第2章25話「求められるもの」

 一人を戦闘から離脱させた。

 今相手しているのは親衛隊第8位のエルリト。

 そして親衛隊第11位のバフォット。


 そして名もなき悪魔1人。


 大翔は魔剣と自分が出せる魔力を最大限使って光魔法を横一線にふった。


 かなりの速さで撃ったが、相手は難なくかわした。


 だが相手の目つきが変わった。警戒している。

 前の戦いの時は敵に回されたが、大翔は今までために貯めた魔力がある。


 生涯使うことがなかった魔力。

 悪魔も同じ年数魔法を使ったことはないはずだが消費しないといけないとなるとおそらく魔石に置き変えられているはずだ。

 今作られている身体魔力と異能の精神魔力を考えると、魔力量はこの中で一番多い。


 問題は手数と攻撃の質だ。

 その二つは相手が勝っていて、しかもそれが複数人で攻めてくるから、勝つことが難しい。


 相手はにやついている。

 攻撃魔法の威力に。

 それは恐らくこちらの出力があまりにも低い。


 こちらは攻撃魔法を上級魔法しか撃っていない。魔石で増幅するときか、少し余裕が出来て魔剣で魔法を撃った時くらいだ。


「どうした!! お前の力はそんなものか!!」


 そうやって相手は勢いよく攻めてきた。


 大翔は光魔法を撃ってけん制する。魔石ももうそろそろ尽きる。

 そうなれば形成は更にきつくなる。


 この対多数戦でどうすれば大翔は勝つことが出来る。


 対多数の相手の時の戦い方について大翔は考えなければならないと、そう戦う前に策を考えていた。


 前回は相手が魔石を持っていなかったからこそ成り立った話だ。

 次はこうはいかないと。


 大翔は対策を聞きに回った。

 しかし皆の反応はあまり良くなかった。というよりも皆同じなのだろう。

 聖級クラスの魔石を何個も持っている相手と戦うこと自体がまずそもそもないのだ。


 どちらかというと悪魔側が魔石を持っているので、多数戦をやる側の意見しかない。


 なので次に考えたのは創作物だ。

 昔見た特撮や流河で見ていたアニメで対多数戦をやっているのを見たことがある。


 だが大抵複数戦になるのは悪役側で、主人公たちが徒党を組んで悪役と戦っている。

 それは様々な意味があるだろう。

 まずそもそも相手が強くないとボス戦がつまらなくなる。

 そして力を合わせることを美としていて、仲間との絆を再認識させることが出来る。


 一緒に戦っていた仲間の死、主人公の最後の成長など様々な展開と話数で主人公より相手が強い方が便利だからだ。


 だが今回大翔がしなければならないのはそんな悪役側だ。

 そして相手は自分よりも強い力を持っている。


 何か参考にするものはないか色々調べた結果、対多数戦の悪役の共通点が見えた。


 それは攻撃の耐えだ。

 悪役は強く、体が強靭なため主人公の蹴りや殴りに対して痛みを感じることもなく反撃して相手を圧倒する。

 攻撃は通るが再生能力が高すぎて倒せない。そもそも攻撃を通さない力を持っていると。攻撃の耐えが他とは違うのだ。


 それを参考にして戦い方を作ってみると、体を強化するしかないのだ。

 身体強化魔法も魔力障壁も原理は同じだ。

 魔力が内側に入っているのか、外側に入っているのかの違いなだけで強度があれば相手の攻撃を受け止めることが出来る。


 だから全く意味のないことをしている。

 少し体を離す必要があるから少し魔力消費が少なくなるというのもあるが微々たるものだ。

 ただ防御魔法で止めればいい攻撃を体で受けて痛みを覚えるのだ。


 だがこの身体強化魔法と魔力障壁、この二つの違いは相手の攻撃を確実に出させることが出来るという点だ。

 攻撃は通っている。だが致命傷にはならない。

 前回の戦い。此方が負傷しているのを機にバルバドとモレクは一気に攻撃し続けた。

 体勢が有利だとそう思った瞬間相手は詰めにかかる。


 創作物では悪役の方が強いので、主人公たちが何度も全力で攻撃するもそれを受けて動じないが、今の状況では全力で来た攻撃をそれを軽々しくいなしていたら、相手も警戒するだろう。


 だからあえて、隙を見せた所予想通り相手は体勢を乗り出してきた。

 攻撃が激しくなる。耳が爆発魔法でおかしくなりそうだ。


 360度どこから攻めてくるか分からない。常に警戒し続け、大翔は何とか相手の攻撃をかわした。


 遠距離戦はかわす方向性で行くとして、受け止めなければならないのは近距離の攻撃だ。

 異能によって相手の攻撃にかける魔力量は測ることが出来る。

 かわすことを基本とし、相手の近距離攻撃がかすり傷になるくらいに押しとどめることが出来れば、相手は更に身体の体勢を乗り出していくかもしれない。


 そうして相手を疲弊したタイミングを一気に叩く。


 相手の攻撃に合わせて体を吹っ飛ばせば相手との距離を取れる。

 まだ大翔は自身の魔力をあまり使っていない。上級

 自分を弱く見せ、大技と魔剣に頼る。


 相手を休憩させない。休憩しそうになったらわざと攻撃を貰って相手を攻撃に引きづりだす。

 それが対多数戦で生き残るための一つ。


 そして勝つためには相手を無力化しないといけない。

 それが創作物での対多数戦での悪役と大翔の違いだ。

 主人公一人一人を圧倒するような力は悪役が持っているからこそ、悪役は主人公たちに力では勝っている。


 だが、大翔は悪魔一人一人に出力で負けている。

 なら勝つためには他の所で勝負をしなければならない。

 例えば相手が知らない初見技。


 もうひとギアを上げるタイミング、そのタイミングで大翔は攻撃を仕掛けて一人を持っていく。


「っっっつうううう!!」


 そう心の叫びを大声に出して、相手の警戒心を少しでも解く。

 大翔は耐え続けた。


 相手の四方八方から来る光魔法をかわし、爆発魔法を身体強化魔法で耐える。

 襲ってくる刃をいなし、剣で相手の格闘をさばいていく。

 大翔はわざと蹴りを食らって飛ばされて相手との距離をリセットし、相手の攻撃に備える。


 だが痛いものは痛い。

 まともな怪我をしなかった。

 今にして思えば身体魔力が体から流れていたせいで、転んでも擦り傷が出来なかったのだろう。


 だが、今は身体のいたるところで打撲や切り傷がある。

 回復魔法で気になるところは治しているが、やはり痛みで顔が歪むときがある。


 痛い。

 でも前の戦いなんか魔剣なしでそして魔石が体を蝕んでいた。あの時を比べればこんなものましだ。


 これで周りに人がいたらもっと厳しかっただろう。

 街は戦いの跡が残っている。


 大翔は一呼吸入れた。

 やはり周りに誰もいなくて良かった。


 こんな戦い誰かがいれば巻き込まれてしまう。

 ただ眼の前の事に集中できる。


 相手は光魔法を大翔に向けて放ってきた。


 大翔は相手の攻撃に何度も剣を合わせて距離を取る。

 魔剣は盾の役割にもなる。側面の部分で攻撃を受けきれば目も魔力も温存出来る。


 突撃に防御魔法を張らなくても、剣がある程度防いでくれる。

 それに攻撃を受け止めることで後ろに簡単に距離を取ることが出来る。


 この剣についても異能で調べることが出来なかった。

 この剣は軽く、流河も難なく持てていたことから相当軽いはずだ

 成分を分析すれば同じものを作って、壊れないボディーアーマーを作れるのではないかと思っていたのだが、そう物事は簡単には進まない。


 今回は時間がなかったからこそ諦めることになったが、早く成分を調べよう。


 大翔が今やるべきことはこの悪魔に勝つことだ。

 この魔剣を調べるのは後だ。


 大翔は剣に魔力を込めて、光の球を8個作る。

 その光の球は大翔の近くに浮遊し、移動のさなかに光線を発射する。

 四方八方から襲ってくる光の線が相手の攻撃を相手の移動を阻害する。


 少しは警戒したものも、相手はその魔力量にたかをくくった。

 全身に防御魔法を張って、大翔に突っ込んでくる。


 大翔は光の球を前方に集めて、光線のカーテンを作る。

 だがその攻撃は相手に聞かなかった。防御魔法を破る魔力量が足りなかったのだ。


「しま……」


 魔剣を攻撃魔法に使ったせいで空間移動魔法が遅れてしまった。

 身体を足で押さえられ、悪魔は空中移動魔法で大翔を下敷きにして地面を飛行する。


 痛い。地面が抉られ、背中は地面によって削られる。


 大翔は体勢を整えるために足で悪魔を蹴飛ばす。

 だがさらに上から相手が来た。

 大翔は剣を構え、防御の体勢をとった。


 大翔は地面に降り立つことになった。


 三人が地面に降り立つ。相手はいつもの戦い方を取ってきたのだ。


 ずっと慣れない戦い方で大翔を追い詰めようとしていた。

 だから、少し楽をしたかったのか。それとも確実に仕留めきろうとしたのか。


 俺は魔剣と両手から岩魔法を出した。

 大翔と悪魔の間を岩が塞いだ。

 岩は大翔の周りから悪魔たちに襲っていった。

 それを大したことなさそうに悪魔は防御魔法で防ぎながらこちらに近づく。


 大翔はそのままその岩に熱魔法を与えた。


 岩は溶岩となり、相手を襲う。

 ビルはその熱で溶けて崩れる。


 相手は襲ってくる。

 両手で魔法を放っているのだから。


 そう相手は両手から魔法を撃って、空間魔法や空中移動魔法を撃つ暇がないとそう思っていたのだろう。


 でも大翔はまだ両手は空いている。

 大翔はポケットから煙幕手りゅう弾を出した。


 それを一気に点火。音と煙が戦場を包む。


 時間もない。離脱した相手が戻ってきている。


 耐えきれた。やれる。

 そう心に大丈夫だと自信を持ち、剣に魔力を込める。


 ヒーローとして子供たちに求められた。

 英雄の子供として仲間に求められてきた。


 大丈夫だ、大翔ならやれる。やれる力を持っている。

 そう自信を持って、魔剣を握る。


 岩魔法によって分断することが出来た。

 今が反撃のチャンスだ。


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 おかしい。そうバフォットは怪しんだ。

 さすがはフラガリアの息子であって魔力量は多い。

 でもまだ子供だ。戦闘経験などあるはずがない。


 防戦一方で攻撃をあまりしてこない。

 攻撃も単調だった。何故一人が離脱したのか分からないままだ。


 そしてあれだけ攻撃を浴びせても倒れる気配はない。

 こちらは魔石を十二分に使っているのに、致命傷を与えていない。



 まさか、まだ戦闘経験もないような子供が。四人の悪魔の攻撃を受けながら考えているというのか。


 とにかく相手は固い。攻撃をして隙を作るしかない。4人もいて、相手は子供だ。

 やれないことなどない。


 こんなことで躓いてはならない。

 その焦りが伝播し、皆の攻撃が更に激しくなる。


 そしてあることに気づいた。


 硬くはないのだ。

 というよりも


「防御魔法を使っていない?」


 相手は防御魔法を使っていない。魔剣で防いでいる。

 そう遠距離攻撃はかわされ、傷は負っている者も、致命傷はない。

 何より魔剣で防いでいる。それは魔剣で防御を合わせられるということだ。


 何かがおかしい。


 そして今閃光と煙によって視認できなくなっていた。


 どこにいる。


 魔力反応がない。

 そこに向かって攻撃を放つも受けた形跡がない。


 魔剣があった。

 でも囮だ。

 それは知っている。相手は魔剣を身体魔力で操る。

 魔剣を囮にするなどイカレている以外の何物ではないが。


 だったら、どこにいるというのだ。魔剣のその周りに魔力反応で探すがいない。


 でも感じられない。熱でも感じられない。岩で視認も出来なかった。


 何処にいるというのだ。


「ぐあああああああ!!!!!」


 仲間の一人がやられた。大きな声を出して気づいた。。

 何があった。


 溶岩によって見えない。また魔力反応もない。

 見えるのは悪魔二人だけだ。


 そのうちの一人が大声を上げている。

 何かやられたのか。だとしたらどうして。


 子どもの姿はどこにもいないのに。


 魔力反応。

 自分の後ろに大きな黒穴が見える。

 誰が魔法を発動した。その瞬間、前にまた魔力反応が出てきた。


 子供が近づいていた。

 咄嗟魔法に張った。

 だが子供はバフォットを押した。


 バフォットは押されることに反応することが出来ずに押されて穴に入った。


 場所は地下だ。何も見えない。

 目が明るい所からいきなり移されたのだ。

 魔力反応で後ろに悪魔がいることが分かった。

 そして自分の横にはあの忌々しい魔剣がある。

 だがそこに人影が見えなかった。


 光。

 前に子供がいる。電撃魔法だろうか、おそらく挟み撃ちにして、更には仲間を後ろに置くことで躱さないようにしているのだろう。


 だがそんなことを考えて空間魔法を使った。

 警戒しなければならない。

 相手の魔力がどれだけ放つか分からない。

 三人悪魔がいたのに、一人がやられてしまったのだから。


 バフォットは剣と子供に向かって、出力最大の防御魔法を張った。


「があああああ!!」


 だが食らってしまった。

 体の自由が利かない。

 身体から魔力が奪われる。

 何故なのか。その答えは直ぐに分かった。


 魔法を当てられているのは後ろから、つまり仲間からだ。


 どうして仲間が自分に魔法を撃っているのだ。


「どうして……」


 その魔剣が二本の電撃を放っている事が最後の景色となって、バフォットは意識を途切れた。

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