第2章23話「闘う者達」

 

 ハルバートは槍を回し続ける。

 どこから攻撃するのか、ばれにくくするためだ。

 剣と違って突き刺すことを目的とされた槍はどこを狙っているのか分かりにくいせいで防御魔法を展開しづらく、またこちらの魔力の消費も少ない。


 また距離も長いため、相手が剣士や闘士の場合相性がとてもいい。


 また電気信号魔法とも相性がいい。

 相手に触れることが出来れば魔法が発動し、魔力をそこまで消費することなく相手を無力化することが出来る。


 今までは殺し合いだった。

 お互い小さな傷など気にせずにやりやっていた。

 回復魔法があるのだ。傷に痛み頭に余計な情報を入れて、余計に痛みを覚えるだけだ。

   

 だが今回相手が意識しなければならないのはその小さな傷だ。

 魔力消費が少ないということはそれだけ、魔法の発動が速くなり次の魔法を撃つまでの時間が短くなるということ。


 いつ大技が来るか分からない。

 相手は警戒に意識を無意識にしてしまうのだ。


 警戒したところでハルバートの攻撃に耐えることなどできない。

 それで捕獲をすることが出来れば味方の戦力が上がるのだから、自然とやる気も上がってくる。


 むしろハルバートは前よりも対複数戦は強くなったといえるだろう。

 ハルバートは前に進む。相手を次々と無力化し始めた。


「何だこの魔法は!?」


 相手が悪魔でなければ魔力で圧倒するより技量で倒した方が楽だ。

 相手の防御魔法に合わせて、後ろの手で槍を下にはたいた。

 身体魔力によって片手でも槍をしっかり持てる。


 槍の先は相手の腹から首に変わり、相手は対応することが出来ず電気信号魔法で気絶する。


 槍は手の中で回転し、ハルバートはそのまま横に移動し、槍の持ち手を入れ替えて相手を突きにかかる。


 身体を半身にして、通常よりも射程距離が伸びたそれは

 相手の横っ腹をかすめる。


 それだけで相手を無力化することが出来た。

 調子がいい。魔法がいつもより発動する時間が速い。


 それに出力も上がっている気がする。

 今までは一人を倒すのに時間は多くかかっていたが。

 一秒で数人を倒すことが出来る。


 だがこの攻撃は相手に知られてしまったら。

 この魔法の弱点は防御魔法だ。


 電気信号魔法である以上、攻撃力は全くなく、相手が全身に防御魔法の膜を張れば簡単に防御することが出来る。


 そして相手の魔力量が多いとその分、電気信号魔法を当て続けるか、魔力量を挙げて強い電気信号魔法を当てるかしかない。


 だからこそ素早い制圧すればするほどこの魔法が活きていくのだ。

 ハルバート達はこの魔法を見られた相手を全て無力化することが出来ている。


 だがそんなやる気も直ぐに失われた。


「悪魔だ!!」


 巨大な魔力反応。悪魔だ。

 ハルバートは直ぐに索敵を開始する。

 分かれ道の先からだ。

 悪魔は飛行しているのか、魔力反応が空中で素早く動いているのだ。


 遂に来てしまった。

 しかも状況は最悪だ。

 このままだとハルバートに接触してしまう。

 相手にまだこちらの魔法が気づいていない絶好の機会だというのに。


 他の所でもそれを気づいた仲間が時間稼ぎのためか、ビルから飛び出した。

 元々逃げ出すつもりだったのか、魔石はあまりない。


「駄目だ!! お前たちは……」


「行ってください!!」

 

 ハルバートは分かれ道があるところまで来てしまった。

 その覚悟にハルバートは追いかけることが出来なかった。


 新しい可能性を大翔に提示されて、そして大翔の生存率を上げるための対応をジェイドが考えて何も口出しすることは出来なかった。

 

 仲間を囮にする。

 作戦が決まり、すぐにジェイドは作戦を騎士たちに伝えた。

 皆手を挙げて雄たけびを上げてくれた。


 その選択をハルバートは取った。

 だからその選択の結果を見てしまった。

 

 その選択によって払わなければいけない犠牲を。

 ビルから飛び出してきた仲間は剣を構え、空中移動魔法と風魔法で急速に接近する。


 だがその時間稼ぎができたのはわずか数秒だった。

 その決死の一撃は防御魔法ではじき飛ばされた。

 そして顔を向かって腕を振りぬいた。


 肉をえぐれ、血が飛んでいく。

 その一撃は防御魔法も展開することもできず、また手で顔を切り裂く時間が早く、仲間は吹き飛ばされることなく、そのまま前に加速して倒れた。


 そこに今度は別の剣士が飛び込んできた。

 魔法を使わず、目の前で仲間が殺されたのに関わらず勇敢に立ち向かった。


 身体魔力を大きな柱を作り、その仲間を閉じ込める。


 悲鳴を上げている。

 柱の間の距離はだんだん近づいていき、そして一気に圧縮された。


 肉が潰れる音と共に血がその柱から飛び出してきた。


 その姿にハルバートは怒りが溜まる。

 槍を構えて迎え撃とうとする体ををぐっとこらえた。


 戦うか。

 まだ悪魔の情報は大翔、ジェイド、タンドレスの所に来たということだけだ。


 後ろにはチェリアがいるが他にも悪魔がチェリアの元に来るかもしれないと考えると、ここで押さえたい。


 悪魔が予定より遅れてきたおかげで少し余裕はある。


 何人死ぬ。

 ハルバート達が逆転の一手を踏み出すために何人死ななければならない。


 だが防衛範囲をハルバートが抜けることでどれだけ影響があるか分からない。

 頭では分かっているのだ。

 犠牲を受け入れなければ勝てない。

 何度も経験してきたことだ。


 だがどちらを取るべきなのか迷ってしまう。

 相手はものすごいスピードでこっちに向かっている。


 後ろにいた騎士たちがハルバートの前に出た。

 そして逆側を頼むと声を出さずにそう伝えてきた。

 騎士たちは加速してその悪魔に戦闘を開始した。

 もうハルバートは感じることは出来ない。


 その戦いも、その生気にあふれた顔も、声も。


 ハルバートは唇を噛みしめて仲間と逆の方へ進む。

 一人でも多く無力化する。


 その想いがハルバートの体を動かした。


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 タンドレスは現場にたどり着いた。

 悪魔が二体連携してきたという連絡とぶつりと肉が切れた音が自衛隊の仲間からの通信で入ってきたからだ。


 その反応はロストされていると司令部から連絡があった。


 悪魔が来ている。

 前線が崩れ始めたのだ。


 ここからが正念場だ。

 せめて後方に行くことがないように願うしかない。


 その自衛隊が最後にいた場所に行き、魔力反応で感知した所大きな魔力反応が近くにあった。

 多くの仲間が死体となっていた。


「あぁ、タンドレスじゃないですか」


 悪魔が二体。

 相手は多くの人を殺すつもりで来ているのか。

 それともただの気まぐれなのか。


 知らないやつが一人。そしてあれは第6位タンムだ。

 金髪に黒目の男。ガタイはないが、でも細く引き締まっていた。


 フラガリアやアドラメイクのクローンによる魔石で相手はおそらく神級と人と同じ魔力量を持っている。


 相手はタンドレスを見て、


「今までの恨みを返してもらいますよ」


 初手から相手は全力だった。

 その振り上げられた剣の一撃は重く、タンドレスは後ろに吹き飛ばすくらいの力を持っていた。


 ビルに穴が空いた。


 更に相手は攻撃を仕掛ける。

 もう一人がタンドレスにかかとを落としてきた。

 

 タンドレスは再び剣で受け止めるも再び吹き飛ばされる。


 衝撃でビルに大きな円を作る。

 それでも勢いを止めることが出来ず、ビルは外壁を残して、後は全てぼろぼろに壊れてしまった。


 更に光魔法がタンドレスを襲う。


 タンドレスは外に出て、相手の攻撃に合わせる。

 タンドレスは光魔法で相手をけん制しつつ近づいてくる相手に防御を合わせた。

 そうしようとした。


 光魔法が四方から襲ってくる。タンドレスは防御魔法を全身に張り、それを防いだ。


 空間移動魔法でタンドレスを囲い込んだ。

 魔石で空間移動魔法と光魔法を発動させている。


 タンムの魔法制御が得意なのだろう。


 何とかタンムに近づいて攻撃するも基本がちゃんとあるので、相手に隙が出来ない。


 また空間移動魔法でタンドレスは囲い込まれた。


 更に爆発魔法だ。

 最初の躱しが遅くなってしまい頬が切れた。

 傷は浅いのか血がにじむ程度だった。

 タンドレスはそれに気にすることなく相手の攻撃をさばいていく。


 前に戦った時と同じだ。

 相手は基本に忠実で、そこに光魔法と爆発魔法、そして空間移動魔法を組み合わせていく。

 空間移動魔法を消しながら、空間移動魔法を新しく作るということは出来ない。


 空間移動魔法を一度使ったら、使い続けるまで空間移動魔法に意識して対処すればいいということなのだろう。


 だが剣を持ち、隙がなかった。

 これだけ空間移動魔法と光魔法を使いながら、空間断裂魔法も防御魔法もしっかりしている。


 常に防御を取れる体勢で攻撃しても防御魔法で防御される。

 今までならタンドレスの魔力で突破出来たはずだが、魔石のせいでそれも叶わそうだ。


 もう一人情報のない悪魔は大したことない。

 ただタンドレスが何とか空間移動魔法による網を回避しタンヌに近づこうとすると、その悪魔が相手をする。


 その悪魔は、確か威力と速度は速いが、躱せばあまり脅威にはならない。

 魔力は高いし、魔法使いの能力は高そうだがまだ成っていない。


 戦い方が分からないが、多分そこまで気にしなくてもいい。


 タンヌは隙が無く、抑えようとしている。

 そこにもう一人の悪魔が火力の高い攻撃をしてくる。


 だいたいの相手の攻撃の仕方は分かってきた。

 そしてそれを可能にする魔石。


 大翔は知らないが、ジェイドは大丈夫なのだろう。


 さすがに魔石を相手は多く持っているので中々厳しい戦いだ。

 だが正面を突破する力がタンドレスにはある。


 出し惜しみはしない。

 悪魔は殺すことより無力化が、より早く捕獲することが勝利に繋がる。


 魔石の中には子供が閉じ込められている。

 魔石になれば元に戻ることは出来ないので実際には分からない。


 だが身体魔力を使い続けると体がだるさを感じる。

 その子供はどうなのだろうか。魔力を使われ体はどうなっているのだろうか。

 考えるだけで気分の悪い話だ。


 早く倒してしまいたい。


 そして何より大勢の仲間を殺したのだ。その借りを返していない。



 タンドレスは一度距離を取ると異能を解放した。

 身体魔力が爆発的に広がっていく。

 その魔力量に相手は後ずさりをする足を意識的に止めた。


 タンドレスが持つ異能は魔力変換。

 その名の通り精神魔力を身体魔力に身体魔力を精神魔力に変換させることが出来る。

 その分を事前に決めないといけないという欠点があるので、相手の魔法を完璧に打ち消すことは出来ない。


 身体魔力を精神魔力に変換することは出来ないので、使うのは精神魔力を身体魔力に変えることだ。


 大翔みたいに先読みや透視、魔法の模倣などいろいろできるわけではない。

 ただ一つしか使い道がない異能だが、タンドレスに取って最強の異能だった。


 元々異能を発現したときに貰える精神魔力を変換することが出来、大幅な身体魔力を得ることが出来る。


 今までかなりの戦いをしてきたが、この異能の精神魔力が途切れることはなかった。

 ほぼ半永久的にこの異能を使え、戦い続けることが出来るのがこの異能の利点だ。


 タンドレスは足に力を入れる。

 地面が割れタンドレスは一気に接近して剣を振りぬく。

 相手の魔石と本人の魔力で作った防御魔法を割った。


「これが元4位の実力者ですか!!」


「さあどうだろうな」


 だが剣で防がれた。

 

 タンドレスは更に攻撃をする。

 もう一人はあまり強くはないがやはりタンヌが厄介だ。


 タンドレス相手についてくる。

 魔石ありだとタンドレスの魔力についてきている。

 魔法でも簡単に倒せない相手なのかもしれない。


 かといってあまり無駄話をしている暇もない。

 タンドレスは剣に魔力をこめる。

 空間断裂魔法。


 魔法には初級から神級までの7種類の区分を分けられている。

 それは一定の基準が含まれている。

 まず遠距離なら持続時間や距離、剣にまとわせるなら持続時間やそのまとわせる距離など評価の対象があり、最後にそれがどれだけの魔力消費をすることで使えるのか

 

 上級クラスでも教えれば王級魔法を使うことが出来る。


 車花や大翔、そして魔石を持ってなくても上級騎士でも技量があれば使える。

 ようはそれを使って継戦能力はどれだけ落ちるかだ。


 一発使って、自分の魔力量の何割持っていかれるか、其の後どれだけ戦えるかでその七段階から選ばれる。


 だからこそ上級クラスの魔法でも魔力を込めて作れば王級魔法に達することも出来る。

 そして空間断裂魔法は最低でも帝王級の魔力消費になる。


 タンドレスの魔力量なら、空間断裂魔法は射程が伸び、その消費量は神級に達する。


 黒い剣はだいたい剣の10倍以上は伸ばすことが出来、その巨大な剣で相手を跡形もなく消すことが出来る。


 タンドレスはそれを前に振りぬいた。

 その黒い剣が全てを呑み込んでいく。

 空気が無くなり、その剣を振った所に急速に空気が集まって大きな風が出来た。


 電気や黒火が広がる。

 魔法の維持は出来ている物も完璧に制御出来ているわけでもない。


 制御しきれないが別の魔法へと変換されているのだ。

 

 相手は防御魔法を展開した。

 だがかすっただけで相手の皮膚は消え去る。


 ビルに穴が空く。破片が飛ばなかった。その空間事切ったからだ。

 だがその間から様々な魔法が飛び出て、二次被害によりビルは丸ごと崩れた。


 身体強化魔法で名を知らない悪魔の剣をそのまま捕まえる。

 そして両手に再び魔力をこめて剣を振る。

 

 名も知らない悪魔ははかわそうとしたがその剣先が肩に触れる。

 その肩はえぐれた。


 一気に血しぶきが飛び、悪魔は痛みで顔をしかめる。


 タンドレスはまた横に剣を構えて魔力を込める。

 相手はその人を空間魔法で上に逃げた。

 だがそんなものでタンドレスの攻撃をかわせるはずがない。


 回復魔法をかけられ意識の回復した悪魔が防御魔法を発動させる。


 空間断裂魔法はその名の通り空間を断裂する。

 がそれは魔力量による話だ。

 魔力を一つ一つの粒として見た場合、その一つ一つの粒は相手の防御魔法の粒を問答無用で消すことが出来るが、相手の方が魔力が多い場合、空間断裂魔法の粒は効力を失い、消えて防がれてしまう。


 だから相手は高密度な防御魔法を張った。

 

 だがタンドレスの力には意味をなさない。

 防御魔法を切り、そして名も知らない悪魔の両足と腕を切った。


 残ったのはタンムだけだ。


 余り長引かせると他の所が危ない。

 今すぐ決める必要がある。

 だが相手は固い。異能を使って魔力を上げても相手はついてきた。


 そして少し気が抜けた瞬間に相手は攻撃を入れてくる。


「あなたを倒せばアドラメイク様に認めてもらえる」


「それに何の意味があるんだ?」


「だから裏切ったのか!!」


 そうタンヌは攻撃してきた。

 

「貴方を倒せばそれ相応の地位が貰えるのだ!! やらせてもらう!!」


 今までと防御態勢は変わらない。だが攻撃の勢いが強くなる。

 可哀そうな奴だと思う。ちゃんと防御態勢を取り続けていたらこいつはかなり厄介だ。


 少なくとも生き延びることは出来るだろう。

 だが成果が、結果が必要なので無理やりせめて魔力量は削られる。


 確かに魔石によって魔力量は変わらない。

 だが無尽蔵に魔力が増えるタンドレスと違って、魔石を補給する必要があるタンヌは魔力量がタンドレスより低いときがある。


 タンドレスは相手の攻撃を受け続けた。 

 光魔法を防御魔法で受け止め、そして相手の空間断裂魔法を受け流した。


 そうして相手の魔石の補給をするタイミング。


 タンドレスは剣を自分の手に当てて、そして引き抜いた。



「レギオン」



 そうタンドレスは唱えた。

 タンムは驚いた。

 この14年間で身に着けることが出来た技。

 体の魔力が急激に外に出る。


 そしてそれは大きな結界となり二人を包み込む。


「カフト・ギーツォンタ」


 身体魔力はただ微妙にだが精神魔力も含まれている。

 この多大な量だからこそ結界をより強固な形に形成される。


「力に沈め」


 身体魔力で剣を形成する。

 四方から剣をタンムにぶつける。


「うわああああああああああああ!!!!!」


 タンムは盾を構えて全身を防御魔法で固めるが意味はなさなかった。

 相手を攻撃しづける。

 剣は防御魔法を貫いて、そしてタンヌを串刺しにした。

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