第1章9話「またまた訪客②」

そして大翔が出て15分後、突然玄関のチャイムがなった。

流河はそれに思わずびくっとしてしまった。


3つ目は

今もし誰かが来た場合ペルシダを接触させず、できるだけ早く用事を済ませる。できるだけ普段の様子を装うようにと言われた。

理由は紫花菜達みたいな暴力をふるう可能性があること。この区域の住民ならまだ何とかなるかもしれない。問題は増援を呼ばれて逃げられなくなることだ。

準備が整うまで何かあったと悟られてはならないのだ。


「大丈夫?」


心配そうにペルシダが自分の顔を覗き込んだ。

ここで怖がっていたら恰好が付かなくなる。


「いやいや、平気。行ってくるよ」


そういって部屋を出て玄関の前に立つ。

一応念の為に金属バットを持って行った。深呼吸してドアのカギを開け、扉だけ開けて、直ぐに両手でバットを構えた。


「どうした?野球でもすんのか?」


「勉強から逃げたいの?」


と的外れな意見を言った大和と的外れに悪口を重ねた車花がいた。

西浜 大和(にしはま やまと)と松本 車花 (まつもと ちやか)はどちらもクラスメイトだ。


大和はめちゃくちゃ良い奴だ。身長も流河より高く茶髪は彼にとてもよく似合っている。人柄と良くクラスで常に輪を作れるほどコミュニケーション能力が高い。そして、10年間同じクラスを共にしている、いわゆる腐れ縁と言うやつだ。


車花は対して友達とあまり交流がないが、文武両道で美貌もあると中学校から評判のある生徒だ

髪を赤に染めているのは正直驚いたが、本人は周りにガヤガヤ言われるのを気にしてないらしい。当初は先生に注意されたがそれも彼女の勉学と性格がそれを跳ね除けているのだろうか、次第に何も言わなくなった。大翔に及ばずともスペックが高いのだ。そんな彼女は白いシャツにジーパンを履いていた。学校も学校外でも関わらず相変わらずのびっしりとした格好だ。

努力家で誠実で高貴、つまり自分とは真反対。こちらには冷たく厳しいので何度も心が壊れそうになるがこの2人と学校でよくつるむことが多い。


「ちげぇよ!!てかお前らこそ俺の家に来てんの??」


「そんなの…大翔に宿題をやってもらうために決まってんだろ」


何故か小声になって大和は近づいてきた。二人も洗脳されているのだ。もし今洗脳されていたら、どうしれっと答えるのだろうか。


「私は大翔に勉強を教えて貰いに来たの。じゃなきゃあんたの所なんて来ないわ」


二人が何故かこちらを睨みつけながらそう答えた。

大翔は勉強がめちゃくちゃできる。当然高校の内容も教えられることができ頭がよく教師よりも何倍も分かりやすく教えてくれる。

車花とは小学生くらいから同じ学校だったが、遊ぶ機会はあったものも家を入れたことはなかった。というより車花の付き合いが悪く、家に誘っても大抵断られた。

きっかけは定期テストだ。

大和と共にテストで赤点を最初の定期テストでとってしまい、次の定期テストで四苦八苦していると、そこに大翔が現れた。大翔の講義とテスト予想問題により次の定期テストで上位にまで登った。まだ前より全体的に簡単で、平均も高かったがそれ以降もテストでは常に上位にいる。


そこで現れたのは車花だ。車花に詰めよられ点数アップの秘密を暴かせ大翔に勉強を教えて貰うようになった。それから車花とは学校以外でも会う機会が増えた。家に勉強するために来ることが多くなった。今日もそれで来たのだろう。

しかし、今はタイミングが悪い。大和と車花も操られている可能性があるのだ。


「悪いけど、今大翔は出かけてるんだ。だからまた別の日に・・・」


「…なんでドアそんなに早く閉めようとしているんだ?」


確かにいつも2人が来た時より、開けるドアの面積が少ない気がする。

二人を追い払う理由もない。かと言って家にあげるわけでもない。

結局ドアも開けることも閉めることもしなかった。その行動二人が眉をひそめていると


「流河、大丈夫?」


そんなタイミングが悪い所で更にタイミングが悪くペルシダがこっちに来た。

ひょこっと覗いて、こちらを確認してくれたことに愛しさが増えた。

人が来たらすぐに追い出すようにと昨日決めたが時間が経ったので心配してくれるのはありがたいが、

その隙を大和は見逃さない。

配達員ならすぐに終わっていただろう。大翔もそうペルシダに話していた。でも大和は想定外だった。


力負けでドアは開かれ、足を入れられた。

そしてペルシダを視認する。

大和は硬直する。

美少女が家にいると分かると、大和はこちらに向いた。


「お前…お前そんな可愛い美少女と付き合っていたのか?! なんで俺に教えてくれなかったんだ!!」


と玄関に入ってペルシダに近づこうとする。まずい、絶対大和は接触しようとするはずだ。でも二人を巻き込むわけには・・・


「こいつは彼女じゃねえ!後、入ってくんな!ペルシダ、逃げろ!」


「彼女じゃねえのに、名前呼びか! しかも近寄るなとか、完璧彼氏じゃねえか!」


「だから違うって! なんでペルシダの方に行くんだよ?!」


「そりゃあ、お前にふさわしいとか俺が判断するからに決まってんだろ!」


手を捕まえようとするがそれを振りほどかれ、その勢いで玄関の方によろけてしまいそこには車花がいたが、綺麗にかわされ、尻もちをついた。

その間に大和はペルシダの方に行く。ペルシダはドタバタと逃げるが家で逃げるとこがない。

追いかけた後にはもう遅かった。パタ、という音が聞こえ大和は仰向けで地面に倒れていた。

そこに車花がやってくる。

もし、洗脳が打ち消したことが相手に分かったら車花も敵になるかもしれない。

しかも、車花は力が強い。腕相撲でも指相撲でも勝てなかった。

ペルシダはともかく紫花菜や大和を人質に取られる可能性もあるし、これ以上巻き込みたくない。


「なんで大和が寝ているの?」


やばい。本当にやばい。とりあえず誤魔化さなければ。今は考える時間が欲しい。

巻き込んでしまった。大和も山で生活することになるかもしれない。でも車花までそれに巻き込むのか。何が正解か分からない。考えれば考えるほど世界が洗脳されたということに理解が遠のいていく。色々時間をおいて考えたい。だから今は少しでも時間を稼がないと。


「こ、転んで気絶でもしたんじゃね? とにかく安静にするぞ。車花手伝ってくれ」


精いっぱいのごまかしをしてその後大和の両腕を持つ。ペルシダは声が出さずにいる。車花はものすごく怪しんでいたが、とりあえず大和を運ぶのを手伝ってくれた。


そして、大和はソファーに寝かせた。その間アスハがタオルを用意してくれた。

アスハはゆっくりと大和の頭に濡れたタオルを置いてそそくさとソファーに座った。


「さあ、大和を寝かせたしゲームでもしようぜ」


「別にゲームしに来たじゃないし、それにうめき声とか聞こえなかったんだけど、それなのにどうして大和が倒れたの?」


「え〜と、それは・・・」


「それに転んだ後もないけど。走っていたのに仰向けで寝ている事があるの」


確かに気絶するなら頭に強い衝撃が入っていることになるが、大和の顔にはたんこぶも出来ていない。

何もいい言葉が出てこない。車花の厳しい目に更に心が委縮してしまう。冷や汗をかきながらも状況を打開しようとする。大翔の約束も完璧に破っている。しかも大和を完璧に巻き込んでしまった。後悔は後。今は考えなければならない。

こうなった以上、接触は避けられない。


そして車花がまた洗脳になって狂暴化するかもしれない。車花相手にペルシダは抑えきれるのか。

車花も結構体が強く、近くには物が溢れかえっている。

他の人を人質にされたらどうする。


ペルシダの容姿にもう気づいているかもしれない。準備をしているかもしれない。

相手の事が分からないなら早めに潰すしかない。

それに車花は頭がいい。もしかしたら大翔の支えになるかもしれない。

接触は避けきれないのなら、もう仲間にするしか…


車花はペルシダの方を向いて


「ペルシダって言ったよね? あなたもしかして・・・」


何をするにしてもとりあえず車花を拘束するしかない。車花がこっちに向いていない間にペルシダに合図を送った。ペルシダは分かったかどうか分からないが頷いてくれた。そして


「車花…」


流河は車花の手を握った。

ものすごく下手だが意識はそらせた。車花の目が一瞬にして険しくなる。

強い痛みで気絶するかもしれないが、この場を抑えられることが出来る。


唾を飲み込み車花の後ろから捕まえようとすると、突然首ねっこが掴まれた。

まさか気づいたのか。

ソファーが倒されて、ドンと音と大和が「ぐは?!」

という悲鳴が聞こえた。

その直後部屋にガラスが割れる音とマシンガンのような銃声が家を響き渡った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る