第1章3話「突然の訪客に」

 ペルシダが家に居候することが決まった。

 大翔が用意してくれたのもあってまず三人で朝ごはんを食べることとなった。

 大翔は流河ならやり遂げると思っていたのだろうか、三人分用意してくれていた。

 

 こそばゆい気持ちになる。

 でもご飯の匂いによって食欲に支配され、すぐにそれも消えてしまった。

 

「「「いただきます」」」


 自分と大翔は手を合わせただけだが、ペルシダは目をつぶり、手は組んで祈るような形だった。

これもいつか日常になるのだろうか。


 皆で箸を持ってから食べようと思ったが、ペルシダは目を開け、あることに気づく。

 

「これ何?しかもこの木の棒……どう使うの?」


 ペルシダは鮭と箸を見て、木の棒を両手で持ってとても不思議がっている。

 友達が家に来た感覚で用意していたので、箸を渡してしまった。


 鮭を箸で肉を切るようにするが骨が邪魔をして上手く取れない。

 そうしているうちにそして鮭の焼いた匂いが鼻に届いたのか。


「これ凄いいい匂い…流河、早く食べたい」


「それは鮭って言うんだけど…ちょっと待ってくださいね。先割れスプーンを取ってくるから。兄貴、鮭を分けといてね」


 そう言って大翔は席を立つ。

 その間に流河はペルシダから「ちょっとごめん」と箸を取って鯖を分ける。


 出来るだけ丁寧に骨をとる。骨なんて知らずに食べそうだから刺さったら大変だ。


 といってもあの怪力だ。多分異世界人の方が身体能力が高いのだろう。

 魚の骨で傷つくことなどなさそうだが、やってあげるのが礼儀というものだろう。

 

 そして皿の端にマヨネーズをつけ、箸を置いた。

 今度は自分の鮭を分けようとすると


「お願いしていい? 速く食べてみたいの。私に食べさせてくれると嬉しいんだけど……」


 とペルシダは急かしてきた。

 

 流河は断れなかった。

 一瞬躊躇うも、そのせがむ顔を直視できず、またその顔に願う事を叶えてやりたくなってしまった。

 

 仕方ないのだ。

 さっきの箸に鮭を乗せ、ペルシダの口に向けた。


 箸の使い方なんてわからないだろう。

 時間がたって、他が冷めたら勿体ないし、その思うくらい大翔の料理はとても美味しい。


 そう仕方ないのだ。

 早く食べさせる方がいいに決まっている。


「じゃ、じゃあ、あ、あーん」


 マヨネーズを落とさないように、服に一片たりとも落とさないように慎重に口に鮭を入れる。

 

 ペルシダはそのまま箸ごと口に入れた。

 口をもごもごっと数回動かすと目を開き


「んん!! 凄く美味しいわ、これ!」


 ペルシダは、赤くなった頬に手を当て、おいしそうに咀嚼する。

 鮭を食べるのと同時に箸をくわえたままでだ。


 口が動いて、箸に直に振動が来た。

 動きが手に伝わってくる。

 

 なにか、何かいけないことをしている気分になって非常に心臓に悪くいたたまれない気持ちになった。


「はい、ペルシダさん」


「これスプーンとフォーク?とても便利ね」

  

 いつのまにか大翔が先割れスプーンをもってきて、ペルシダに渡していた。

 ペルシダは自分で食べ始めることで何とか理性を取り戻した。 

 

 こんな調子で流河は誠実さを保つことが出来るのだろうか。

 

 問題はたくさんある。

 一番の問題は視線がその膨らみに向けていないか。


 チラ見しているのか自分自身でも分からないのが最近の悩みの種だ。

 理性では分かっていても頭は勝手に動き、目は膨らみに視点を定めてしまっている時がある。

 

 せっかくペルシダも落ち着けた所だ。

 それを害したくない。そして彼女の信用を失いたくない。


何よりあの笑顔を汚したくない。


 今は抑えられていると思う。

 だがいずれペルシダがいることが普通になって、日常に染まっていくとどうなるか未知数だ。 

 

おそらくこの笑顔を何度も見る機会がある。

家というリラックスした場所で理性を保つことなど出来るのだろうか。


ペルシダを不快な思いをさせない為にはどうするべきか。

 何かこちら側で処理する方法を……

…………………。


「プラ10か……」


「ん? 何か言った?」


「いや、この身に誓って、ペルシダが楽しい異世界生活を送れるように頑張る覚悟をしただけ」


「え、ええ。えっと、ありがとう?」

 

 落ち着いたらネットの大海原に出よう。


 その流河の覚悟にペルシダは不思議がるも食欲には勝てず、次に味噌汁の蓋を上げる。

 蒸気と共に味噌汁のいい匂いがペルシダの食欲をそそいだのだろうか、嬉しそうに蓋を横に置いた。


「さっき食った魚、鮭って言うんだけど、ご飯……横の白い粒と一緒に食べると更においしさが広がると思うからやってみてください」


「そうなの?」


 と言いながらペルシダはスプーンでご飯をすくう。

 

 もう一度魚の身をスプーンの中に入れて口に含む。

 確かにと何度も何度も美味しそうに噛んで味わう。


 次にとったのは味噌汁だ。

 スプーンで汁をとり、息を吹きかける。しぐさの一つ一つが可愛い。

 スプーンを口に入れると、これまたおいしそうにしていた。


 新しいものを食べて、美味しそうな顔を見る度幸福度指数が上がる気がする。

 また何か新しいものを作ればペルシダも喜んでくれるだろうか。


「この白い粒みたいなも美味しいし、この汁も凄く美味しいわ!!」


「気に入ってもらえて良かったです」


 と大翔は笑みを浮かべた。

 人にこれだけ美味しいそうに食べて貰えるのはさぞかし、嬉しいだろう。

 

 今日のコンセプトは、「和食を堪能してもらおう」らしい。ご飯、味噌汁、きゅうりの塩漬けに鮭の塩焼きといった、異世界にはないだろうと思われるものばかりを選ばれた。  

 

 ペルシダは朝ごはんを幸せそうにしていた。

 初めての異世界の食事はいい思い出となったと思う。


//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////// 


「じゃあ、もうそろそろ僕は行ってくるよ」


 そうやって楽しい朝ご飯が終わり、お茶を飲んで一息をついた後だ。

 

 ペルシダは未体験の日本茶を美味しそうにすすっていたが、テーブルにお茶を置いてそちらを向く。


「どこに行くの?」


「あぁ、えっと、ショッピングモー…じゃなくて、買い物だよ。今日の夕食とかペルシダさんの服とか必要になりますしね」


「でも私お金ないけど……金目のものもないし」


「お金ならいくらでもありますから。ペルシダさんは何も気にしなくても大丈夫ですよ 」


 そう笑顔をペルシダに向けた。

 そこには面倒だとか嫌だとかそういった感情は全くない。


「そ、そうなんだ。色々迷惑かけてごめんね」


 驚きと申し訳なさそうに言っているが、頬が赤くなっている。

 イケメンにそんなふうに言われたら、流河が女の子でも口角が上がるのを隠し切れないだろう。

 

 そう兄である自分も思ってしまうくらい大翔の顔は良く、流河にとっては面白くなかった。


「それでペルシダさん、好きな色とかあります? 後スカートがだめとか、ズボンがだめだとか」


「ううん、特に好きな色はないわ。服も特にこだわりはないから気にしないで」


「分かりました。僕は服にこだわりないからあんまり期待しないでくださいね」


 そう言って、来ているパーカーをペルシダに見せつけるように服を手で伸ばす。


 大翔の普段着はパーカーとバスケットパンツだ。

 動きやすいし、安いからという理由で三着取り揃えている。

 

 後、身につけているのは母ちゃんの形見のペンダントだ。

 それをどんな時も身につけている。

 

 大翔は服にお金がかけない、とてもお買い上げのあるイケメンでもあるのだ。


「大丈夫よ。奇抜じゃないなら何でもいいわ。でも・・・」


 顔をちょっとだけ赤くなりながら、ペルシダは自身の体を見る。

 確かに足の長さや肩幅などサイズを教えなければならない。

 腰のサイズを教えなければ着るのがきつい服もあるのだろう。

 それを伝えるべきかどうか迷っている感じだ。


 でも買い物など自分でできない以上伝えるしかない。大翔は「あぁ」と声を出し


「あぁ、大丈夫だよ。分かりますから」


「へ?」


「身長と長さの単位って教えてもらえますか?」


「だいたい100エリーって言われているけど…」


「じゃあ、腰の部分は…で腕の太さは…ぐらいですか? 確かに血色もいいですしね」


「!!」


 そうペルシダは大きく驚いた。

 ペルシダは目を大きく開いて口をわなわな震わせて顔が赤くなっている。

 はっと自分の身体を腕で抑え大翔に見せないようにしてから、大翔をかわいい顔で 睨みつける。


「ど、ど、ど、うして、分かるの?」


「どうしてって見れば誰でも分かりますよ。だから、そういう問題とか大丈夫ですから。安心して任せてください」


 そう当然のような顔をして、ドアの方へ向かっていった。

 

 大翔は頭がいい。しかし、度が過ぎているのだ。

 高校レベルは10歳でとうに超えている。暗記科目は一度見たら分かると言っていた。さらにとてつもなく計算が早く、 人の動きや周りの物から身長や体重などのサイズが分かるらしい。


 それだけではない。なんと相手の動きを予測できるとか。

 4年前くらいだろうか大翔が草サッカーの大会で出場した時、無双して優勝した。

 後ろから中盤まで全部やって失点を防ぎ、個人技で点を入れて、プロのジュニアチームがいる大会に圧倒したのだとか。


 だが大翔は異性に全く興味がない。女性との会話方法を全く知らない。

 デリカシーというものを知らないのだ。

 ペルシダはきっと大翔を引いているだろう。

 今も口をパクパクして、どうしたらいいか分からないような顔をしている。

 

 どうすればいいのだろうか。

 大翔は全くかわいげのない弟なのだが、それでも大事な弟だ。


 ここは兄である流河がちゃんとフォローしなきゃいけない 。

 そう思ってペルシダの方を見ると相手もこっちを見てきた。


「違うの!! これは、えっと、その、筋肉!! 私護身術で使うから腕とか足とかにものすごい筋肉があるの!! だから、えっと、他にも・・・」


 流河は何も言っていない。

  

 手をあたふたさせて必死に体について弁明している。

 そもそも単位など分からないのだが、一生懸命弁明するくらいで何となく想像は出来る。

 

 可愛い。ものすごく可愛い。天使みたいだ。

 大翔のことを忘れて、早口で弁明するペルシダをまじまじと見ていた。


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 ペルシダが流河の願いによって家にしばらく居候することになった。


――どうしたものか。


 大翔はため息をつく。

 しかし、悩んでいるのはペルシダは合う服のことでは無い。


 もし、異世界という存在があるなら。あのペルシダの蹴りの威力は尋常じゃない。

 流河を庭まで吹き飛ばしたほどの力。


 ―――そして、あのめ………

 

 そんな思い巡らしはすぐにかき消された。

 異世界など考えている事が出来ないくらいに目の前の事態に驚きで脳が支配されたから。


「ちょっと、あんた何してんの?」


 後ろを見ると二人の女の子がいた。

 髪の毛をまとめた女の子は活発的で力が有り余っているように見える。チェックのシャツに白いズボンを履いていた。

 その女の子の目はとても厳しい。まるで咎める先生のような表情だ。

 

 そしてその女の子の後ろにはウェーブのかかったショートスタイルの髪型をした女の子がいた。

 ワンピースとワイドパンツを着ている女の子。

 

 まだ顔は幼さが残っているものの、成長したとそう感じさせるくらい成長した体つき。

 そして体だけでなく、雰囲気もどこか余裕を漂わせている。

 4年前とは全然違う。そんな風に感じさせるオーラを持つ女の子。


「アスハと…それに…あ…紫花菜……?」


「ひ、久しぶりだね、大翔くん」


 紫花菜は顔を下に向けてとても小さな声で返事をしてくれた。その表情はあまり見えない。

 

 板野 紫花菜(いたの あやな)と神川かみかわアスハだ。

 

 二人とも大翔と幼なじみだった。昔は二人と一緒によく遊んでいた。

 紫花菜は少し恐れながらもこちらの目を見ていた。

 どうして、と思う暇はない。アスハに直ぐに目を向け


「あ、アスハ、どうして………」


「どうしては、こっち。何をしているの」


「いや、そうじゃなくて………」


「なにごまかそうとしているのよ」


 アスハもまたこちらの目をじっと見つめる。

 大翔は紫花菜の方を再び見た。

 紫花菜は不安と疑心、諦め、喜び、期待が顔と目に出ていた。

 

 これは、違う。


「………なにって服を買いに来たんだけど」


「女性用の下着を?」


 紫花菜が問い詰めてきた。

 その顔は事情を知っていれば普通の人なら信じられないだろう表情をしている。

 

 疑念。それを声を出してきた。


「今家に女性がいるんだけど服がないから僕が買いに来たんだよ」


 おかしい。二人の様子がおかしい。

 今までとは全然違う。


 後ろを向いて再び選ぶふりをしない。

 顔を隠すしかこの状況は乗り越えられない。

 アスハがこちらに近づくことなど絶対にしないはずなのに。

 

 しているのは確かに普通の会話だ。でも……



 大翔は紫花菜と絶交したのだ。



 絶交した当初は何度か会ったことがある。でも紫花菜は大翔をいない存在として完全に無視された。  

 手紙を送っても返ってくることはなかった。

 

 大翔のせいで紫花菜を悲しませたのが原因で、会えば思い出させてしまうのでこちらからアプローチすることは出来ずにいた。

 なのに今紫花菜は大翔に質問し、疑念という興味をこちらに向けてくる。

 

 困惑。会えて嬉しいという気持ちは微塵も出なかった。ただ今は現状から推測できることを考えなければと。


「どういうこと?」


「昨日…今日未明なのかもしれないけど急に家に来たんだ。替えの服とかないから買いに来ただけで…何か悪いことしている、僕?」


 とにかく言葉を増やして時間を稼ぐしかない。違和感を探さないといけない。


 アスハとはSNSでは交流している。

 二人は大翔の事情を知っているはずだ。

 

 ならこうやって女性用の下着を買いに来る大翔に対して何を思うか。


 最初に話しかけてきたのはアスハだ。

 此方の事情を知っているアスハから話しかけてきた。


「それって大翔くんの彼女でもお兄さんの彼女でもないよね。どうして家にいるの?」


 突然、紫花菜がこちらに目を向けてきて話した。

 その目は光が失い、そして 目に渦が出来ているように見えた。

 声に抑揚がなくなり雰囲気はまるで別人のようだ。

 

 大翔は思わず声が出ず目をふせた。

 足が後ろに1歩下がる。  

 

 口がとても重くなった。

 だが無理やり口を開けるしかない。どう切り抜けるか考えるしかない。


「それにどうして大翔が買う羽目になっているの」


 アスハの目も紫花菜と同じ目になっていた。

 全く同じような渦がアスハの目から出ている。


 自然を装おうしかできない。何か考えていると思わせてはいけない。


「……仮説なんだけど、異世界から来たのかもしれない」


「異世界?」


「弓矢とか鉈を持っていたからね。それをリュックにしばって東京を徘徊なんて出来るはずがないし、セキュリティーサービスも反応がなかったんだ。まだ本当か分からないけど……警戒心が高くて」


「そうなんだ」


「異世界から来た人か……私も気になるから家に行っていい?」


 アスハがはっきり聞こえるような声で面白そうだとそう詰め寄ってきた。

  大翔の言葉に一切妄想の類だと馬鹿にしないし、怒りも呆れもしなかった。

 

 大翔は目を少しだけ閉じた。

 他の情報を遮断するかのように。


 この場での、正解は…


「分かった」


 服を選びレジに行ったあと、2人の元へ行く。

 2人は話を交わすことなく微動たりせずにただこちらを見つめていた。


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 大翔達は家に着いた。紫花菜にチャイムを鳴らせると、ドアが開いた。

 ドアから出てきたのは流河とペルシダだ。


「おう、お帰り」


「大翔くん、ありがとうね」


 流河とペルシダが迎えてきてくれた。

そして、後ろの2人を見て流河は反応する。


「ああ、紫花菜ちゃんにアスハちゃんじゃないか! 久しぶり!」


 二人はこくりと頷いた。 そして二人はペルシダを見つめた。

 ペルシダを舐めまわすかのように見る。


「どうしたの?」


「流河さんの趣味じゃないんですね」


「いきなりなんだよ!!」


 二人はペルシダを見ても平然としている。

 転生だという可能性があるのであまり興味深く聞けなかったが、質問する内容が確認だった。


「恥ずかしくないんですね」


「異世界から来たということ? 自分でも分からないから今も戸惑ってるけどね」


 二人は疑心暗鬼だ。と同時にすごい興味を抱いている。

 紫花菜達はペルシダの服をまじまじと見ている。


 顔ではなく服をまじまじと見ている。


「二人とも玄関で喋ってないで中に入っていいよ。ペルシダさんの道具とかもっと古典的だし、話も進むんじゃない?」


 二人は大翔の提案に頷いた。

 ペルシダはぴくっと反応するが、特に追及はしてこなかった。

 ペルシダに心の中で感謝しつつ、時間を確認すると10時を過ぎていた。


「そうだ。紫花菜たちもカレー食べる? といってもそうしたら肉の量が少し足りないけど」


「じゃあ、ご一緒にさせてもらうかな。紫花菜はどう?」


「うん。ありがとう。大翔君」


 紫花菜の言葉にただ微笑みを返すしかなかった。

 自然に装わないといけない。

 例えそれがとても心苦しい物だとしても。


 大翔は袋を見る。


「でもそうしたら色々が足りないな。カレーを作るからあすはとペルシダさんは待ってて。流河と紫花菜は悪いけど手伝ってくれない?」


「おう、任せとけ。究極のカレーというのも食わせてあげるぜ!!」


「究極? カレー? どんなんだろう、楽しみ!!」


 ペルシダはとても楽しみにしているように笑った。

 テンションが上がる流河とペルシダに二人はついてこなかった。


「悪いけど2人とも一緒に来てくれない? もう荷物運ぶのは疲れたよ」


「そんなんで音をあげてんのか? まあお兄ちゃんに任せとけって!!」


 そう行って流河が笑いながら大翔の肩を叩く。

 その態度に思わず顔をしかめるが、これ以上つつけば変になると思い心の中で抑圧することにする。


「じゃあ、行こうか。あすははペルシダさんと待っていてね。ペルシダさんのこと頼むよ」


 再び家の外に出る。中にいるのはペルシダとそしてアスハだけになった。


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 大翔と流河、そして紫花菜は外に出ていった。

 家の中にいるのはアスハとペルシダという女性だけだ。


 アスハは足音と息を殺してペルシダを見た。

 さっきお手洗いと言って部屋を出た。ペルシダはテレビを見て

 

「凄い、人が箱の中にいる」


 と一昔前のセリフを言ってテレビを凝視している。

 

 今がチャンスだ。

 

 手に持ったものをペルシダに向けてゆっくりと近づく。

 もう少しだ、もう少しで異世界人を殺せる。ゆっくりゆっくりと近づく。


 殺さないと。

 

 異世界人は殺さなきゃ。殺さないといけない。でも、どうして殺さないといけないのか。

 まあ、どうでもいい。アスハには関係のないことだ。ただ異世界の人は殺さないといけない。

 

 そうしてペルシダの後ろに立つことが出来た。


 手にあるものを逆さで持ち素早くペルシダの方に向ける。

 銀色の輝きがペルシダの皮膚に突き刺さろうとする。



 刃物はペルシダの首に突き刺そうとするその瞬間……後ろからアスハの手を誰かが取った。

 

 どれだけ腕に力を入れても動く気配がない。

 

 後ろを見ると大翔がいた。片手にはスマホがあり、そのスマホは光っている。

 おそらくビデオを撮っているのだろう。

 

 大翔はスマホをソファーに投げると更に腕を後ろにやられ、痛みで包丁を離してしまった。


 アスハは大きく叫ぶ。


「離して! 異世界人は殺すか捕らえる。そういう決まりでしょ?! 魔王様の命令は絶対!!!! アドラメイク様のために私がやらないとだめなの!!!!」


「………色々と聞きたいことがあるけど、とりあえずアスハを返して貰うよ。ペルシダさん」


「分かった。アスハちゃん、すぐ助けるからね」


 そういって、ペルシダは左手を向け、そして触れてきた。

 手がアスハの皮膚に触れた。何か音が聞こえた気がする。

 

「あれ……」


 その瞬間何故か頭は動かなくなり、アスハは意識は失った。

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