必殺技を編み出す

 戦いも大詰め、お互い死力の限りを尽くして腕を振るい、とうとう最後の一撃――。

 そんなときにはやはり「必殺技」が欲しいところだ。中国武術ならば「絶招ぜっしょう」か。

 主人公や強敵役であれば、その強さを示すような必殺技が欲しい。あるいは必殺技でなくとも、なんらかの印象的な勝ち方をさせたいことはよくある。


 とはいえ、世にある必殺技を調べて回るのは大変だ。それになにより、必殺技は秘匿されるものだ。誰にでも公開して研鑽されてはたまらないから、本当の奥の手は世に出さないものだ。

 なので、仕方がないので必殺技をでっちあげてしまう。大丈夫だ。どこの流派のものでもない技ならば誰も文句は言わないし、そもそも創作活動とはそういうものだ。

 むしろうっかりどこぞの流派の真伝を公に晒してしまうことの方が大問題なのである。それをやったが最後、今生は夜道を歩けなくなるだろう。


 必殺技を編み出すに際しては、まず参考となる動きを探す。

 私はよくアクション映画の戦闘シーンから必殺技の着想を得ることが多い。「映像作品に学ぶ」でも書いたように、気になった技があればそれをネタ帳に記しておく。実を言うと、私が自作内で登場させた必殺技の多くは映画から、しかもそのどれもが元の作品内では小技として扱われているものから着想を得ている。


 元が小技であったものを、どのように必殺技へ昇華させるのか?

 それはその技をネタ帳に書き込んだ「理由」にある。ネタ帳に書き込んだからには、おそらくそこには何らか感じたものがあったはずだ。

 例えば私はとある詠春拳を題材にした映画の中で、「主人公の突きを受けて相手が下がろうとしたところを、腕を取って引き寄せながらもう一度攻撃する」という動作が印象に残った。そこで「打っては引き寄せを繰り返す技」を創作することにしたのだ。

 つまり、それが新たな必殺技の中核を成す要素というわけだ。


 中核が決まれば後は簡単だ。それを最大限前面に押し出して技を描写する。

 先の例で言うなら、元の作品では一回だけ引き寄せていたのを四回も繰り返すようにした。加えて「この技は一度術中に嵌ると逃げ出すことが出来ない」などと、いかにもその技が回避不能のスゴ技であるかのように記述した。

 現実でこの技を使ったならば、二回もかかれば御の字だろう。実際のところはいくらでも外しようがある。が、その場面で攻撃を受ける側はなぜかその瞬間は回避方法を思いつかなかったり、あるいは疲弊してそれどころではなかったり、あるいは「神の見えざる手」によって回避手段を封じられていたりする。私の場合は「一撃があまりにも強いため回避どころではない」ことにしてしまった。

 そうして編み出されたのが、拙作「剣侠李白 - 戴天道士」に登場する「饕餮穿牙」の技だ。実際にどのように描写されているかは読んで確かめていただきたい(露骨な誘導)。


 攻めも防御も完璧な完全無欠の必殺技を創作しようとするのは困難を極めるし、そもそも現実にもそんな技は存在しないだろう。求めるだけ無駄であるし、求める必要もない。

 なにか目標を定め、それを実現するための動作をひたすらに構築したならば、それはすでに必殺技なのだ。

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