第2章24話「求められないもの」

 爆発音が所々で聞こえる。

 その音が鳴るたびに悲鳴が響き渡る。

 流河はそんな子供を見かけてはなだめるしかできない。


 その顔を不安から希望へと立ちなおすことは出来ない。

 大翔みたいなことは出来ない。


 流河達は地上にいる。

 最初こそ地下に避難していたが、突然地下が崩れていった。

 何とか逃げ切れたものも、それも狙われている行動なのだろうか。


 他の所がどうなっているのか分からない。


 そういうこともある可能性があると事前に伝えられてはいたが、それが効果があったのか分からない。


 どの方向に誰が来るのか分からない。

 魔法を使えば相手に位置がばれる可能性がある。

 かといって相手を放置するわけにもいかない。


 巻き添えを食らわないように流河たちは移動しなければならないのだ。


「っていってもな……」


 地上に出れば視認性はものすごく高い。


 砲弾がこちらに襲ってくることがない。

 相手からしたら、勝ち確定だ。

 そんなことで無駄な資源など消耗したくないのだろう。


 地球を支配している以上、資源の無駄遣いなど考えていないのかもしれないが。

 街も破壊しているから何とも言えない。


 問題は魔法はエネルギーであって資源ではない。

 魔力を許す限り何発もビルや建物を破壊することが出来る。


 もし相手がここまで来た時、こちら側も守るために戦わないといけない。


 その周辺はとても危険だ。

 隠れていたらその方向には攻撃することが出来ず、そして相手に悟られてしまう可能性がある。


 流れ弾で流河達は簡単に死ぬ。

 流河達は移動して戦いのない場所に避難し続けなければならないのだ。


 移動を何時間も続けるという可能性がある以上、ここにいるのは体力のある10歳から20代の若者たちが中心となっている。


 紫花菜やあすはもここにいる。

 そして紫花菜と大翔の関係に溝を入れたリリィという女性もだ。


 皆顔は不安でいっぱいだ。

 これでもまだましなのだ。

 洗脳の効果により戦いの記憶がないので、皆トラウマというものがない。


 今の状態でトラウマが更に発動していたらと思うと想像が出来ない


 でも怖がれている。

 戦いが終わった直後の何もかも無気力で死相が何人も出ている時よりましなのだ。


「メテオールはどこにいるの?」


「皆を守るために戦ってるよ」


 あすははそう頭を撫でるが、恐怖は消えない。

 動きたい。どこか隠れたいけど許してくれない。


「怖いよ……」


「早く来て……」


 そのような願いが起きてしまったらそれは大問題なのだが、子供たちは不安で涙ぐんでいる。


 子供たちだけでない。

 自分とおなじくらいの年齢の人も地面に座り込んでいる人や、泣いてる人もいた。


 流河だって怖い。

 それでも前に向けるのは自分が上の年齢であることと役割を与えられたからだ。

 涙組んでいたら周りが見えない。

 大翔は戦いが出ているのに、こんな後方でうずくまって泣くわけにはいかない。


 だから信じるのはジェイドだ。


 大翔を信じることはしたくない。

 自分の不安を大翔で解消させたくない。それを悟られてしまえば大翔は更に背負ってしまう。


 流河は紫花菜の方を見る。やはり紫花菜が一番もろく見えてしまう。

 紫花菜の目線は大翔の方面を見ている。その顔はとても複雑そうな顔をしていた。


 恐怖と不安と心配と苦しみ。その表情は14歳の女の子がしていい顔じゃない。

 自分だって怖いはずなのに、大翔の心配をして辛い記憶が蘇って苦しんでいる。


 事情を知っているからこそ、流河はそう見えてしまった。

 だが実際は全くの逆だ。


 その顔を見た周りの男の子たちが


「だいじょうぶだよ!!」


「げんきだして!!」


 と大きな声で紫花菜の周りを包む。

 その子供たちの声に紫花菜は少し笑って膝を曲げた。


「ありがとう」


 頭を撫でた。

 その笑顔に小さなこどもたちは少し勇気溢れているように見える。


 父を亡くして、そして戦いに巻き込まれて。

 それでも泣かずに他人の事を考えられる。

 立ち直る力もある。

 それでいて子供たちを前向きにしているからすごいことだ。


 流河にはできない。役割を果たせているだろうか。果たすためにはどうすればいいのか。


 紫花菜に感服と少しの悔しさを感じ、思わず手を握ってしまった。

 避難命令が出た。流河は気持ちを入れ替えて移動するように促す。

 叫び声が聞こえた。


「落ち着いて!!」


 逃げることは出来ても、死から抜けだすことは出来ない。

 その不安が周りを伝播する。

 いつになったら終わるのだろうか。早く終わってほしい。

 だが戦いは一日そっとで終わらないだろう。


 相手が世界を支配している以上、一日で撃退できる量しか投入するはずもない。

 ましてや相手がこちらの体力を考えて、ずっと攻撃し続けてきたらそっちの方が危険なのだ。


 此方もどれだけ移動しづける羽目になるか分からない。

 睡眠を挟めるようにしてくれるはずだが、状況によって休憩だって出来るか分からないのだ。

 だからこそこんな休憩時に余計な心配を重ねて、心を疲弊してしまったら後々動けなくなる。


 流河は役割に応えるべく周りを見渡して、確認し続ける。

 周りの表情を確認して、元気を出させて避難を出来るだけ兵士たちが煩わせないようにするしかない。


 一人だけ違う顔つきをしていた。不安という大きな渦の中で気迫を感じた。

 それは車花だった。


 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 ガーベラの心は先日の作戦会議の事しか頭になかった。


 ガーベラは何故呼ばれたのか分からなかった。

 流河とペルシダを呼び出してほしいなら大翔の方が直ぐに見つかるのに。

 どうしてただの一般兵であるガーベラがここに呼ばれるのか。


「流河はガーベラと共に避難の補佐をしてくれ」


 その言葉にガーベラは何も言えなかった。

 ジェイドは一度こちらに目を向けたがその目を合わせることは出来なかった。

 そのあとの話は途切れ途切れにしか覚えていない。

 頭の中で処理をすることが出来なかった。

 ただ一つ分かったことがガーベラは後方に回され、騎士は悪魔と戦うことだ。


 何のためにこれまで努力してきた。

 流河達を見ても自制心を抑えて毎日鍛錬して、

 前線に立てるように勉強して魔法の研究をして。


 一度はその力を認められ、前線に立てても役に立つと言われたのに。


 これでやっと家に泥を塗らなくてもいいとそう自信を持てたのに。

 ガーベラは直ぐにジェイドに直談判した。


「どうして私が後方に回されるんですか?」


「相手の魔石の製造が想像以上に多い。君では歯が立たない」


 その事実はガーベラの心に暗い影を落とす。

 どれだけ頑張ろうが魔力量。ただそれだけ勝ち負けが決まる。

 ただその一つだけ他がどれだけ優れていても不利になる。


 戦場とは常に誰かと戦う。

 一度なら偶然に勝つことも可能かもしれないが、二度も三度なら絶対に通用しなくなる。


「でも他の騎士だって戦うのでしょう。なんで私だけなんですか」


「君は瞬間的な強さなら騎士たちを超える力を持っているのかもしれない。なら君を避難民の護衛に出すのが一番最適解だと私は思うが?」


「それは……」


 魔力量。

 ガーベラの身体魔力は上級一歩手前ぐらいだろうか。

 それに対して騎士は大抵が上級以上の人が選ばれる。

 それでも流河が騎士たちと肩を並べていたのは魔法と武術の練度だ。


 魔法を撃つたびに魔力の無駄というのはどうしても起きる。

 ガーベラは一対一ならほぼ100%魔力の無駄なくうつことができる。

 それに身体魔力なしでの組手ならガーベラもかなり強い。

 だがそれも大翔の電気信号魔法でアドバンテージを奪われた。


 持続的な強さ、避難民の数、戦力の見直し。

 それらを理性的に考えても、元々身体的に考えてもガーベラが後方に任されるのは妥当だろう。


 そう妥当なのだ。ガーベラが後ろで守るのは。


 辞めよう。戦闘中なのだ。いらないことを考えている暇などない。

 ここで乗り切れば次はフラガリアの奪還だ。

 その時こそ前線に出ることが出来る。


 そう心を入れ替えて、今は与えられた任務をこなすことに集中しよう。

 それすら出来なかったらガーベラは本当に終わってしまう。


「車花!!」


 敵が来た。空間魔法で飛んできたのだ。

 流河の言葉にガーベラは構える。

 他の仲間は民間人を守ろうとしていた。


 戦えるのはガーベラだけだ。


 ガーベラは火魔法を光魔法で加速させて発射する。

 一点に加速された火の粒子は相手に当たると加速して全身を火に包ませる。

 指向性を弱くしているので、その光に合わせて防御魔法をすれば相手は防ぎきれない。


 魔力がないガーベラが相手を倒すために作った魔法だ。

 相手の虚を突き、焦りを生ませる。

 何度も練習し、無詠唱で撃てるようにした。

 ガーベラのオリジナルの魔法。


 だが相手に効かなかった。

 正確には効いたが、相手は冷静に身体魔力を体から放出して炎を体から分離させた。


 そうだ。相手は防御魔法や身体魔力で全身を覆うようにするだけでいい。

 その選択肢はかなり強い。

 後方に聖級の魔法使いを置く余裕がこちらにない。


 あまりにも硬い。相手は全身に防御魔法を張り続けている。


 魔法使いは上下どこからでも攻撃を仕掛けられる。

 それをされるとガーベラはものすごく相性が悪いのだ。


 ガーベラは攻めあぐねていた。


 横から灰色の水弾が相手の目に当たる。

 1cmも満たないものがその相手の顔面に当たったのだ。


 流河だ。

 流河の手に魔石があって、指で狙いをつけていた。


 相手は顔に防御魔法を張っていたので痛みを感じていない。


 だが張ったのが間違いだった。その水弾は外れなかったのだ。


 粘土勢のある土を発射したのだ。

 威力もなく速度重視。防御魔法や魔力障壁を使えば簡単に防げる。

 だが防いでしまえば視認が出来なくなる。


 防御魔法を使った魔力をそのまま横に流したら視界は開ける。

 相手はすぐにそうしようとしたが対応が遅れた。


 ガーベラは短剣を取り出して背中に回る。

 その先端に6属性のジェイドが言う断裂魔法を発動させ、相手に突っ込む。


 相手は防御魔法を発動させるも防御魔法を突破し、内部に入ることが出来た。

 ガーベラが出来る選択肢は一つしかない。


 相手の魔力を奪う。

 電気信号魔法を発動させた。

 大翔が作った魔法。そしてガーベラの才能を無に返した魔法。


 だがこれしか相手を無力化する方法はなかった。

 相手は全身から身体魔力が無くなり気絶した。


 どさっと倒れる音が二つ。

 今ガーベラが倒した相手とそして流河だ。


 呼吸音が激しい。魔法を撃ったのだ。ターゲットが変わるかもしれないのに、撃ってくれたのだ。

 目を合わすことは出来なかった。

 きっと相手は不機嫌になるかもしれないが見れなかった。


「……助かったわ」


 助けてもらったのに、心から言うことが出来なかった。

 助けられた。一人では倒せなかった。


 それも魔力を持たない流河にだ。狙われたらまず助かることはないというのに。

 それが自身の心を傷つける。


「いや礼をいうのはこっちだよ。紫花菜たちを守れた」


 流河は礼をいい、他人の心配をしている。

 自身の将来よりも他人を。

 それがまた心に傷つく。


「ありがとうな。これからも頼むぜ」


 その流河の声にガーベラは反応できなかった。というより何を言っていたのか聞いていなかった。

 流河を見れなかった。


 自分の浅ましさに嫌気をさすようで。


 周りはまた泣き出す。


 流河達は子供たちの世話にまた取られる。


 これで少しは顔向け出来るだろうか。

 敵が来た方角はちょうど大翔の方面か。

 悪魔が大翔に集中しているのか分からないが、ガーベラは少し嬉しいとそう思ってしまった。


 相手を倒すことをすれば、そして全員護ること、そして成果を上げられる。

 そうすればきっと自分も……


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