第1章3話「異世界から来た女の子①」
流河は洗面台に一手顔を洗う。ひどい腫れ具合だ。人に見せれる顔だろうか。
結局夢の内容も、何故涙を流しているかも分からなかった。
涙で赤くなった目を洗い、そして寝ぐせの付いた髪を一応整える。整えた所で大翔には勝てないが、無意識に手が伸びていた。
あるいは普段やっている事をやることで平常心を保とうしているのか。
どうしてして泣いたのか。
でもいつまでも引きずっていられない。今重大な出来事が襲ってきているのだから。
「で、君は誰?どうやってうちに入って来たんだ?」
まず質問を切り出した。あの後大翔と一緒に外れた網戸を直しそして今、目の前にいる謎の美少女とテーブルで向かい合っている。話を聞くためだ。
流石にこの状況を看過するわけにもいかない。結局この女の子が何なのか分からないのだ。大翔の身に何か危険があったら大変だ。
と言っても、当の本人は少女の持っていたもので許可を女の子貰って見せてもいい物の鑑定に興味津々なのだ。あまりにも警戒心がなさすぎる。といっても何も出来ず蹴られて気絶した流河の方がよっぽど間抜けなのだろうか。
少女も周りをきょろきょろしていて、話し合いをするつもりがないのだろうか。一応不法侵入として警察に追われる立場にあるというのに。
話を切り出すと少女は真っ直ぐこちらに向いて話した。
「私の名前はペルシダっていうの。それがその…全く分からないの」
ペルシダ、とても良い響きだとそう思った。
ペルシダと名乗る少女の服装はなんというか、ものすごく変だ。
装飾等は着いていないシンプルで動きやすそうな服装だが、まず見慣れない服装だ。靴も見せてもらったが何故かブーツで今の季節絶対に蒸れるだろうと思った。というより服に関しても少し今の時期なら昼あたりだと熱くなりそうだ。
ペルシダも気になることが沢山ありそうだが、蹴ったことに対するものか、無断で(本人もわかってなさそうだが)家に入ったことに対するものだろうか、我慢している様子だ。その顔になんだか申し訳なさもかんじつつ、疑問に思っていたことを次々に問い続けようと思った。
まずそのことについて尋ねる。最初は軽い質問の方が相手も答えやすいだろう。
「今の季節ブーツも服も熱くない?」
「服…?ブーツ? 私っていうより、流河達の方が…もしかして、貴族様!?」
「貴族? いきなり何言ってんの?」
「違うの? じゃあ高い服屋さんとか…そっちの方??」
「え? まじで言ってんの?」
大翔も自分も服はいたって普通のtシャツだ。ペルシダは本当に困惑した顔をうかべている。
まるで、こんな服見たことのないかのような。多分自分もペルシダと同じような顔になっているだろうなと思った。 お互い顔を見合わせて首をかしげている状態で拉致が開かない。仕方なく大翔に聞いてみることにした。
「大翔、どう思う?」
大翔は反応をしなかった。手で顎を触ったまま微動だにしない。数秒たっただろうか何か思いついたのか口を開けた。
「あなたの惑星は何という名前ですか?」
「大翔? お前まで何言って…」
「何ってカイノスに決まってるでしょ?」
「へ? カイノス?」
「年は?」
「109年? だったと思うけど…。急に何なの? そういうのって同じなんじゃ…」
「なるほどね…」
「ちょ、ちょ、待てって! 全く話着いてきてねぇよ!!」
慌てて話の流れを止めた。その時大翔からの視線を感じた。嫌な目線だ。ペルシダの顔をずっと見ているからだよと顔で言っている。
目の保養になるからいいだろと目で言い返すと大翔は溜息をつけながら
「う~んと、ペルシダさんは異世界からきたんじゃないかと思うんだ」
「異世界!? 大翔は何でその…異世界から来たと思うんだ。」
つまり異世界転移か転生か。
これが物語ならそういう設定だと流せるが、現実なら何か根拠が必要だ。
「ずっと、ペルシダさんのこと見てたからね。これ見て」
大翔に渡された硬貨のようなものを見る。
そこには見た事のない文字や景色があった。
「最初は空想が凄く広い人なのかと思ったんだけどね。ちゃんとこの硬貨も貨幣も全て、別々に偽装対策がものすごくされていてね。空想でここまでやるんだったら流石に誰か止めているし、メリットがまったくないからね。恐らく別の国の貨幣なんだと思うけど……こんなものみたことないし」
「そうなのか、これ? でも水筒とか研石とかよくよく見れば、今の人っぽくはないんだよなぁ」
机に並べたペルシダの私物に目を向けると確かに気になるものばかりだ。机の置いてある物全て博物館から盗ってきたんじゃないかと思うほどだ。
もし仮にこの子が自分の国を作るとかいう妄想の世界に囚われていても、流石に昔のものを用意する理由がないのだ。
もし妄想の世界に入り込むとしても、硬貨はまず金メッキとかするとかとるのも面倒くさすぎる。そこで自分は何をやっているだと思う。それをペルシダはこのバックや服を全部やったとなると流石に異常過ぎる。
荷物は現代とかけ離れた遠い過去で使われていそうなものばかりだった。他にも弓矢とか鉈がある。
「こんな物騒なもんをぶら下げて外を歩けねえ」
布も巻かずにごつい布切れで鞄の横にしばっていたらしい。弓矢をもって街中を歩く。警察に連れられないことがあるだろうか。ありえないだろう。
加えて、あの怪力だ。この身ももって実感している。あれは人じゃない。少女に対して申し訳ない考えだがおそらくこの世で一番力があるやつといったら多分ゴリラよりもペルシダだ。
窓は開けて寝ていたが、壁で見えないし、ホームセキュリティーサービスにも連絡がない。
ペルシダは何を言っているのと、私にも説明してほしいと顔がそう物語っている。
その表情と声に嘘をついていると思えなかった。
その顔も可愛く写真を撮りたいという気持ちを抑えつつ、とりあえず異世界転生ならではの質問を続けた。
「それで、ええっと、ペルシダはここに来る前何があったの?」
「え?その、えっと道を歩いていたらくる…その自分よりおおきなものに引かれそうになって…気がついたらここに来たの」
「それはどこでも共通現象なのね」
つまり逆異世界転生というわけか。
ラノベや漫画もそうだが車で異世界転移が多すぎる。普通に考えたら、あんなの運転手にとっては苦痛でしかないだろう。人を引いたという罪悪感とか抱えながら生きなきゃいけないかもしれないし、車が壊れているかもしれないし、人を殺したと噂の種になるかもしれない。
でも、美少女をこの家に転移してくれたのだから、gjと殺していないよという声をかけてあげたい。
ペルシダからしたら知らない世界に転生されて最悪かもしれないが。
どうなのだろうか。転生か転移か。嫌そもそも本当に異世界転生なのか。
ペルシダの年齢的にまだ成人の年齢とは思えない。そして偽の金貨を作れるほどの財力。人の目から逃れ、警察に会うことなくそしてセキュリティーサービスをかわして寝ている人のソファーの中に入る。
現実的に考えにくい
「その…2人とも納得しているけど。結局私はどうなってるの?」
それもそうだろう。こちらは漫画とか読んでいるから理解は出来るけど、ペルシダにとっては全く分からないだろうなと思った。
ペルシダにここは地球という惑星そして、異世界転生したんではないかと説明した。
その時反応、そして大翔の検証によりペルシダは異世界転生したのだととそう結論付けた。
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話し合いは終わり、ペルシダにこの世界の物について色々話していた。
「これ、人が額縁に入ってる!!え。...大丈夫なの!?」
そういって仏壇に飾ってた母ちゃんの遺影を見ておそるおそる写真を見ていた。しかし、今まで当たり前だった写真がこうやって珍しそうに見られるのを見ると、異世界からきたんじゃないかという気持ちが大きくなっている。ほんの少しの時間だけだが、うそをつく人間だと思えないのだ。
異世界に転生したといってもあまり悲観的にならなかった。
喜びもなければ、悲しみもなかった。
もし自分が異世界に移動したらどう思うのだろうか。
漫画やアニメのおかげで理解は速くなるだろう。そう思うとペルシダはまだ理解しきっていないのかもしれない。
「これは写真って言って、そうだな。人を完全再現した絵って感じなのかな?」
「そうなんだ。流河の世界はこんなすごいものでいっぱいなの?」
「これよりすごいもののほうがたくさんあるんだけどな。写真だって、結構前からあったし。となるとペルシダの世界は中世辺りくらいなんかな」
「中世って…私からしたら変な気分。これは、祭壇?」
ペルシダは写真の周りを見て、何か気づいたのかこちらを見て来た。
写真とそしてお線香が置かれている。
そういえば、色々ありすぎて挨拶を忘れていた。
「あぁ、まあそんなとこだな。これは俺の母ちゃん。小さい頃に病気でな」
「そうなんだ……寂しいね」
「あ、あぁ、そうだな」
思ったより声が小さくなって悲しそうにペルシダが話したので、間の抜けた返事になってしまった。確かに昔は寂しかった。でも、今は大翔のことの方が気になる気持ちが大きいのと、それよりも共に前に向いて生きていこうという気持ちの方が、強い。
チラッと大翔のほうを見た。まだ、ものの鑑定に必死だ。
もちろん、父ちゃんと母ちゃんが居ない事は心に深く留まっている。会いたいし、たくさん話がしたい。
父ちゃんは行方不明のままもう10年以上が立っている。どこで何をしているのか。どうして行方不明になったのか全く分からない。傍に居たのに関わらず、だ。
母ちゃんも父ちゃんもいない。でも大翔がいる。いつも世話になっている割合のほうが多いんのだが、自分は守らなくてはならないのだ。父ちゃんや母ちゃんの事を考えるなら、大翔の事を見守りたいし、将来を考えていきたい。希薄だとそう思われるかもしれないがきっと二人も許してくれるだろうと思う。
「ペルシダさん、これありがとう。とても興味深かったよ」
「あ、うん。どういたしまして。こちらこそありがとう。色々教えてくれて」
ペルシダはリュックをかけて二人に頭を下げた。
そのやけに丁寧なお礼に思わず笑ってしまう。
「いやいや、頭なんかさげなくても…」
「二人がいなかったら、私死んでいたかもしれないから」
「…え?」
そう思わず反応してしまう。
リュックを肩で背負って、頭を下げて。
その言葉はまるで、別れを告ぐ言葉のように、流河の心に深く響いた。
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