第1章6話「理解」
紫花菜が目を開けるといつもと違う天井があった。
―――あれ。私昨日アスハと買い物に行ってそれで・・・
辺りを見渡すと、そこには沢山の本と大量の本棚があった。
その量の多さに驚いて本棚のほうに行く。
「魂の演技レッスン」………「ガイラの秘密」…………「星座を見つけよう」
そこには様々なジャンルの本があった。演劇、物語、物理学、宇宙………、大量の本は部屋の8割が埋まっていて後は机とベッドと、なぜか布団が2組畳まれて置いていた。
「男の人の部屋?」
この部屋は、匂いは何故か男の人だと思わせる雰囲気があった。
どうして男の部屋で寝ているのか。
それは考えようとしたその時、少し扉開いた先から美味しそうな匂いが鼻に刺激を与えた。
その匂いに連れられて部屋から出た。
お腹がものすごくすいている。喉も乾ききっているからか、足は早足になる。
1階のどうやらこの部屋から匂いの元があるらしい。扉を開くとそこには
「あ、おはよう、紫花菜………」
「え?」
そこには、エプロンを着た大翔がキッチンに立っていた。
信じられない。
地に足で立っているのかと確認してしまった。夢ではない。
体を引いた。無視しようにも出来ない。その目を背けることが出来ない。
テレビの方を見ると流河と知らない金髪の女性がゲームをしていた。それをアスハが笑いながら見ている。
どうして、アスハと流河が、そして大翔がここにいるのだ。
―――気持ち悪い。
気分が悪くなって、体がふらつきそうになる。アスハはこちらに気づいて直ぐに駆け寄った。
「おはよう、紫花菜。調子はどう?」
アスハは紫花菜の前に割り入った。
紫花菜の身体を支えてくれて、体の熱が心地よかった。
少し緊張の糸が緩まる。ここに一人だったらと思うとぞっとする。
「どうって? まずここはどこなの?」
「えっとね…昨日は色々あって大翔の家にとまったんだよ」
アスハは心配している様子だ。自分を見るその表情は不安でいっぱいだ。
そんな、大翔の家に止まっていたなんて。だとしたら
「もしかして、わたしが寝ていた部屋って・・・」
「………そうだよ。最初はソファーで寝ていたんだけど、女の子同士で一緒に寝ることになって大翔の部屋で寝たんだよ」
あれは大翔の部屋だったのか。
だったら合点がつく。どこか見たことのあると思っていた。
前はあんなに本はなかったはずなのだが。4年間でお互い変わったのだろう。
「紫花菜」
大翔がこちらに近づいて話しかけた。
目を向けることが出来ない。
流河とアスハは二人の成り行きを静かに見守っている。
女性もなにか気づいたのか声をだすことはなかった。
「ごめん。今はこういう状況になるしかないとしか言えない」
大翔は頭を下げる。項垂れて今すぐ腰を曲げそうな勢いだった。
何も言えない。頭を上げてと言えなかった。
ただ無視して帰ろうとした。理由などどうでもよくて今すぐ帰ろうと。
だがアスハは大翔にフォローするかのように紫花菜の腕を握る。
「……紫花菜。大翔はこんなことをするつもりじゃなかったんだけど……大翔の言うことを聞いてほしいの」
と珍しく大翔の肩を持った。
アスハを見る。何か事情がある顔だ。
気分も悪く起きたてで頭が動かない状態だ。
分かることなど何もない。
でも分かることはある。
アスハは自分を不幸になることはしない。
「……………わかった。大翔君は…アスハは…そんなことしないもんね」
「……ありがとう……僕は買い物にいってくるよ。朝ご飯適当に食べといて」
大翔はそうみんなに言うと、エプロンを外し部屋から出た。
玄関が閉じる音が聞こえる。
誰も彼を送ることが出来なかった。
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世界中の人が魔王によって洗脳されている。
その大翔の結論は誰も反論することは出来ていない。
でも明らかだった。世界は地球連邦として一つの国になった。
お互いにらみ合い時には争いもあった国同士が今や同じ国となっている。
しかも何も前振りもなくだ。
当時何かそのような動きが全くなかったのに関わらず、アドラメイクが世界を洗脳して一週間後に世界を地球連邦として統一した。
世界中の人を洗脳していなければ、こんなことありえないだろう。
昨日、二回目の話し合いの前に大翔が色々調べたおかげで様々なことが分かった。
・就職が100%であること。失業者がいない。それは殺人を起こした人もだ。
・就職活動や転職というものはない。それに対する悩みも会社もなくなっている。
・成績がいい人は学業を専念できること。
・犯罪件数は軒並み減っている事。でもなぜか何件は毎年起きている。理由は不明。
・軍事開発は盛んにおこなわれている。異世界からの襲撃のためか。
他にも沢山あるが、今いる情報はこんなところだろう。
アドラメイクが地球連邦を作ったのを境にそう言った就職率や犯罪件数などが急激な変化があった。
それを踏まえて3つ決またことがある。
一つ目は流河達は家を出る。
どこかで野宿し情報を集めることだ。
「野宿するってことか」
「うん。アスハ、ペルシダさんを殺そうとした時どういう動きをしたか覚えている?」
「……覚えていないわ」
「自分の意思でしないことはあんまり記憶に残りにくいんだと思う。社会に溶け込めない」
やはり、紫花菜とアスハを家に居続ける理由がないのだ。
洗脳から逃れるためにはペルシダとともにいた方がいい。
今日は風邪を移しちゃまずいからという理由で休ませ家で匿うことにした。でもいずれ家に帰らなければならない。
今回みたいに対処出来たのが奇跡だ。
もしどこか離れたタイミングで洗脳がかけられた場合、その後の状況が読めない。
記憶によって行動が決まるのか。洗脳された人は記憶をアドラメイクに読まれるのか。
それとも周りと同じようになるのか。
その予測がつきにくい。記憶を読まれるだけならいい。問題は人質にされたとき、そして洗脳されて異世界の人が来た時。
ペルシダが温厚な人であったのと、未然に防げただけで、異世界人だと認識された瞬間殺しにかかってくる人を見て異世界人はどうなるだろうか。
問答無用で殺しにかかる二人を見る限り、もし渋谷や新宿など大勢の人が集まる場所で異世界人が現れたらゾンビパニックのようになるだろう。
それに魔法があるのだ。
もし身を護るため魔法を使えば大勢人は死ぬだろう。紫花菜達が巻き込まれるかもしれない。
ペルシダと紫花菜達両方を守るためにはまとめて一緒に山の中に住む方がいい。
山の中で密集すれば何かあっても対応は今よりも楽になるかもしれない。
それが大翔の行ったことだ。
問題はその生活は異世界人と話しをすること。
本当にアドラメイクを狙う人物がいるのなら一人で狙わない。集団でいるはずだ。
それがなければいつか限界が来る。
無理な話だと言ったが、大翔は何か考えがあるらしい。
それで大翔は今買い物に行っている。
今何かするなら昨日のうちにやっているだろうと。
今のうちに何があっても動けるように非常食とか野宿用品などを色々買った方がいいと。
反論はしたが紫花菜達をどうするかは大翔が上手くいけば次第となった。
ペルシダをずっと家の中にいさせるわけにもいかないという問題がある。
大翔や流河もずっと家の中にいるのは限界がある。
ペルシダの身の危険を考えても、山での生活を豊かにさせる必要はある。
とりあえず買ってくるという話でしまいとなった。
2つ目は魔王や洗脳、世界の乗っ取りということを紫花菜に知らせないことだ。
アスハは反対したが、大翔の強い希望でそうすることに決まった。
幸いにして、紫花菜は成績がいい。大翔達が何か失敗しても生かしてくれるかもしれない。
紫花菜には隠した方がいいと大翔の提案、願いに逆らうものはいなかった。
結局不明瞭な話だ。しばらくは誤魔化してやり過ごそうという話だ。実際アスハの説得によりなんとかなっている。紫花菜も本調子でなく、家が落ち着かないのかベランダで座っている。
「分かんねえよ……」
そう流河は家にあるもので準備できるものを鞄に詰め込みながら心の中にあるものを吐き出した。
ずっとそうだ。紫花菜達が凶変化し、世界は洗脳されて、データでそれを示され今大翔によって山で生活しようとすることになっている。
大翔が何を考えているのか分からない。理解できない。ついていけなかった。
―――何を焦っているのか。
大翔は確信している。このフィクションだらけの現象でもそれが事実だと確信している。それは一体なぜなのか。
でもそれを考える暇などなかった。
突然玄関のチャイムがなった。
流河はそれに思わずびくっとする。
大翔が出て15分たった。もうしばらくは帰ってこない。
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