適度に手を抜く

 武術モノの映画やドラマをよくよく見てみると、「あ、ここは手を抜いたな」とわかる場面が時折出てくる。悪い意味の「手抜き」ではない。迫力ある場面を描きたいが、仔細にまでこだわる必要のないところを省力化しているのだ。


 一番わかりやすいのは「回る」動き。武侠ドラマで度々見かける。

 一見激しく戦っているように見えるが、実はただその場でぐるぐると回っているだけなのだ。一緒に「バサバサッ」と衣が翻る効果音も定番だ。

 タネが割れてしまうとつまらない話であるが、短いカットやカメラも動きながらとなるとそれだけでも見栄えがするのだから不思議だ。


 併せて用いられるのが「間合いを無視した動き」だ。集団戦闘の場面でしばしば見られる。大人数に囲まれて獅子奮迅の攻防をしているのかと思いきや、よくよく見てみると敵の大半が絶対に攻撃が届かない場所でただ型を演じている。

 焦点が合っていなければ誰も気付かないし、遠景で一瞬だけ映されるとなかなかバレない。


 これらはきっと、次にカメラが寄った際の攻防を目立たせるためのある種の「間」なのではないかと思う。

 素人考えであるが、この「間」を入れることで戦闘に緩みと緊張の差をつけているのではと。


 文章でこれを行うならば、それは雑魚を鎧袖一触がいしゅういっしょくで退けたり、敵が怯んだり、あるいは会話などの別の描写に移ることになるだろうか。

 徹頭徹尾事細かな描写をやってしまっては、書き手も読み手も疲れてしまうだろう。適度に手を抜いて緊張を緩めることも必要かもしれない。

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