第1章5話「突然の訪客に」
「「「いただきます」」」
ペルシダが家に居候することが決まり、まず朝ごはんを食べることとなった。流河は椅子に座って皆を待つ。
自分と大翔は手を合わせただけだが、ペルシダは目をつぶり、手は組んで祈るような形だった。
皆で箸を持ってから食べようと思ったが、ペルシダは目を開け、あることに気づいた。
「これ何?しかもこの木の棒……どう使うの?」
ペルシダは鮭と箸を見て、木の棒を両手で持ってとても不思議がっている。鮭を箸で肉を切るようにするが骨が邪魔をして上手く取れない。そうしているうちにそして鮭の焼いた匂いが鼻に届いたのか。
「これ凄いいい匂い…流河、早く食べたい」
アレルギーは特に問題がなさそうだった。
異世界の食事処は知らないが、アレルギー用に渡したご飯を食べるとペルシダは目を輝いていたのを覚えている。
「それは鮭って言うんだけど…ちょっと待って。先割れスプーンを取ってくるから。兄貴、鮭を分けといてね」
そう言って大翔は席をたった。流河はペルシダから「ちょっとごめん」と箸を取って鯖を分ける。出来るだけ丁寧に骨をとる。骨なんて知らずに食べそうだから刺さったら大変だ。といってもあの怪力なら魚の骨が折れそうなのだが、やってあげるのが礼儀というものだろう。
そして皿の端にマヨネーズをつけ、箸を置いて、自分の鮭を分けようとすると
「流河、早く食べさせて。その棒の使い方分からないの」
とペルシダは急かしてきた。一瞬躊躇うが、そのねだりの顔を直視できず、また断れなかった。
仕方なさそうに装いにさっきの箸に鮭を乗せ、ペルシダの口に向けた。仕方ないのだ。箸の使い方なんてわかるわけがない。時間がたって、他が冷めたら勿体ないし、その思うくらい大翔の料理はとても美味しい。早く食べさせる方がいいに決まっている。そう仕方ないのだ。
「じゃ、じゃあ、あ、あーん」
そうマヨネーズを落とさないように、服に落とさないように慎重に口に鮭を入れる。
ペルシダはそのまま箸ごと口に入れた。口の動きが手に伝わってくる。そして口をもごもごっと数回動かすと目を開き
「んん!!凄く美味しいわ、これ!」
と鮭を食べて、箸をくわえたままのペルシダは赤くなった頬に手を当て、おいしそうに咀嚼する。
口が動いて、箸に直に振動が来た。なにか、何かいけないことをしている気分になる。
その心臓の鼓動を悟られないようにしていると
そして大翔が先割れスプーンをもってきて、ペルシダに渡すと
「これスプーンとフォーク?とても便利ね」
と言って今度は味噌汁の蓋を上げる。蒸気と共に味噌汁のいい匂いがペルシダの食欲をそそいだのだろうか、嬉しそうに蓋を横に置いた。
「さっき食った魚、鮭って言うんだけど、ご飯…横の白い粒と一緒に食べると更においしさが広がると思うからやってみて」
「そうなの?」
と言いながらペルシダはスプーンでご飯をすくう。もう一度魚の身を分け、そのスプーンの中に入れてあげた。
それを口に含むと確かにと何度も何度も噛んで味わう。
次にとったのは味噌汁だ。スプーンで汁をとり、息を吹きかける。しぐさの一つ一つが可愛い。スプーンを口に入れると、これまたおいしそうにしていた。
「この白い粒みたいなのも美味しいし、この汁も凄く美味しい!!」
「気に入ってもらえて良かったよ」
と大翔は笑みを浮かべた。人にこれだけ美味しいそうに食べて貰えるのはさぞかし、嬉しいだろう。
ちなみに今日のコンセプトは、「和食を堪能してもらおう」らしい。ご飯、味噌汁、きゅうりの塩漬けに鮭の塩焼きといった、異世界にはないだろうと思われるものばかりを選ばれた。
ちなみに今日の昼食はカレー。夕食だった鯖の代わりに、夕食はアランチーニに、コーンスープ、春巻き、ハンバーグ、ショートケーキといったといった前菜からデザートまで作るらしい。どこまでも完璧な弟だ。
「じゃあ、もうそろそろ僕は行ってくるよ」
そうやって楽しい朝ご飯を食べ終わり、お茶を飲んで一息をついた後だ。大翔はそういって席を立ってスマホをポケットに入れる。
ペルシダは未体験のお茶を美味しそうにすすっていたが、テーブルにお茶を置いてそちらを向く。
「どこに行くの?」
「ちょっとショッピングモー…買い物だよ。今日の夕食とかペルシダさんの服とか必要になるしね」
「でも私お金ないけど……金目のものもないし」
「別に大丈夫だよ。お金ならいくらでもあるしね。ペルシダさんは何も気にしなくてもいいよ」
「そ、そうなんだ。色々迷惑かけてごめんね」
驚きと申し訳なさそうに言っているが、頬が赤くなっている。
イケメンにそんなふうに言われたら、流河が女の子だったら口角が上がるのを隠し切れない。
ちょっと甘い言葉かけたら女の子は寄ってくる。今まで それで何人の女の子が大翔に乗り換えたか。
「それでペルシダさん、好きな色とかある? 後なんかスカートとかズボンとかだめだとか」
「ううん、特に好きな色はないわ。服も特にこだわりはないから気にしないで」
「分かった。でも服にこだわりないからあんまり期待しないでね」
そう言って、来ているパーカーをペルシダに見せつける。
大翔の普段着はパーカーとバスケットパンツとだ。動きやすいし、安いからという理由で三着取り揃えている。
後身につけているのは母の形見のペンダント。それをどんな時も身につけている。大翔は服にお金がかけないとてもお買い上げのあるイケメンでもあるのだ。
「大丈夫よ。気にしないから。でも・・・」
顔をちょっとだけ赤くなりながら、ペルシダは自身の体を見る。確かに足の長さや腕の長さなど服のサイズで着付けをしないといけない。 それでも多少我慢すればいい話なのだが。そのためには腰のサイズを、服によってはバストやヒップを教えないときれない服もあるのだろう。それを伝えるべきかどうか迷っている感じだ。買い物は自分でできない以上伝えるしかない。大翔は「あぁ」と声を出し
「大丈夫だよ。分かるから」
「へ?」
「身長と長さの単位って教えてもらえますか?」
「だいたい100エリーって言われているけど…」
「じゃあ、腰の部分は…で腕の太さは…ぐらいですか? 確かに血色もいいですね」
「!!」
ペルシダは目を大きく開いて口をわなわな震わせて顔が赤くなっている。
はっと自分の身体を腕で抑え大翔に見せないようにしてから
「ど、ど、ど、うして、分かるの?」
「どうしてって見れば誰でも分かりますよ。だから、そういう問題とかそういうのは大丈夫ですから。安心して任せてください」
そう当然のような顔をして、ドアの方へ向かっていった。
大翔は頭がいい。しかし、度が過ぎているのだ。高校レベルは10歳でとうに超えている。暗記科目は一度見たら分かると言っていた。さらにとてつもなく計算が早く、
人の動きや周りの物から身長や体重などのサイズが分かるらしい。
それだけではない。なんと相手の動きを予測できるとか。3年前大翔が草サッカーの大会で出場した時、無双して優勝したのだとか。
後ろから中盤まで全部やって失点を防ぎ、個人技で点を入れて、プロのジュニアチームがいる大会にも参加して圧倒したのだとか。
一度ボールを貰えば後ろからゴールまで相手をかわしてゴールをきめたのだとか。
キーパーをやれば、相手に飛び込んで失点をしたことがなかったのだとか。
大翔は異性に全く興味がないせいか、女性との会話方法を全く知らない。デリカシーというものを知らないのだ。
ペルシダはきっと大翔を引いているだろう。今も口をパクパクしている。
どうすればいいのだろう。大翔は全くかわいくない弟なのだが、それでも大事な弟。ここは兄である流河がちゃんとフォローしなきゃいけない
そう思ってペルシダの方を見ると相手もこっちを見てきた。
「違うの! これは、えっと、その、筋肉!私護身術で使うから腕とか足とかにものすごい筋肉があるの! だから、えっと、他にも・・・」
何も言っていないのに、手をあたふたさせて必死に体重について弁明している。
そもそも単位など分からないのだが、一生懸命弁明するくらいで何となく想像は出来る。
可愛い。ものすごく可愛い。天使みたいだ。
大翔のことを忘れて、早口で弁明するペルシダをまじまじと見ていた。
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ペルシダが異世界転生し、流河の願いによって家にしばらく居候することになった。
――さて、どうしたものか。
大翔はため息をつきながら、ペルシダは合う服を探していた。 しかし、悩んでいるのは服のことでは無い。
もし、異世界という存在があるなら、そして、あのペルシダの蹴りは尋常じゃない。そして、あのお………
だが思索はすぐにかき消された。異世界など考えている事が出来ないくらいに。
「ちょっと、あんた何してんの?」
後ろを見ると二人の女の子がいた。
後ろで髪の毛をまとめた女の子はチェックのシャツに白いズボンを履いた、その女の子の目はとても厳しい。まるで咎める先生のような表情だ。
そしてその女の子後ろウェーブのかかったショートスタイルの髪型をした女の子がいた。長めのTシャツにワンピースを羽織った少女。まだ幼さが残っているものの、どこか成長した女性。そう感じさせるそのオーラをまとった少女。
「アスハと…それに…あ…紫花菜……?」
「ひ、久しぶりだね、大翔くん」
紫花菜は顔を下に向けてとても小さな声で返事をしてくれた。その表情はあまり見えない。
板野 紫花菜(いたの あいな)と神川(かみかわ)あすは。
二人とも幼なじみだ。昔は二人と一緒によく遊んでいた。
紫花菜は少し恐れながらもこちらの目を見ていた。
どうして、と思う暇はない。
アスハに直ぐに目を向け
「あすは、どうして………」
「どうしては、こっち。何をしているの」
「いや、そうじゃなくて………」
「なにごまかそうとしているのよ」
アスハもまたこちらの目をじっと見つめる。紫花菜の方を再び見た。
不安と疑心、諦め、喜び、期待が顔と目に出ていた。
これは、違う。
「………なにって服を買いに来たんだけど」
「女性用の下着を?」
紫花菜が問い詰めてきた。その顔は普通だったら信じられない、疑念。そんな表情を見せていた。
「今家に女性がいるんだけど服がないから僕が買いに来たんだよ」
後ろを向いて再び選ぶ。顔を隠すしかこの状況は乗り越えられない。
おかしい。二人の様子がおかしいのだ。
あすはがこちらに近づくことなど絶対にしないはずなのに。
しているのは確かに普通の会話だ。でも……
「どういうこと?」
「昨日…今日未明なのかもしれないけど急に家に来たんだ。替えの服とかないから買いに来ただけで…何か悪いことしている、僕?」
とにかく言葉を増やして時間を稼ぐしかない。違和感を探さないといけない。
二人は更に問い詰める。
「それって大翔くんの彼女でもお兄さんの彼女でもないよね。どうして家にいるの?」
突然、紫花菜がこちらに目を向けてきて話した。その目は光が失い
そして 目に渦が出来ているようだった。
声に抑揚がなくなり雰囲気はまるで別人のようだ。
おもわず声を失い、目をふせた。口がとても重くなった。足が後ろに1歩下がる。しかしやるしかなかった。それでも無理やり口を開けるしかないと、どう切り抜けるか考えるしかない。
「それにどうして大翔が買う羽目になっているの」
アスハの目も紫花菜と同じ目になっていた。
自然を装おうしかできない。何か考えていると思わせてはいけない。
「仮説なんだけど、異世界から来たのかもしれない」
「異世界?」
「弓矢とか砥石を持っていたからね。それをリュックにしばって東京を徘徊なんて出来るはずがないし、セキュリティーサービスも反応がなかったんだ」
「そうなんだ」
「異世界から来た人か…私も気になるから家に行っていい?」 い
とあすはがはっきり聞こえるような声で目を閉じ、笑いながら詰め寄った。
大翔は目を少しだけ閉じた。他の情報を遮断するかのように。
多分、正解は…
「分かった」
服を選びレジに行ったあと、2人の元へいくと2人は話を交わすことなく微動たりせずにただこちらを見つめていた。
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大翔達は家に着いた。紫花菜にチャイムを鳴らせると、ドアが開いた。
ドアから出てきたのは流河とペルシダだ。
「おう、お帰り」
「大翔くん、ありがとうね」
流河とペルシダが迎えてきてくれたのだ。そして、後ろの2人を見て流河は反応する。
「ああ、紫花菜ちゃんにアスハちゃんじゃないか! 久しぶり!」
2人はこくりと頷いた。 そして二人はペルシダを見つめた。
二人は舐めまわすかのように見る。
「どうしたの?」
「流河さんの趣味じゃないんですね」
「いきなりなんだよ!!」
二人はペルシダを見ても平然としている。転生だという可能性があるのであまり興味深く聞けなかったが、質問する内容が確認だ。
「でも、恥ずかしくないんですね」
「異世界から来たということ? 自分でも分からないから今も戸惑ってるけどね」
二人は疑心暗鬼だ。と同時にすごい興味を抱いている。紫花菜達はペルシダの服をまじまじと見ている。
「二人とも玄関で喋ってないで中に入っていいよ。ペルシダさんの道具とかもっと古典的だし、話も進むんじゃない?」
二人は大翔の提案に頷いた。ペルシダはぴくっと反応するだけに収まる。
「そうだ。紫花菜たちもカレー食べる? といってもそうしたら肉の量が少し足りないけど」
「じゃあ、ご一緒にさせてもらうかな。紫花菜はどう?」
「うん。ありがとう。大翔君」
紫花菜の言葉にただ微笑みを返すしかなかった。
袋を見る。
「でもそうしたら色々が足りないな。カレーを作るからあすはとペルシダさんは待ってて。流河と紫花菜は悪いけど手伝ってくれない?」
「おう、任せとけ。究極のカレーというのも食わせてあげるぜ!!」
「究極? カレー? どんなんだろう、楽しみ!!」
ペルシダはとても楽しみにしているように笑った。
テンションが上がる流河とペルシダに二人はついてこなかった。
「悪いけど2人とも一緒に来てくれない? もう荷物運ぶのは疲れたよ」
「そんなんで音をあげてんのか? まあお兄ちゃんに任せとけって!!」
そう行って流河が笑いながら大翔の肩を叩く。
「何言ってんの? やっぱりさっきので、頭のネジが壊れたんじゃないの?」
「みんな俺にきつくない?」
「じゃあ、行こうか。あすははペルシダさんと待っていてね。ペルシダさんのこと頼むよ」
そう言って、家の外に出る。中にいるのはペルシダとそしてアスハだけだ。
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大翔と流河、そして紫花菜は外に出ていった。家の中にいるのはアスハとペルシダという女性だけだ。
アスハは足音と息を殺してペルシダを見た。
さっきお手洗いと言って部屋を出た。ペルシダはテレビを見て
「凄い、人が箱の中にいる」
と一昔前のセリフを言ってテレビを凝視している。
今がチャンスだ、手に持ったものをペルシダに向けてゆっくりと近づく。
もう少しだ、もう少しで異世界人を殺せる。ゆっくりゆっくりと近づく。
殺さないと。
異世界人は殺さなきゃ。殺さないといけない。でも、どうして殺さないといけないのか。
まあ、どうでもいい。アスハには関係のないことだ。ただ異世界の人は殺さないといけない。
ペルシダの後ろに立つことが出来た。
手にあるものを逆さにとって素早くペルシダの方に向ける。
銀色の輝きがペルシダの皮膚に突き刺さろうとしていた。
アスハは刃物をペルシダの首に突き刺そうとした。
その瞬間後ろからアスハの手を誰かが取った。どれだけ腕に力を入れても動く気配がない。
後ろを見ると大翔がいた。片手にはスマホがあり、そのスマホは光っている。
おそらくビデオを撮っているのだろう。
大翔はスマホをソファーに投げると更に腕を後ろにやられ、痛みで包丁を離してしまった。アスハは大きく叫ぶ。
「離して! 異世界人は殺すか捕らえる。そういう決まりでしょ?! 魔王様の命令は絶対!!! アドラメイク様のために私がやらないとだめなの!!!」
「………色々と聞きたいことがあるけどとりあえずアスハを返して貰うよ。ペルシダさん」
「分かった。アスハちゃん、すぐ助けるからね」
そういって、ペルシダは左手を向け、そして触れてきた。その瞬間何か音が聞こえた気がした。
その瞬間頭は動かなくなり、意識は失ってしまった。
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