第2章11話「仮面戦士」
子供たちも夜遅くまで遊ばせることは出来ない。
後は帰るだけになったタイミングで流河は大翔に言われたことを思い出した。
「車花」
「駄目よ」
「違うって。大翔に頼まれたことがあるんだよ」
「本当に?」
「本当だ。早く行かねえと」
車花は疑うよりもその疑って無駄にする時間を惜しんだのだろう。
車花の拘束は解かれ、流河はペルシダ達と別れることにした。
確か祭りが終わった後来てくれたいいと言われたが、忘れていた。
どれくらい時間が立ったのだろうか。
流河は走って指定された元に走っていこうとした。
「やべえ」
そんな思いに走っていただからか、気づくことが出来なかった。
子供の一人が、流河だけがまだ祭りを楽しむと思ったのかついていこうとしたこと。
紫花菜がそれに付いていこうとしたこと。
そこに子供たちが紫花菜を追いかけてしまったこと。
ペルシダがついてきたことが唯一の幸いだったぐらいだ。
ペルシダが居なければきっともっと状況は悪化していたはずだから。
大きな間違いをしたと、それを気づいたのは全て後だった。
「はる…と?」
「ああ、兄貴と……」
大翔の顔が流河の横を向く。
そのタイミングで同じく大翔は気づいた。
「紫花菜」
紫花菜は大翔の声を、容姿を見て硬直した。
その顔は理解できない
やってしまった。
よりによって紫花菜をここに連れてきてしまった。
自分の姿をさらしたことにバツの悪そうな顔をしている。
顔が見えなくてもそれが分かった。
それもそうだろう。
紫花菜に取っては信じられない事をしているのだ。
紫花菜に取って最悪な行為を今大翔はしているのだ。
それに対して紫花菜は咄嗟に近くにいる子供の耳を塞ぎ、腕で自分の身体に引き寄せる。
膝で子供を抑えた。まるで子供を外敵から身を寄せさせないように。
大翔が着ている服は
「ヒーロースーツか?」
流河すら大翔を着ているものに信じられなかった。
全身が赤と黒の一枚の服で覆われていて、そして大翔の顔には頭全体を覆い隠すマスクがあった。
これはヒーローだと、一目でわかった。
外国の映画のヒーローのスーツみたいな服を大翔を着ていたのだ。
「……そうだよ」
「何か考えがあるのか?」
流河はなるべく自然にそう質問しようとした。
露骨に大翔に配慮しようと声に出ていないのだろうか。
紫花菜の顔をちらちらと見るのすら怖い。
「……前にいった、カリスマ性がある人を求めてるって話覚えてる?」
大翔は流河達に目を合わせずに説明を始めた。
仮面をつけているのに威厳がない。
紫花菜は理解できていないままだ。
湧き上がる感情を子どもの声に寄って抑えているような表情だった。
流河はペルシダに子供を押し付けた。
ペルシダはこの場の空気を読めなかったのか、ただこのひりついた雰囲気を感じてすぐに子供の手を握ってくれた。
「避難するときにその人がついていけば大丈夫だって思わせてパニックになった人を、集団心理を利用して適切に避難させるとかそんなんだったよな。仮面があれば何人もつくれるってことか?」
流河は直ぐに理解し、少しだけ声を大きく補足を入れるようにした。
そうカリスマ性のある人が何人も作るのは難しい。
それよりも一人を複製する方が効率と求心力は高まる。
もちろんばれてしまえば、求心力を失う可能性があるかもしれないが、要は解決すればいいのだ。
通信技術などいくらでもあって、そこに大翔の異能で状況を確認できる。
むしろ、顔を隠すことで誰もが優秀な人だと見せることが出来るかもしれない。
もちろん大人にとってはプロパガンダと思われるだろう。
異世界の人間に不信感を持っている人がいる。その人たちからすれば、このヒーローのスーツに不信感は逆に増していくだろう。
でも何も分からない子供なら効果的なのかもしれない。
避難誘導に置いて、信用してくれる人たちにとっては素早い避難が出来るのかもしれない。
この後の行動次第だがやってみる価値はあるのかもしれない。
「そう。人の話を聞くためには実績がある程度必要だから……その点僕の異能は結構便利だから、祭りの困りごとは僕の担当ってことになったんだ」
「それに仮面があれば、中に誰が入っても人は聞いてくれるってこと……か」
確かに大翔の異能があれば集団生活の困りごとは人間関係を除いて、ほとんど解決できそうだ。
落とし物や、迷子、居住スペースの確保にも大翔の異能が採用されている。
そして大翔はフラガリアの息子だ。
ある程度の無茶は言うことが出来るのだ。
解決の力を、権力を持った大翔なら、大翔が狙った効果はともかく、そのカリスマ性というのは持てるのかもしれない。
「本当は僕が着てはいけない衣装だけど……」
大翔から暗い声が出た。
流河は紫花菜の顔を見た。
紫花菜は怒っては来なかった。
いろいろな感情を押し殺している。
目の前で怒れば子供たちの希望の目が消えることを恐れたのだ。
大翔も思うことがあるのだろう。
声は小さかった。
「この服はいいと思うか聞きたいんだけど……あんまり見たことがなくて」
「あーー……なんかお前が思う感じと違うと……思う」
とりあえず今は二人を引きはがす方がいいだろう。
大翔のその所も、紫花菜の事も全て解決したいが、今変に触れたら逆効果になる気がする。
素早く解決しようと、そう改めて大翔が来ている服を見るようにしたら少し気になる部分は直ぐに出てきた。
なんというかの服が薄い。
別にヒーローなのは変わらないし、他にも人を集めるならそれでもいいが、
この服で一人だけなら少し心細い気がする。
「そう…… 元々は銅を主成分にしたんだけど、光沢感がなくてこれも改良したんだけど……やっぱり駄目なのかな」
「姿もけど、重厚感がないかも」
「紫花菜?」
「服が服だから変だと思う。カリスマ性があるっていうならもっと体を固く見せないとダメ。もっとごつくないと」
「……ごつくないとか……ありがとう、紫花菜」
確かに大翔の今のヒーロースーツは布生地だ。
海外のヒーローならそれもあり得るかもしれないが、子どもたちに、大人たちに慣れ親しんでいるのは子供向けの日本のヒーローだ。
明るく、その人がいれば大丈夫だと思わせるヒーローのスーツではない。
それに一人ものヒーローをやるなら、戦隊もののように協力して戦うより、1対1でも戦える強靭なスーツだ。
紫花菜は子供たちの世話をしている。
だからこそ分かるのだろう。
「……ごめん。紫花菜。本当は事前に言うべきことだった」
大翔はマスクを取って頭を下げようとした。
でもそのマスクを紫花菜は外さなかった。
「……いい。理解はしたから……」
その紫花菜の手は震えていた。
その目は大翔ではなく、子供に目を向けていた。
子どもは目を輝かせながら、大翔を見ている。
ペルシダの手を強引に離したのだろうか。
あんまりにも騒がしくて、うるさい方が大翔達の邪魔になるのではないかとそう思ったのだろう。
ここで紫花菜に頭を下げれば、子供の夢は壊れてしまう。
だから紫花菜は折れてしまったのだ。
「もしかして新しい仮面ヘッダーなの?」
子どもが大翔に近づいて目を輝かせながらそう聞いてきた。
バイクに乗って皆のために戦う子供向けの番組。
主人公は身体を変身させて、ヒーロースーツと仮面をつけて敵と戦うお話だ。
仮面ヘッダー。その新しいヘッダーが来たとそう思ったのだろう。
「仮面ヘッダーじゃないよ」
大翔は膝を下ろして子供に視線を合わせる。
それは子供を安心させるためか。
それとも紫花菜と少しでも早く別れるためか。
大翔は数秒の沈黙の後
「……そうだね。僕はヒーローになれない人の味方。仮面戦士メテオールだ」
とそういった。
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大翔はこのスーツをまとって皆の前に出た。
祭りの中ではトラブルが起こりやすい。
微々たるものだが何もせずに舞台に立つよりかは、印象は変わるだろう。
何度かトラブルを解決し、そして別の人と交代してもらって、大翔が名付けた仮面戦士メテオールは舞台に立って皆の前で演説した。
元々舞台の上に立つのは誰かにやってもらうとは言え、心苦しいものがあった。
非難の声がぽつりぽつりと上がる中、それを演じてもらうのは
皆を護るためにこれから力を尽くすと。
皆のお困りごとを解決していくと。
皆の評判は様々だ。
でもやはり疑念の声が多い。
プロパガンダだと思われるのは仕方がなかった。
ここでしかタイミングはなかったとは言えやはり負の感情の方が多い。
ここからが正念場だ。どれだけ一般人の心をつかむか。
プロパガンダだと大人に思われ、子どもたちからはうそつきだと思われているだろう。
でも負の感情を抱かれるということは、相手は上げ足取りに見てくれるかもしれない。
それを上回る貢献をすれば信じてくれるかもしれない。
どれだけ生存者が変わるか分からない。
でもだからと言って止まるわけにはいかない。
何か少しでも、例え0に等しき行為だとしても、その助かる確率が上がるなら手を延ばさなければいけないのだから。
目の前のスーツを大翔はただ見続けた。
またこれからこのスーツを着ることになるだろう。
決して許されることのない正義の仮面を。
「大翔」
者憂いを抜け出さすことが出来ないそのタイミングで、一人の男の子が入ってきた。
「アインス」
「ものすごくかっこよかったね。あれも大翔が考えたの」
「……そうだね」
「色々皆の為に考えているんだ、すごいね」
そういってアインスは大翔をほめてくれる。
でもそれに受け答えできるほど大翔は余裕がなかった。
場は静かになってしまった。
アインスはそれを気にすることがなかったが、でも更に大翔に声を詰まらせることを口にしてしまった。
「一緒に回ろうよ」
「ごめん、いけない」
「……駄目なの?」
そう反射的に答えてしまった。
そういわれると少し心が揺らぐが、でもそれは許されないのだ。
「無理だよ」
これは今までとは違う。
文字を教えたり、この世界の事を教えたりとは違う。
祭りを一緒に回るのはライン越えだ。
アインスに祭りのことを教えるという理由は、大翔が楽しむための言い訳になってしまう。
それに紫花菜に見られてしまった。
楽しい思いをしていたはずの紫花菜を傷つけてしまった。
そして大翔の前でヒーローの格好をしてしまった。
「他の人と行って。僕と一緒にいてもつまらないだけだよ」
それに仮に行ってもいいとしても楽しめるとは思えない。
アインスに取ってつまらない祭りになるだけだ。
それこそ流河と一緒に回れば、きっと祭りもいい思い出になるだろう。
そっちの方がいいに決まっている。
一度は断るような奴と気楽に楽しむことなど出来ないだろう。
「もしかして何かしちゃった?」
でも大翔の助言はアインスの自信が無くしたような顔をしている。
少しきつめに言いすぎてしまっただろうか。
「あ、えっと…」
アインスは自分に非を感じてしまったようだ。
悪くないと弁明することになってしまい、大翔の心は揺らいだ。
アインスは悪くない。でも言いたくない。
早く弁明しなければという思いが大翔を焦らせ、言いたくない事の一部が少し出てしまう。
それは今日正義の仮面をかぶり、紫花菜と会ってしまったからだ。
紫花菜に会っただけで傷つけてしまったから。
「僕は君をきっと傷つけるよ」
「傷つけるって…どうして大翔が僕を傷つけるの?」
大翔はそのアインスからの目に逃れられない。
心の中の揺らぎは一瞬にして傾いた。
これから更に忙しくなる。
もうこれ以上アインスに構うことは出来ない。
これ以上アインスを汚すことは許されない。
大翔は大きく息を吐き、アインスにそう告げた。
「僕は人を殺したから」
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