(補遺)化勁

 相手の攻撃を受け止めるのではなく、最小限の力で無効化する。その基本についてはすでに「逸らす・受け流す」にて説明した。


 さて、ここではもう一歩踏み込んだ技法として「化勁かけい」をご紹介する。「纏絲てんし勁」とも呼ばれる。

 中国武術、特に太極拳に見られる技だ。漫画「拳児」にも登場している。また「グラップラー刃牙」で郭海皇が使用していた「消力シャオリー」にもやや似ている。


 通常の「受け流す」技は、相手の攻撃方向に対して交差する直線方向の力を加えて実現する。

 この「化勁」はそれとはやや異なり、攻撃を「回転」の力によって流す、あるいは巻き取ってしまうものだ。


 例えば地面に垂直に突き立った軸に車輪が取り付けられているとしよう。大きな糸巻きのようなものだ。この糸巻きに対して横から打撃を試みても、くるくると回転してしまい打撃の勢いは削がれてしまう。

 あるいはこの糸巻きが自ら回転しているならば? 迂闊に触れた腕は簡単に弾き飛ばされるか、あるいは巻き込まれて凄惨な目に遭うだろう。

 これが「化勁」である。


 実際の用法としては、例えば相手の突いてきた腕を払う。その瞬間に、接触したこちらの肘から手首までを捩じって回転させる。これで相手の腕を弾き、または巻き取り、より効率的な受け流しを行う。

 単純に打って払うよりも、こちらが受ける反動は小さくなる。


 あるいは肩を打たれたとしよう。相手の拳が接触した瞬間、背骨を軸にして上体を回す。打たれた肩を後方に引く。相手はまるで何もない空間を打ったかのような手応えのなさを覚えるだろう。もしかすると勢い余って前方につんのめるかもしれない。壁を殴ったら暖簾のれんだった――まさしく暖簾に腕押し、だ。

 この場合、傍目には「当たっているのに効いていない」と見えるかもしれない。


 攻撃がまったく効かない人物の種明かしとしてどうだろう。

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