第1章8話「魔法」
車花に首根っこを掴まれた瞬間ソファーは横に倒され、そしてその影に入る。
それと同時に銃声が響く。銃弾が床を、壁を壊していった。
「きゃゃゃゃぁぁあ!!」
「大丈夫!大丈夫だから!!」
「ちょ…何して…んだ!!! 辞めろ!!! 辞めてくれ!!!!!」
家が汚されていく。
ただ叫ぶことしか出来なかった。
家が壊されていく。
ガラスが割れる音、弾が床に落ちる音。薬莢の匂い。弾がソファーに当たる衝撃。
壁は銃弾によって穴が空いて、今まで生活していた場所が次々と壊されていく。
止めようとした。また大声で止め……
だがそれすら車花によって口がふさがれる。
腕を引っ張られて止まれ、と目で伝えてきた。
周りの命の危険と自分の家。
どちらが大切か分かっているはずなのに。分かっている。
分かっているはずなのに、この憤りを抑えることが出来ない。
ただ家が取り壊されるのを見ていることしか出来ない。
そんなこと受け入れることが出来るのだろうか。
「な、何起きてんだ!?」
大和がすごく間の抜けた声を大きく出す。
音と痛みで起きたのだろうか。目を開けた瞬間銃声はさすがに自分でもあんな声が出るだろう。
こっちに近づいてきて肩を掴み激しく揺さぶって
「なんで、家に来たと思ったら撃たれてんだよ!!」
「うっるさい!! 静かにして!」
車花が外の様子を見ようとソファーから頭を出そうとした。
その瞬間弾が横を通り再びソファーに身を隠す 。
車花は落ち着いていた。
「お前、いつ来たんだ?」
口の裏を噛んで冷静さを取り戻しながら車花に疑問を聞いた。
もし彼女が普通の一般人ならペルシダに触れた瞬間倒れているだろう。
しかし彼女は倒れず、皆をソファーの影に隠した。
そして銃撃に会っても平然としている。
「お前、まさか異世界から来た人なのか?」
「異、異世界? 松本?」
「ええ、そうよ」
「魔法は使えるのか?」
「使える」
疑問はいくらでも出るが、まずは相手の排除だ。
「ここを逆転できる魔法とか使ってくれねえか?」
流河は思わず命令口調になる。
家をこれ以上壊されたくない。冷静になり切れなかった。
許すことなど出来ない。
理不尽に家に弾をぶち込まれて、汚されて壊されていく。
何としてでも倒さなければならない。
それだけではない。どうにかしてここから逃げなければならない。
大翔の言うことが本当になってしまった。
相手は殺しにかかっているのだ。
「状況は4方向に5人ずついる。恐らく地球連邦軍ね。私1人で全員殺すことができるけど」
「こ、殺す…?」
大和はその言葉にただただ困惑していた。
だが今は気にすることは出来ない。怒りが溜まって酷い行いをしてしまうからだ。
流河は車花の試すような言い方に少し苛立ちを覚えた。
覚えながらもそれを押しこむ。
「そんな俺に一存するような言い方するなよ。皆洗脳されているんだろ」
「それも知っているのね」
「洗脳?」
「私だって殺したくなんかはないわ。あなたは何の属性なの?」
「魔法って誰もが使えるのか?」
初耳だ。そういえばペルシダは解除の魔法が使えないとか言っていた気がする。
逆に言えば、他の魔法はあるということか。
「……」
今関係ないだろ、と厳しい目を車花に押し付けられた。
文句を言おうとするが、もうペルシダのほうを向いていた。
「ごめんなさい、今は魔法が使えないの。でも戦えるとは思う」
「ペルシダは触れたら洗脳を打ち消すことが出来る。俺たちが洗脳を受けていないのもそれのおかげだ。さっき大和が倒れたのも接触したからそうなったんだろ?」
「そう…………それは洗脳だけ?」
そういって車花はペルシダに触れる。
「魔法が使えない。魔法そのものを打ち消すか……だったら煙幕をはるわ。ペルシダは上に飛んで攻撃して。銃のことはわかる?」
そういって鞄から取り出したのは煙幕手りゅう弾だ。
ゲームで見たことがある。
そんなものを普段から持ち歩いてたのか。
でもこの場においては大助かりだ。
「一応は。でも煙幕を張るなら相手の位置が分からなくなる」
「あなたの力が分からない以上は風で煙を消すことも出来ない。弾をかわせる自信は?」
「それは……」
車花が話していたその時大翔から電話が来た。
流河達は今攻撃されているが大丈夫なのだろうか。
「兄貴大丈・・・ってなんで銃声がきこえるの?!」
大翔が珍しく声を大きくなり思わず耳から電話を離す。
携帯を耳に付けるともう走っているみたいだ。
かなり早く風を切る音が強く聞こえる。
「大翔…お前狙われていないか?」
「……大丈夫みたい。20分・・・いや10分でつくように頑張るよ。皆大丈夫? 紫花菜は?」
「ああ大丈夫だ。車花が異世界から来たって言うんだ。多分何とかなる。大翔は車がないか、調べてくれないか?」
銃を持った人たちが歩いてここに来たはずではない。
どこか車があるはずだ。
銃を持って歩いてもそれを誰も気にしないとは思うが、わざわざ重い物を背負ってここまで歩いては来ないはずだ。
どこかに車があるはずだ。
車で紫花菜達を運ばせることが出来れば移動も楽になるはずだ。
「車花さんが?…………分かった。絶対にすぐにいくから」
だいぶ長いためらいの後に大翔と通話を切ってから数分が経った。
かなり時間が立っているが未だ銃声は鳴り止まない。
「もうそろそろ動かないとソファーがヤバそうなんだが」
後ろが木の素材出てきてて良かった。
でもだいぶ撃たれ続けている。このままだと崩壊しそうだ。
「そうね……ちょっとごめん、ね!」
車花はそういうといきなり床をぶち抜いた。
車花以外全員が驚いて、身を少し後ろに引く。
どこからか音が聞こえた。この音は下からだ。その音は段々近づく。
そして床がぶち抜かれる音が再び聞こえた。
今度はソファーの奥の方だ。
その方向に目を向けると大きな土色の壁が流河たちを銃撃から守るように現れた。
「なに、これ?」 「本当に魔法……」 「これが魔法?」
3者多種多様な反応が帰ってくる。
車花が破った所から土の壁が出てきたのだ。
それが大翔達を囲んで天井まで届いている。
その瞬間大きな爆発音が鳴り響いた。
爆発物だ。
「きゃああぁぁあぁ!!!」
「大丈夫だからじっとしていて!!」
相手は手りゅう弾を投擲したのだ。
土の壁から守られているため被害はないが、耳が痛い。
思わず耳を防いでしまう。
銃声と爆発音でリビングはいっぱいだ。
土の壁は破られることはないが、穴が空く。二発耐えれる防御力はないらしい。
車花とペルシダは作戦を練っているが、攻めるか守るか迷っている。
ペルシダは煙幕を張る必要があり、敵が動いた時、音がありすぎて敵がどこにいるのかわからない。
車花は熱で相手を感知できるらしいが、まだ何も知らないペルシダが流河達を守るのは少し不安がある。
「いずれ玄関に入ってくる相手に私が行くべきね。ペルシダが正面にいる相手をどうにか無力化し、紫花菜達の脅威度を下げてくれたら、それが一番いいのだけど」
そういって車花は打開するための策を考える為に口を止めた。
「……どうするんだ? 俺もなんかするぜ」
大和が不満そうにこちらを見てきた。
会話が止まってからなのは助かるが、邪魔してくるので今度は聞き逃せなかった。
「大和、悪いけど今は状況を話す状況じゃない」
「そういうことじゃねえ。そうじゃなくて俺たちに何かやることはないのかよ」
「あの、私達にも何かできることはないんですか?」
アスハも手を貸してくれるそうだ。紫花菜も分からないのも状況を理解して何か手伝おうとしてくれる。
勝手な行動をとられたら困る。大和達は流河のせいで巻き込まれた。
紫花菜とアスハは死んでしまったら大翔が立ち直れなくなる。
「ダメよ。あなたたちに出る幕はないわ」
車花はそれをたしなめる。
無理もないだろう。
素人が戦場にでて、なにするか予想がつかない。
足手まといになるだけだろう。でもこのままだと時間が徐々に減っていく。
でも地震と同じだ。対応が遅れてしまえば命の取り返しがつかなくなる。
そして流河も大和達と同じようにどうするべきか考えていた。
車花に他のどんな魔法が使えるか聞こうとするが銃声で届かない。
そう銃声で声が聞こえないのだ。
「ちや…」
流河はふと思いついて、けど素人の数秒の考えなどと思って言葉を飲み込もうとした。
車花はこの状況でも冷静だ。
きっと正解を直ぐに出せるだろう。変に間違った案を出して時間をつぶすわけにはいかない。
言葉も尻込み、最後の方はほとんど出なかった。
「流河、なにかあるの?」
でもペルシダはそうこちらを見てきた。何故見てくる。
その期待の目に流河は言葉を飲み込めなかった。
「いや、一応、本当に一応な。賭けみたいなことがあるけど………」
「………」
車花は考え込んでいて、話を聞いていない。
意外と時間がかかる。早くこの場から離脱して隠れなければならないのに。
「俺も聞かせろよ。どうせ俺たち何もすることがないし」
「……じゃあ、これを……」
流河はみんなに自分の考えを説明した。
大和が言うこともあって、またこの状況で気分が変になったのもあってぺらぺらと喋ってしまった。
家を汚され冷静になり切れず何かしたかったのか。
それとも漫画の主人公のように何か形成を逆転する方法をやって見たかったのか。
それは分からないが、流河は皆に説明をした。
車花も途中で説明に耳に入ったのか、こちらに顔を向ける。
「それは試してみる価値はあるかもね」
車花は流河の提案に以外にも好評だった。
「本気で言っているのか!?」
考案した本人である流河はその案を否定した。
ばかげている。
実戦経験がない流河が数秒で思いついた作戦だ。
もしこれで失敗したら、ペルシダの命が危ない。
大翔ならもっといい方法が思いつく。自分なんかの案でどうにかなるのか。
「やっぱり、危険だ。敵がほんとに反応してくれるなんかなんて………」
「怖気ついているの?」
「そうじゃなくて!!やるんだったら俺はやるよ。でもペルシダにそんな無謀なことをさせるわけにはいかねえだろ!!」
ペルシダが戦ってくれる。見捨てないで守ってくれる。
なのに守られるだけなんて嫌だ。死なせたくない。
その流河の作戦にペルシダの身に何かあればどうする。
「だったら俺もやるわ」
「大和!?」
「最悪失敗しても大声で叫べば相手も反応はするだろう。それに2人でやるほうが確率は高いだろ」
「待ってくれ。巻き込んでしまったのは俺だ。だから危険をおか・・・痛ぇ?!」
突然、大和が頭突きをしてきた。頭が揺れて、思わず声が大きくなる。
「何すんだよ?!」
「そんな顔が青ざめている奴が行って、俺たちがなんも思わねえと思ったか」
3人を見てはっと気づく。
3人とも俺と同じように震えていた。
なんなら紫花菜は涙をこらえているし、アスハもペルシダを強く握りしめている。
でもみんな戦うと言ったのだ。
「家を壊されて、平然を装えるような人間じゃないだろ。お前だけに何かさせんのは心配なんだよ」
言い返さない。それは皆の前で見せてしまった。
でも言い返さないとこのまま大和まで危険を犯すことになる。
「ここで立ち止まったら、絶対後悔する。だから俺らにも手伝わしてくれ。それに………」
そこで大和は大きく深呼吸する。
その言葉を皆が止まって聞こうとする。
でも内容はものすごくつまらない内容だった。
「女の子にかっこつけたいしな」
と大和がニヤッと笑って見せた。
死んだら元も子もないというのに。そんなことを言う余裕がどこにあるのか。
流河は緊張の糸がとぎれて、思わず顔が緩める。
「お前本当に馬鹿だな」
「それはお互い様だ」
大和は腹をえぐってきた。
そのいつもと変わらない大和に思わず心が熱くなる。
そう、何か挑戦するときと変わらない。
必要なのはいつだって度胸。
そしてペルシダがいる。守らなければならない。もう体の震えは止まっていた。
「じゃあ、やってやろうぜ、皆!!」
そう、らしくないただの流河の掛け声に皆が頷いた。
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