見えない力の流れ
文字情報は視覚情報に及ばないが、映像作品でも表現し辛い表現はある。私は「力の流れる道筋」がそれであると考える。
映像作品でも相手の吹っ飛び方によって「ああ、これだけの力がこのように突き抜けたのだな」と想像することはできる。が、その捉え方は人によって大きなばらつきがあるだろう。むしろ武術経験のない方は「とりあえず凄い力が発揮された」程度に考えるに違いない。
最近はVFXで表現することも出来るようになってきたが、人体の内部を表現するのは中々難しい。
そもそもアクションがメインの映画で突然人体の内部をCGで映し出せば、作品イメージを壊しかねないという制約もあるのかも知れない。なかなか難しいジレンマだ。
それで言うと「SHINOBI -HEART UNDER BLADE-」には個人的に惹かれる場面があった。ただし武術ではない。ヒロインが幻術を発揮したとき、カメラが相手の体内を術の流れに沿って突き進むのだ。
私は常々、あのような「力が流れる道筋」を文章によって描き出せないかと考えている。
武術が「相手を倒す(破壊する)」ものであるならば、どのように力が生じ、伝達され、叩きつけられ、そして敵の肉体へダメージを与えるのか。それらの描写は重要だと考える。
さて、人体の内部を通る力にはいくつか種類がある。
例えば、地面などを踏みしめ、その反動によって得られる力。腰や拳などを回転させることで得られる螺旋形の力。膝や背中の屈伸によって得られる展開する力。急停止することで後方から追い風のように押し込まれる力――などなど。
これらを見合った表現で描き出すとそれなりに派手な場面が描けよう。
試しに「正拳突き」を私が大仰に描写してみるとこのようになった。
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相手に向かって真っ直ぐに踏み出す。踏み出したその足をズドンと踏みつければ、大地はそれに反発するようにこちらを押し返す。これに加えて、体が急停止したことによる余剰の推力が体を更に前へ前へと押し出した。
この二つの力は丹田の辺りで合流し、大河のようなうねりを発した。そこで腰を捻転させれば、今度は竜巻のような回転が加わる。さながら体内で台風が生まれたかのようだ。その台風を脊柱骨の伸展で上体へと押し上げる。そこで遥か後方から弩弓を放つかの如く拳を突き出せば、矢は台風の中心を貫き、纏い、突き進み――拳が接触したその瞬間、一つになって爆発した。
その爆発は相手の肋骨を震わせ、軋ませ、背中まで突き抜ける。両足が地面を離れ、螺旋の余波でやや回転しながら吹き飛んだ。
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――自分で言うのもなんだが、かなりくどい。たかが正拳突きでこれはやり過ぎかも知れぬ。とは言え、単に「正拳突きをくりだした。相手は吹っ飛んだ」などと書くよりはマシではなかろうか。
それが勝負を決める一撃ならば、ここまでやってもよろしかろう。
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