【体験レポ】令和元年度富士総合火力演習(前編)

「抽選枠で当選したから行ってみよう」


 などという軽い誘いを受け、2019年8月25日に自衛隊の富士演習場にて開催された「富士総合火力演習」、通称「総火演そうかえん」を観覧しに行った。

 一般開放された自衛隊演習の中ではもっとも大規模であり、使用される実弾数も群を抜いているとの話だ。最新の装備もお披露目されるということで、軍事方面に関心の深い諸氏においては垂涎のイベントに間違いない。


 今回はこの総火演がどのようなものであったか、メモ書き程度に記そうと思う。

 以下、注意点。


・本当に個人的なメモ書きです

・武術はおろか武力に関してもほとんど内容がありません

・筆者は軍事方面に関してまったくの素人です


 それにしてもこの総火演、会場に着くまでからしてすでに大変だ。

 私は電車を乗り継いで向かったが、国府津こうず駅で御殿場線の列車に乗って出発待ちをしていたところ、都心方面からやってきた参加者と思しき乗客が大量に乗り込んできた。

 御殿場駅に到着したのは8時ごろ。都心から乗り継いできた場合はICカードの管轄区域をまたいでいるため、駅員による清算処理が必要になる。これがすでに行列をなしているため、あらかじめチケットを購入して乗車するのが無難と思われた。

 会場まではこの御殿場駅から臨時の直通バスが運行されているのだが、駅の外に出るとすでに長蛇の列。最後尾を目指して歩いたところ、なんと駅から300m近くも離れたところにあった。乗車賃は大人の往復で1,100円。バスに乗車できたのはそれからおよそ一時間後、9時を回ったころだった。


 バスはおよそ30分で会場手前の広場に到着。会場まではそこから坂道を上る。それなりに朝の早い時間帯から行動を開始したつもりだったが、この時点で演習開始まで残り30分を切っており、すでに大勢の観客が会場入りしている。いったいどれほどの人間がいるのだろうか。数千人、あるいは万にも達するのだろうか。


 手前のテントで当選ハガキと入場券を交換し会場へ。この入場券には区分によって色分けがあるようだ。スマホのカメラで撮影しようとすると自衛隊Twitterアカウントへの二次元バーコードリンクが読み取られるという罠付き(別に罠ではない)。


 会場はA~Eのエリアに分かれ、A~Cがほぼ演習場の正面に位置する。それぞれのエリアには「前面シート」と「後方スタンド」がある。

 今回私はエリアEのシート席中ほどに位置した。緩やかな斜面になっており前方に座る人の頭で何も見えない、ということはない。両端はモニターが見えやすいので解説がよく見える反面、反対端の動きはよく見えない。戦闘車両の車体が土山に隠れてしまうこともあった。

 シート席は本当に砂利の上にシートを被せただけで、ここにそのまま座ると尻を汚してしまう。そのため自前のレジャーシートが必須だ(なのにどこにも事前案内がない)。私は前情報からレジャークッションを持ち込んだ。


 演習は前段と後段、それぞれ一時間ずつ。定刻通りに開始された。

 前段では順番に現行装備から最新装備まで順番に登場し、各装備が二、三回砲撃を行う。最初は口径の小さい砲弾や機銃を使って演習場最奥の山肌、三段山と二段山を狙う。


 最初に登場したのはボートのようにトラック後方にけん引された155mm榴弾砲。切り離し後、数名の隊員により発射準備が整えられる。

 これに遅れる形で99式155mm榴弾砲が登場。キャタピラを備え、見た目はいわゆる戦車。自走式なので停車するとすぐに発射準備を整えられる。


 まずは99式155㎜榴弾砲による砲撃。

 放送で発射命令が出されると一斉に連続して砲撃を行う。発射から5~10秒ほど遅れて「弾着ー、今!」の宣言があり、直後に空中で火炎が炸裂。それから遅れてドーンと着弾音がやってくる。カメラを構える場合は弾着宣言の途中から連射すると良さそうだ。

 着弾目標地点はモニターに映し出され、白煙の上がる様子はそちらでも見て取れる。


 これら砲撃を行う装備は始め緑旗を掲げているが、砲撃の順番が来ると赤旗を掲げる。なので赤旗を掲げた車両があれば皆そちらへカメラを向ける。砲撃の指令が放送にて発せられると直後に砲撃を行うのである。


 19式装輪自走155mm榴弾砲は近く配備予定の最新装備だそうだ。大型トレーラーほどの車体が荷台相当部位に巨大な砲身を搭載している。従来の99式155mm榴弾砲より全長が長く、キャタピラではなくタイヤを備えている。

 今回は見せるだけで実際の射撃は行われなかった。来年度以降は実弾発射が披露されるかもしれない。


 榴弾砲が撤収すると、入れ替わりに輸送ヘリCH-47が登場する。前後にプロペラを備え一度に55人を運ぶことができるものだ。これから降り立った車両が前線に120mm迫撃砲をけん引して配備する。

 さらに入場してきた車両から降りた部隊は分解していた81mm追撃砲を設置する。


 ここで赤と青のヘルメットを付けた隊員が見えたが、聞いた話によると赤が実際の運用をする隊員(全員ではないので部隊長だけか?)、青はそれを監視する監督官であるという。

 砲撃命令が下ると赤旗を掲げ、振り下ろされた組から順に発射。前方の土壁で爆炎が上がった。


 次いで指向性散弾の爆破。敵の歩兵部隊を観測機器で感知し、遠隔で爆破する地雷のようなものだ。会場の端に設置された風船群を敵歩兵に見立てて破裂させた。


 スナイパーによる狙撃。800m先に設置された車のハリボテ、その運転席を狙う。ただでさえ人一人見つけるのも苦労する広大な演習場で、スナイパーはカモフラージュ用のコート(?)を着ている。山野で草木に紛れるあれだ。演習のため見える位置に構え、旗によって位置も示されるものの、うっかりすると見失う。見失った。が、その姿と狙撃結果はモニターに映し出されるのでそこまで慌てなくてもよい。

 狙撃――見事命中、会場から歓声が上がった。


 対戦車誘導弾。上方から落とすように打つダイブモードと、ほぼ水平に飛ばす低伸弾道モードそれぞれで発射する。


 対戦車ヘリのご登場。AH-1S(通称、コブラ)が二台、それぞれ誘導弾と機銃掃射を披露する。誘導弾は派手な火炎は見せず、シュゥゥゥゥーッと飛翔音を発しながら目標に到達する。あまり派手な爆炎は上がらなかった。

 機関銃は小さな火炎が飛ぶさまが見え、しかも一部跳弾しているのか斜めに跳ねているところまで目視できた。


 87式自走高射機関砲。キャタピラに二門の機銃を備え、後方には回転するレーダーアンテナ。左端の丘から二台が一斉に掃射し、目標となっていた旗を粉砕した。これも弾道が赤い小さな火球に見えた。


 さて戦車のご登場。まずは16式機動戦闘車。キャタピラではなく四対の車輪を備える。

 この砲撃音はこれまでと比べてはるかに大きい。間近で打ち上げ花火が炸裂したような、衝撃波を伴う轟音だ。それを立て続けに二発。盛大なマズルフラッシュ、巨大な爆炎。砲弾は爆発するタイプではないため、着弾位置はよくわからない。

 後から撮影した動画を確認したところ、この戦車の砲撃音はあまりにも大きすぎたのかほとんど音割れで欠落してしまっていた。生身においては耳栓を忘れないようにしたい。子供の「怖いよ~」の声が小さく収録されていた。


 そして停車している一台が砲撃を終えたと思ったら、そこへ走り込んできた二台がそのまま立て続けに砲撃。観客席の目の前で爆音と火炎を発しながら砲撃を行った。

 私の位置からは走り込んでくる車両が見えづらく完全に油断していたため、これには驚いた。その二台はそのまま走り抜け、右側の斜面横に隠れるように陣取った。


 さらに二台が現れ、蛇行しながら砲撃。さらに「地雷原発見」ということで煙幕を張って離脱。先に走り込んでいた二台がこれを援護するという役でさらに砲撃。

 煙幕ははじめ花火のように火花を散らして落下するが、その後地上に落ちてからもしばらく燃え続け白煙の幕を展開した。


 10式戦車。キャタピラを備えた「ザ・戦車」といった見た目。二台が左丘陵に陣取り、さらに二台が場内を蛇行しながら砲撃する。

 これだけ立て続けに砲撃されれば観客もその音と衝撃には慣れてしまうだろう(そういう話じゃない)。


 最後に90式戦車。10式に比べるとやや大きく見える。例えるなら「重量級パワー型」といったところか。これも先の10式と同じく二台が定位置から、二台が走りながら砲撃。この車両だけ「撃て」の合図から実際の発射までのラグが大きく、シャッターチャンスを逃し気味だった。


 これで前段演習は終了。わかってはいたことだが徒手格闘の披露はなかった。なかったのである。


 ここで15分程度の休憩。手洗いは当然長蛇の列。行くなら行くでさっさと並んだほうがいい。また後段演習が開始してもすぐには演習は始まらない。まずモニターにビデオが流れ、有事の際にどのように各部隊が連携して動くかの概要が紹介される。このビデオを見なくてもよければ、人の減った列で順番を待てばいいだろう。


 などというトイレ事情を語りながら後編へ続く。

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