小さくても強力

 暗殺とは人知れず標的を仕留めることだ。

 間違っても仰々しく現れたり、見るからに害意を振りまいていたり、ましてや武器を携行しているなど悟られるわけにはいかない。

 そこで、身に帯びていることすら悟られないような極々ごくごく小さい武器が使用される。


 そのような武器を総じて「暗器あんき」と呼ぶ。「暗」とは「隠し持つ」の意だ。武器の存在そのものを隠し、殺意をも隠す。それは小型のナイフのようであるかも知れないし、何の変哲もない木片のようであるかも知れない。急所を的確に狙うことができるならばそれで十分、ということだ。


 暗器を用いた作劇で私が推したいのは「隠し剣 鬼の爪」だ。主人公が黒幕を暗殺によって討ち取る際、手の内に隠した貫級刀かんきゅうとうで心臓を一突きにする。そして敵がくずおれるよりも早く、主人公はその場を退散するのだ。


 一方で、武侠小説においては「暗器」とは「投擲武器」を差す。本来は前述の意味であったのだろうが、隠し持てるほど小さい武器はすなわち投擲にも適するということで意味が変化したのだと推測する。

 こちらは即座に相手を死に至らしめるのではなく、点穴を狙ったり、目潰しや毒を与えるために使ったり、相手を怯ませるなどの用法が多い。

 あるいは追跡者から逃れるために使用されることもある。忍者の撒きびしのようなものだ。他には、手出し無用の手合せにこっそり介入することもあったり。


 さて、通常の武器や、本来武器ではない物を投擲武器として用いることは可能であろうか?

 私見では「条件さえ揃えば可」である。その条件とは「重心」だ。全面に刃がある、あるいはそもそも刃の無い物体であれば気にすることもないが、ナイフのような刃がある一辺にのみ存在する物体では「重心」は重要だ。

 実際に、例えばドライバーなどを投げてみるとわかる(周辺に注意せよ)。先端が当たれば対象に突き刺さること間違いなしなのに、上手くはいかない。なぜならばドライバーは重心が取っ手部分にあるからだ。空中ではより重心が偏っている部位が前に飛び出すのだ。

 そういうわけで、投擲を目的としたスローイングナイフは刀身部分に重心が来るように、取っ手が軽く刃が重くなっている。あるいは房飾りを付けることで安定を図る場合もある。

 上手いこと回転量を調節して狙った部位を当てる技法(回転打かいてんだ半回転打はんかいてんだ)もあるが、これには熟練が必要だ。咄嗟の場面で闇雲に使えるものではない。


 最後に、私が知る暗器ならびに暗器として使えそうな物を列挙してみる。気になる物があれば各々方の作品で使ってみてはどうだろう。


手裏剣

棒手裏剣

苦無クナイ

峨嵋刺がびし

鉄菱てつびし

刺繍針

かんざし

硬貨

ナイフ

トランプ(カード)

クボタン

鉄片

木片

氷片

ペン

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