(補遺)戦い方に個性を出す

 多く戦闘場面を書いていると、毎回異なる攻防を繰り広げさせることが難しくなってくる。加えて、異なる登場人物が同じ徒手、同じ武器を用いるようであればなおさらだ。場面に応じて差をつけなければ戦闘の質がどれも均質になってしまい、作品全体としての緩急にかかわるだろう。


 ところで、小説を書く際には誰しも登場人物の設定を練るかと思う。名前、性別、年齢、国籍、家族構成、信条、好きなものに嫌いなもの……。

 であれば当然、「戦闘スタイル」の項目があってもよいはずだ。それはいわゆる「流派」のようなものであったり、単に個人の癖である場合もある。


 例えば同じ柔道の選手でも、とにかく得意技を狙って仕掛ける選手、足技で攻める選手、相手を引き回して疲弊させようとする選手、寝技に持ち込もうとする選手など、多様な種類の選手がいる。これは他のスポーツでも同様のはずだ。


 であれば小説の登場人物も同じである。

 刺突技を得意とする、誘い技からの返しを多用する、決め技には必ず蹴りを使用する、左利きであるため武器を左手に持つ、暗器を多用する、剣を逆手に扱う、超近接戦闘に難がある、などなど。

 そのキャラの「得意、または好む攻め方」「苦手とする相手」を決めておく。そうすることで各場面での行動指針が各キャラで異なり、戦いにおける個性が現れる。


 極端な例として挙げるなら、私の作品には「足技しか用いない」キャラがいる。

 これはそのキャラが「足技しか学んでおらず、拳法掌法のような上半身を使う技を知らないため」という設定があるからだ。この設定は一見、戦い方の幅を狭めているように見える。

 だがこれは逆に、彼が戦闘時にどのような行動を取るべきであるかの指針になる。

 もしも顔面に向けた突きを繰り出されたとして、普通ならばそれを腕を掲げて受けるところ、彼はその手段を選ばない。低く屈むか、上段蹴りで払うことになる。それが一般的な対処法とは異なっていようとも、足技のみに行動を制限された彼にとってはそれが最善の選択なのである。


 人物ごとの戦闘指針があれば、「彼はこの場面でこの選択をする」「彼女はこの対応だけは絶対に取らない」の判断が容易になり、それぞれ異なる展開を自然と導き出してくれる。


 もちろん、長所と短所は表裏一体だ。先の足技の彼の場合、その足技を何らかの手段で封じられてしまったなら、彼は翼を捥がれた鷲、爪牙を失った虎だ。たちまち劣勢に回ることになる。

 長大な刀で間合いの利を掴む剣士が、狭い路地裏では不利になる。素早さを武器にして相手を翻弄する暗殺者が、沼地に足を取られて窮地に陥る。強烈な一撃を放つ闘士が、足場の脆弱さゆえに踏み込みの力を得られない。

 うっかり強すぎる設定にしてしまった相手でも、そうした「不利な条件」を設けることで無理なく攻略までの道筋を示すことができよう。


 無くて七癖、あって四十八癖。人間誰しも癖があるものだ。戦い方にも癖はある。それが個性になる。

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