳を繰り出す本人の力量次第ではないか。それに一撃必殺を旨としない格闘技もあるだろうに」と思ったものだ。案の定と言うべきか、中国武術枠は大した値を出すことができなかった。


 閑話休題。

 さて、威力のある突き――表題の通り、「大砲の如き一撃」を繰り出すには何が必要だろうか?

 そのまま大砲の比喩で言うならば、まず打ち出す砲弾が必要だ。これは拳に相当する。

 次にその砲弾が加速するための砲身が必要だ。これは腕に相当する。

 砲弾を打ち出すには強力な火薬が必要だ。これは筋力に相当する。

 ――これですべてだろうか?


 いや、ここで忘れてはいけないものがある。それは「土台」だ。

 如何に立派な大砲でも、土台が無ければ狙いを定めることも、発射時の反動を受け止めることもできない。

 突きの場合も同様、土台たる足腰の踏ん張りは一撃の威力を大きく左右する。拳が相手に触れた瞬間こちらが揺らいでしまっては、その威力などたかが知れよう。


 カンフー映画の修行場面で、足を大きく広げて中腰になり、その太腿や肩、頭の上に水を張った碗を乗せ、師匠が「数時間はそのまま動くなよ」と鬼畜の如き無理難題を申し付ける光景を見たことがあるだろう。

 あれは極端であるとしても、実際の武術の入門者はやはり「立ち方」を覚えることから始める。中国武術ではそれらの立ち方を「把式はしき」と呼び、一連を繋げて「五歩拳」などの形式で体に覚えさせる。

 ちなみに私はその過程で、映画さながらに「では馬式のまま十分ね」と苦行をやったこともある。あれはかなり辛い。


 ともかく、武術において「立ち方」は重要だ。攻撃の要だ。

 ――逆説、足元を崩されると形勢はたちまち悪くなる。殴りかかろうと踏み出した足が何かに躓いてしまったなら、その拳はネコにも劣ろう。

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