【体験レポ】令和元年度富士総合火力演習(後編)
後段はシナリオに沿った演習。想定は「とある
総火演は陸上自衛隊の演習であるため、海と空、とくに船舶からの防衛行動はモニターに再生される映像が代役となる。
「想定敵がどの国籍であるかは言わないんだね」と同行者。ウン、ソウダネ。
まず会場にはレーダーを備えた車両が展開し、周辺を警戒している。そこへ偵察を行う航空部隊が登場する。
「左上方向をご覧ください。F-2戦闘機の登場です」
……ジェット音は聞こえるが機影が見えない。
「ただいま雲の中を飛行中です」
会場に苦笑いが流れる。私もずっこけてしまったが、この曇り空では仕方あるまい。
まず敵影を確認したということで続々と戦車や自走式榴弾砲らが演習場に入り展開する。そして最初はF-2からの対艦攻撃。右前方の丘で爆炎が生じる。前段演習では爆炎の生じるタイプの砲弾は遠方の山肌に向けて発射されていたが、今回は近い。予想以上の大きな爆炎に会場がどよめく。
ここで映像による艦艇からのミサイル攻撃。敵方に損害を与える。
敵はなおも侵攻し部隊を上陸、展開させようとする(というシナリオ)。陸上部隊は誘導弾車両を移動させて優位な場所を確保する。
誘導弾による中距離攻撃、戦車による遠距離砲撃で上陸を試みる敵部隊を迎撃する。敵は損害を受けつつも一部の部隊を上陸させる(めげない敵だな)。
ここで情報収集のためにドローンが飛ぶ。敵部隊の位置を確認すると、そこへ向けて電波攻撃(妨害電波の照射)を開始する。いつの世も指揮系統の分断は定石のようだ。
ここから統制を失って分断された敵部隊を各個撃破することになる。
発見した敵部隊に対し、狙撃兵や歩兵部隊が銃器や無反動砲にて攻撃する。風船標的が次々に破裂していく。なるほどあれが敵兵の頭部であると(←)。
さらに車載機関砲による掃討射撃。標的の土壁が泥煙を上げ、ここでも風船標的が破裂していく。
歩兵部隊による無反動砲煙幕が撃ち込まれ、もくもくと上がった白煙がたちまち標的台を包んだ。その間に戦闘車両が離脱する。
場面が変わり、偵察部隊が別動敵部隊を発見。戦車が左右端に展開する。両側から逆V字型に狙う形だろうか。同時に砲撃を行い、衝撃波が押し寄せる。今回は距離が離れているので前段ほどではないにせよ、やはり身体に響く砲撃音だ。
応援部隊の到着。海洋からボートや遊泳にて上陸する。ここはモニターに表示される映像にて。
そして沿岸部に留まる敵艦艇にむけて艦載砲と戦闘機による砲撃。発射風景は映像だが、着弾の様子は別火砲によって模擬される。
水陸両用戦闘車が三台登場し、機関銃による掃討を開始。さらに歩兵部隊が下車し、伏射にて敵兵を一掃する。
援護のために対戦車ヘリが登場。一機が部隊を降ろしている間に別機体から「敵兵発見」の報が入り、直ちに空中からの機関銃掃射で敵部隊を攻撃する。
さらに輸送ヘリが到着し、こちらは着陸することなく垂らしたロープを伝って隊員らが下降する。降りる際に体をくの字にしていたがあれは何か理由があるのだろうか。
また別の輸送ヘリが現れ、今度は着陸して車両ごと応援部隊を降ろす。その間、対戦車ヘリは機銃によりこれを援護する。
敵部隊を撃破した一団は直ちに引き上げ、水陸両用戦闘車の煙幕がこれを援護する。火花を発しながら煙幕を射出、直ちに後退して方向転換。さらに車体からも直接白煙を吐き出しながら場外へ退場した。
左奥の空中にまた輸送ヘリが現れ、落下傘部隊が降下する。間違って観客席に落ちないよう十分に離れているのだろうが、双眼鏡かカメラの望遠機能が必要になる距離だ。
バイクに乗った兵が四~六名ほど左手から進入。車体をスリップさせるように横倒しにして盾にしながら機銃を構え、あるいは乗り捨てて斜面に伏せる。
同じく左手から車輪を三対備えた偵察車(細い砲身を備えた見た目は戦車)が現れる。敵がいる方面へ機銃掃射を浴びせ、バイク隊とともに離脱する。
敵指揮艦を特定したということで、迫撃砲や榴弾砲による一斉射撃。左右端に展開しているのでどこに控えているのかよく見えない。そのためこの場面では右と左のどちらを見ればよいか、どこに着弾するのか追うだけで大変だ。
地雷原を発見したということで、右端の車両が地雷除去砲弾をペトリオット様の砲身から射出する。ミサイルが空中で分裂し、小さな爆薬ブロックが数珠つながりで落下する。その後爆炎が生じ、地雷は除去された。
状況報告を模した放送が流れるが、これが突如ノイズを発しブツリと切れる。何かトラブルかと思ったところ、「敵による通信妨害を受けた」と状況説明。
妙に芸が細かい。
レーダー車が妨害電波の発信元を特定し、これを榴弾砲にて排除する。……この間の連携はどのように取るのだろうか?
ともあれ、敵の通信妨害は排除された。少しばかり期待通りすぎやしないだろうか、と内心思う。
戦車による連続砲撃、機銃による戦闘ヘリ撃墜を経て、最終的に演習場内へ大量の戦闘装甲車両が集結する。砲撃に次ぐ砲撃。撃って撃って撃ちまくる。最終局面ということでサービスしてくれたのだろうか。
敵残存兵力を排除し、標的台を煙幕が包み、左上空からはヘリが飛来する。
「状況終了」
宣言の後、ファンファーレが鳴り響いて後段演習は終了した。演習場から撤収する車両からは隊員が手を振る。ファンサービス旺盛だ。
これにて演習項目は一応すべて終了。観客の多くが下山を始める。が、私はまだ会場に留まった。
というのも後段演習が終了してからおよそ一時間後、演習場に今回登場した各機体、車両が並び、それらを間近で見ることができるのだ。
演習場では隊員たちが飛び散った砲弾のかけらや薬きょうを拾って展示エリアを整備し、その間は演奏隊が流行の音楽を演奏する。
演奏の一曲目は「サンダーバード」。往年の名曲か。士気を上げるのにも有用なのだろうか。ところが私の背後からは「サンダーバードって、なに?」と問う若い声が。これがジェネレーションギャップ……か?
二曲目は「パプリカ」。モニターに演奏風景が映し出されているのだが、画面端で踊っている隊員がいてサービス精神旺盛である。
「パプリカと聞くと映画の方を思い出す」と同行者に言ったところ、まったく理解してもらえなかった。なぜだ。
閑話休題。
演奏中にもヘリが飛来し(演奏が台無しである)、演習場手前の広場エリアに着陸する。その後も着々と車両などが配置され、13時にエリアCの立入禁止索が解除された。観客はここから演習場に入ってそれぞれの装備を自由に見て回る。
この間、ほんの十分ほど大粒の雨が降ったため地面は濡れている。富士の火山性の土壌が関係するのか、水を吸った部分は海岸の砂場よりもジャリジャリと音を立て、場所によってはぶよぶよと弾性がある。キャタピラ跡の水たまりを避けながら歩く。
手前側に車両系、奥側にヘリが着陸している。それぞれ看板に搭乗可能人員数や機体重量などのスペックを表示した立て看板があり、立入禁止テープが張られていない車両についてはその装甲に触れることもできる。
隊員との記念撮影や質問も可能。スナイパーと写真を撮っている人がカモフラージュコートを被せられている姿も見た。記念としては良いがあれで顔は写るのだろうか。
やはり戦車は人気が高いのか人が集中している。真っ先に駆け付けるか、あるいは人が減った頃合いを見計らうのが良いかもしれない。
いかにも「もう帰ろうよ」オーラを出している同行者を無視し、私は将来資料になるかもしれないとなるべく全車両の写真を撮って回ったのであった。
14時に展示も終了し、展示されていた車両が退場する。このタイミングがあるいは人も少なく、撮影には絶好の機会かもしれない。
帰りのバス待ちの列に加わる前に、少し会場から降りたところの売店スペースへ立ち寄った。ここでは飲食物のほか、ミリタリー系のグッズが販売されていた。サバイバルゲームに使えそうなベストや、迷彩柄あるいは「総火演」のロゴが入ったTシャツなど。演習前や終了直後はきっと大混雑であろうから、このあたりの時間で立ち寄るのが良さそうに思えた。
飲食物を扱った店は在庫を持ち帰るのを避けたいのか、かなりの割引率でたたき売り状態となっていた。この日軽めの朝食を摂っただけで腹を空かせていた私はここで補給を行った。次回があれば携行食糧を持参したほうが良さそうだ。
御殿場駅へ向かうバス待ちの列は折り返しに折り返しを重ねた、今回最長の列を形成していた。待ち時間はゆうに一時間半以上要しただろうか。途中、撤収作業を始めた会場から一般客を遠ざけるため間近の広場に誘導され、その端から端までを八往復程度歩かされた。このときは観覧に来たはずが訓練を受けている気分だった。
そんなこんなで、御殿場駅に到着したのは16時ごろだった。そこから都内へ向けて電車に乗り、帰宅は夜を迎えてからだった。
足には疲労が蓄積し、これは翌日の仕事は休みを取るのがよろしかろうと思われた。
なお、これら一連の演習風景は自衛隊のウェブサイトにて記録映像が公開されている。実のところ演習内容についてはこれを見ながら文字起こししたようなものだ。総火演がどのようなものであるか興味を抱いた方はこちらを視聴されるとよいだろう。
陸上自衛隊:富士総合火力演習:映像配信
https://www.mod.go.jp/gsdf/event/fire_power/live.html
また、陸上自衛隊富士学校のサイトでは参加者向けの案内や注意事項が掲載されている。次年度以降観覧の機会を得た方がいれば、こちらを参照されたし。
陸上自衛隊富士学校 - 令和元年度富士総合火力演習
https://www.mod.go.jp/gsdf/fsh/reiwasoukaen.html
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