第1章5話「敵は地球」


「今日をもって、国際連合は解散となります。私達は連合より強固な団結を、助け合いをしなければなりません」


 演説台に立っているのは一人の大人だ。


 その演説代を囲んでいるのは大人たちだ。中国。アメリカ。ロシア。他にも200近くの国の旗が円になっている。


 確か演説台に立っているこの人は宣言した人で有名な人だ。名前は憶えていないが、よくあるジャックとかそんな名前だった気がする。

 

 歴史に興味ない自分でもこの動画は覚えている。

 覚えているはずだった。


「この日を持って、全ての国は吸収され地球連邦となります!! 全ての資源、領土、空すら共有することができるのです。皆に恒久的な平和を得られることになるでしょう!!」


 その目は黒いもやもやが光をとざしていた。

 演説台に乗っている人だけではない。テレビに映っている人全員の目がおかしかった。


 アスハと紫花菜、さっき様子がおかしかったときの目と全て同じ色をしている。


 何より誰一人緑色や青色の目をしている人もいなかった。


 全員全く同じ黒色の目をしていたのだ。


 今までこの映像は何度も見たことが会った。

 見たことが会ったのに、どうして気づかなかったのだろう。


「おかしいと思ったんだ。国の終わりなのに、選挙はない。解散の決議もなかった。でもそこで止まっていた。そうなる様に組み込まれたのか…わからないけど、それが本当なら………」


 言葉がでなかった。それはアスハもだ。

 

 洗脳。ちょっと前なら「何言ってんだよ」と、流していたかもしれない。

 でもこの映像を見て、簡単に否定できなかった。

 

 一般人まで洗脳する理由。その一つは国家を征服したことを世界中の人が納得するためだ。


「お前はどう思ってんだ?」


「ん?」


「地球連邦が………それに一般人までも洗脳の対象ということは少なくとも70億はくだらない」


「え?70億?そんなにいるの?」


 ペルシダが目を見開いて驚いた。そんな驚いた顔も見ることが出来ず、大翔を見る。


 隣の家に行けばそこにいるのは洗脳された人だ。

 

 ペルシダを殺そうとする人がいるということになる。


 街の人、都にいる人も、この州……


 その時流河は初めて洗脳されたのだと知覚した。

 そう、ここは日本州だ。

 

 昔の選手やクラブを使いたくて大翔とサッカーのゲームをする時、国代表があった。

 それぞれ国旗があって、ワールドカップがあった。

 それが今では国旗は無くなり、代わりにエンブレムがある。

 

 それを見る度何か違和感を感じたり大翔と話し合ったこともある。

 が、何故か気にしなかった。

 

 やっとこの世界の人々が洗脳されたことに気づいた。


「どうしてそんなに冷静にいられるんだ?」


 大翔は極めて冷静だった。

 いつもと変わらないように見える。流河達みたいに驚きで声が出ないこともない。


 それが説明に信ぴょう性を持たせてくれない。

 

 普通はもっと真剣に張り詰めた顔をするのではないだろうか。

 本当は嘘なんじゃないかと思わせる。そう言ってほしいとそう思わせる。


「考えることがありすぎるからね。僕もキャパオーバーだよ。でも考えないと、逃げる為にどうするか。頑張らないと………」


 大翔は真剣だ。アスハもペルシダも少し信じられないのか大翔を懐疑的な目で見ている。

 

 違う。勘違いしていた。大翔は先に行っているのだ。


 大翔は確信している。それが事実だとして、どうするかに頭を回しているのだ。

 

 それは自分も同じだ。

 大翔は確信をもって行動しようとしている。対してまだ信じられない自分達だ。

 

 確かに紫花菜とアスハは洗脳されているのかもしれない。

 だが他の可能性を考えてもいいのではないだろうか。


「そうだとして、俺はこのままの方がいいと思うが。別に行動を起こさなくてもよくないか?」


 確かに世界全体を洗脳した可能性があるかもしれない。

 でも、生活は変わらない。別にだれが支配者になろうが、変わらないのだ。


「いや、多分、魔王が一年ごとに洗脳するはずだ。そしたら、僕や兄貴は大丈夫かもしれないけど、紫花菜やアスハが洗脳される。一度解除したからそれは避けたい」


「魔王? 毎年?」


 そうアスハが質問する。


「さっきアスハが言っていたんだ。魔王様、アドラメイク様ってね」


 それは遠くで聞こえた気がする。それはペルシダでも確認できる。

 大翔は冷静にそうやって反論できない事を並べてくる。

 

 それがこちらの反骨心を煽ってくる。

 正しいはずなのに、正しくないのではないかと立ち向かう気持ちが大きくなる。


「それは気になるけど……でも毎年ってのは?」


「毎年というのは、この人たちが宣言したとき、僕たちはいなかったしね。でも洗脳をかけてきたから早くとこなにか、案を………」


「ちょっと待て、さすがに飛躍しすぎじゃないか?」


 思わず止めてしまった。

 そう大翔の考えが飛躍しすぎていないか分からない。

 

 ついていけない。70億もの人が敵になると言われたからだ。


 異世界転生があったこと。魔王がだいぶ前にこの世界に来て、世界を洗脳して70億の人が洗脳状態だと。


 これだけの情報をたった6時間で全部現実ですと言われてもそうそうですかと言えない。


 余りにも現実味がない。

 例えそれが真実だとしても、それを真実だと認められない。

 

 もっと冷静に他の可能性を考えるべきだ。

 他の可能性を挙げてそこから一番自分たちにとって何がいいか探すべきではと。

 

 その立場にならないといけないと思ってしまった。大翔に一人になるなと言ってしまったのに。


「それに魔法を解かれたことを相手が知っているかどうか分からない。時間が遅いほど相手の思うつぼになる。今まさに動いているかもしれない。対策は施しておくべきだ」


「そんなことあるわけ……」


「分からないよ」

 

 突然声が変わった。大翔からだ。

 大翔の方を見ると下を向いていた。その目にあるのは恐れだ。


「分からないさ。どういう魔法を使ったのか。なぜこの世界に魔王と名乗るものが来たのか。なにが正しいのか分からない。でも少なくとも言えることがある」


「何が起きるかなんて誰も分からない。落雷や事故で死ぬ確率だって低いよ。でもゼロじゃない。誰かが死んでいるから計算される。この魔法だってそうだ。もしペルシダさんと同じように能力を貰っていて、能力で洗脳していたら? 僕には分からない。ただ分かるのは、何か起きるのはいつも突然だってことだけだ。突然異世界転生してきたり突然加害者になったりするんだよ」


 その言葉の重みに流河は目を伏せてしまった。

 それは恐らくアスハも同じだろう。


 ペルシダだけが何が起きているのか分からない。みんなの方に顔を向けていた。


 大翔は恐れているのだ。

 だから必死になって考えている。


 それを飛躍だというのは失礼だと思った。 

 例え全て考えすぎだとしても、流河だけは大翔に傍にいないといけない。


 沈黙が続いた。大翔は慌てて取り繕って


「……ごめん。言い忘れたことがあったんだ。異世界から来た人はほかにもいて、多分魔王の命を狙っていると思う」


「それは、どういうことなんだ?」


「異世界の人を殺すってそうアスハが叫んでいた。そんなこと異世界からの人に狙われている以外何もないでしょ」


「それはあるかもしれないけど………どうやって探すんだ?」


「それは分からないね……」


 大翔はそこで黙る。無理もないだろう。


 そこから何も出なかった。

 一人で考えるなと言ってしまったが、結局最後まで大翔に迷惑をかける形となってしまった。


「う~ん、それはまた考えることにしようか。とりあえず昼ご飯を食べてそこから考えよう」


 とそれでしまいとなった。皆何か会話することなかった。

 

 アスハはまだ信じられないのかあの映像を見返している。

 

 ペルシダは突然の事に周りをきょろきょろしている。


 これからどうなるのだろうか。

 世界が支配されているなんて。異世界から魔王がこの世界に来ているなんて。

 正直未知すぎて、一緒に考えることも出来なかった。

 

 今はとにかく一旦落ち着いて、そこから考えようと。

 

 まだ軽く考えていれるとそう思った。

 ゆっくりと考えればいいとそう思ってしまった。


「大翔」


「何?」


「話してくれてありがとな。俺頼りないかもしれないし、お前の邪魔になるかもしれないけど、でも味方だから、お前が守りたいものは絶対守るよ」


「……うん。ありがとう」


 そう言うと大翔は少し微笑んだ。

 それが救いになったかは流河には分からない。

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