第1章7話「またまた訪客」
誰か来てしまった。
流河は大翔に言われた3つ目を思い出す。
3つ目は誰かが来た時追い返すこと。
もし誰かが来た場合ペルシダを接触させず、できるだけ早く用事を済ませる。
普段の様子を装うようにと言われた。
理由は紫花菜達みたいな暴力をふるう可能性があること。
この区域の住民ならまだ何とかなるかもしれない。
問題は増援を呼ばれて逃げられなくなることだ。
準備が整うまで何かあったと悟られてはならないのだ。
「大丈夫?」
心配そうにペルシダが自分の顔を覗き込んだ。
ここで怖がっていたら恰好が付かなくなる。
「いやいや、平気。行ってくるよ」
そういって部屋を出て玄関の前に立つ。
一応念の為に金属バットを持って行った。
深呼吸してドアのカギを開け、扉だけ開けて、直ぐに両手でバットを構えた。
「どうした?野球でもすんのか?」
「怖気づいて逃げたいの?」
と的外れな意見を言った大和と的外れに悪口を重ねた車花がいた。
西浜
大和はめちゃくちゃ良い奴だ。
身長も流河より高く茶髪は彼にとてもよく似合っている。
人柄と良くクラスで常に輪を作れるほどコミュニケーション能力が高い。
そして、10年間同じクラスを共にしている。
いわゆる腐れ縁と言うやつだ。流河が遊ぶとき大抵大和と遊んでいる。
車花は友達とあまり交流がないが、文武両道で美貌もあると評判のある友達だ。
髪を赤に染めているのは正直驚いたが、本人は周りにガヤガヤ言われるのを気にしてないらしい。
彼女の勉学と性格がそれを跳ね除けているのだろうか、次第に何も言わなくなった。
そんな車花は大翔に及ばずともスペックが高い。努力家で誠実。つまり自分とは真反対だ。
流河には冷たく厳しいので何度も心が壊れそうになるがこの2人と学校でも学校外でもよくつるむことが多い。
「ちげぇよ!!てかお前らこそ俺の家に来てんの??」
「そんなの……大翔に宿題をやってもらうために決まってんだろ」
何故か小声になって大和は近づいてきた。
二人も洗脳されているのだ。もし今流河が洗脳されていたら、どうしれっと答えるのだろうか。
「私は大翔に勉強を教えて貰いに来たの。じゃなきゃあんたの所なんて来ないわ」
車花が何故かこちらを睨みつけながらそう答えた。
大翔は勉強がめちゃくちゃできる。
当然高校の内容も理解し教師よりも何倍も分かりやすく教えてくれる。
車花とは小学生5年くらいから同じ学校だったが、遊ぶ機会はあったものも家を入れたことはなかった。
というより車花の付き合いが悪く、家に誘っても大抵断られた。
きっかけは定期テストだ。
大和と共にテストで赤点を最初の定期テストでとってしまい、そこに大翔が現れた。大翔の授業とテスト予想問題により次の定期テストで上位にまで登った。
それに車花に反応し点数アップの秘密を暴かせ大翔に勉強を教えて貰うようになったのだ。
今では車花とは学校以外でも会う機会が増えた。
今日もそれで来たのだろう。しかし、今はタイミングが悪い。
家に上げさせるわけにはいかない。
「悪いけど、今大翔は出かけてるんだ。だからまた別の日に・・・」
「…なんでドア、そんなに早く閉めようとしているんだ?」
確かにいつも2人が来た時より、開けるドアの面積が少ない気がする。
二人を追い払う理由もない。かと言って家にあげるわけでもない。
結局ドアも開けることも閉めることもしなかった。
その行動二人が眉をひそめていると
「流河、大丈夫?」
そんなタイミングが悪い所で更にタイミングが悪くペルシダがこっちに来た。
ひょこっと覗いて、こちらを確認してくれたことに愛しさが増える。
人が来たらすぐに追い出すようにと決めたのに時間が経ったので心配してくれるのはありがたいが、 その隙を大和は見逃さない。
配達員ならすぐに終わっていただろう。
大翔もそうペルシダに話していた。でも大和は想定外だった。
大和に力負けでドアは開かれ、足を入れられた。
そしてペルシダを視認する。
美少女が家にいると分かると、大和はこちらに向いた。
「お前…お前そんな可愛い女の子と付き合っていたのか?! なんで俺に教えてくれなかったんだ!!」
玄関に入ってペルシダに近づこうとする。
まずい、絶対大和は接触しようとするはずだ。でも二人を巻き込むわけには・・・
「彼女じゃねえ!!後、入ってくんな!! ペルシダ、逃げろ!!」
「彼女じゃねえのに、名前呼びか!! しかも近寄るなとか、完璧彼氏じゃねえか!!」
「だから違うって!! なんでペルシダの方に行くんだよ?!」
「そりゃあ、お前にふさわしいとか俺が判断するからに決まってんだろ!!」
手を捕まえようとするがそれを振りほどかれた。
その振りほどかれた勢いで玄関の方によろけてしまいそこには車花がいたが、綺麗にかわされ、尻もちをついた。
痛みで一瞬動けなくなる。
その間に大和はペルシダの方に行く。ペルシダはドタバタと逃げるが家で逃げるなどない。
追いかけた後にはもう遅かった。
パタ、という音が聞こえ大和は仰向けで地面に倒れていた。
そこに車花がやってくる。
もし、洗脳が打ち消したことが分かってしまえば車花も敵になるかもしれない。
車花は力が強い。
中学生の時腕相撲でも指相撲でも勝てなかった。
ペルシダはともかく紫花菜や大和を人質に取られる可能性もある。
「なんで大和が寝ているの?」
やばい。本当にやばい。
とりあえず誤魔化さなければ。今は考える時間が欲しい。
巻き込んでしまった。
大和も山で生活することになるかもしれない。
それに車花までそれに巻き込むのか。
流河は何も正解を出せない。
分からないもの、妄想の類のものに振り回されて判断すら取れない。
色々時間をおいてゆっくり考えたいのに、物事はいつも準備をしていないのにやってくる。
「こ、転んで気絶でもしたんじゃね? とにかく安静にするぞ。車花手伝ってくれ」
とにかく今は時間を稼がなければ。
精いっぱいのごまかしをしてその後大和の両腕を持つ。
車花は怪しんでいたが、とりあえず大和を運ぶのを手伝ってくれた。
大和はソファーに寝かせた。
アスハがタオルを用意してくれた。
アスハは大和の頭に濡れたタオルを置いてそそくさとソファーに座って、紫花菜の傍に寄る。
「さあ、大和を寝かせたしゲームでもしようぜ」
「別にゲームしに来たじゃないし、それにうめき声とか聞こえなかったんだけど、それなのにどうして大和が倒れたの?」
「え〜と、それは・・・」
「それに転んだ後もないけど。走っていたのに仰向けで寝ている事があるの?」
確かに大和の顔にはたんこぶも出来ていない。
何もいい言葉が出てこなかった。
車花の厳しい目に更に心も頭も委縮してしまう。
大翔の約束も完璧に破っている。大和を完璧に巻き込んでしまったのも心に引きづっている。
でも後悔は後。今は考えなければならない。
こうなった以上、接触は避けられない。
車花がまた洗脳になって狂暴化するかもしれない。
車花の近くには物が溢れかえっている。
いきなり物を投げてきたらペルシダでも危ないかもしれない。
ペルシダの容姿にもう気づいているかもしれない。
準備をしているかもわからないのだ。
そうだ。
流河が正常な判断などを初めから取ることなんて出来ないのだ。
相手の事が分からないなら早めに潰すしかない。
ただ分かっているのは異世界人を殺そうとすること。
今は命をまず第一にしなければいけない。
それに車花は頭がいい。
もしかしたら大翔の支えになるかもしれない。
大翔にはない視点を持ってくれるかもしれない。流河には出来ないことをやってくれるかもしれない。
接触は避けきれないのなら、もう仲間にするしかない。
車花はペルシダの方を向いて
「ペルシダって言ったよね? あなたもしかして・・・」
何をするにしてもとりあえず車花を拘束するしかない。
車花がこっちに向いていない間にペルシダに合図を送った。
ペルシダは分かったかどうか分からないが頷いてくれた。
そして
「車花」
流河は車花の手を握った。
ものすごく下手な陽動だが意識はそらせた。
車花の目が一瞬にして険しくなって此方を向く。
痛みは避けられないだろう。
気絶するかもしれないが、この場を抑えられることが出来る。
唾を飲み込み、覚悟を決める。
車花の後ろから捕まえようとすると、突然首ねっこが掴まれた。
まさか気づいたのか。
ソファーが倒されて、ドンと音と大和が「ぐは?!」 という悲鳴が聞こえた。
「な!?」
何をいきなりという言葉は、直ぐに大きな音によってかき消されてしまった。
車花がソファーを倒したその瞬間、部屋にガラスが割れる音とマシンガンのような銃声が家を響き渡らせた。
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