第1章2話「異世界から来た女の子」

 流河は何故か美少女と一緒に寝ていた

 そして蹴られて意識を失った。

 

 目を洗い、そして寝ぐせの付いた髪を一応整える。整えた所で大翔には勝てないが、無意識に手が伸びていた。

 あるいは普段やっている事をやることで平常心を保とうしているのか。


 流河は涙で赤くなった目を見る。


「何だったんだろうな……」


 流河は目覚めた瞬間何故か涙を出てきた。

 それに忘れてはいけないものを見た気がする。

 

 結局その内容も、何故涙を流しているかも分からなかった。

 でもいつまでもそれに引きずっていられない。


 今重大な出来事が流河達に襲ってきているのだから。

 

 大翔を護らなければ。


「で、君は誰? どうやってうちに入って来たんだ?」


 流石にこの状況を看過するわけにもいかない。

 話し合いが必要だ。


 流河が目を覚まし、網戸を直している間にお互い自己紹介を軽く済まして、今テーブルで話し合いを行なおうとしている。


 結局この女の子が何なのか分からない。

 大翔の身に何か危険があったら大変だ。

 

 と言っても、大翔は女の子の持っていたもの。

 その中で許可を取ったものの鑑定に興味津々なのだが。


「それがその……全く分からないの」

 

 彼女の名前はペルシダという名らしい。

 ペルシダ、とても良い響きだとそう思った。その可愛い顔に似合っている名前だ。


 改めて見ると、生では発見できないような美貌と可憐の持ち主だ。

 一言で言えば可愛い。

 

 顔にここまで可愛いが乗せられるのかと思うほどの可愛さだった。

 

 その顔には感情が分かりやすいほど貼られている。

 多分、「なんなの、これ。どうしたらいいの~~!!」と思っているのだろう。

 そんな不安顔が可愛くて、思わず警戒心が抜けてしまうくらいだった。


 でもペルシダと名乗る女の子の服装はなんというか、ものすごく変だ。

 装飾等は着いていないシンプルで動きやすそうな服装だ。


 まず見慣れない服装だ。

 靴も見せてもらったが何故かブーツで今の季節絶対に蒸れるのではないだろうか。

 服に関しても少し今の時期なら昼あたりだと熱くなりそうだ。

 

 まずそのことについて尋ねる。

 最初は軽い質問の方が相手も答えやすいだろう。


「今の季節ブーツも服もそうだけど……ペルシダは熱くないのか?」


「服…?ブーツ? 私っていうより、流河達の方が…もしかして、貴族様!?」


「貴族? いきなり何言ってんの?」


「違うの? じゃあ高い服屋さんとか……そっちの方??」


「え? まじで言ってんの?」


 大翔も自分も服はいたって普通のtシャツだ。

 でもペルシダは本当に困惑した顔をうかべている。

 

 多分自分もペルシダと同じような顔になっているだろうなと思った。

 お互い顔を見合わせて首をかしげている状態で拉致が開かないなと思っていたら、


「あなたの惑星は何という名前ですか?」


「大翔? お前まで何言って……」


「何ってカイノスに決まってるでしょ?」


「へ? カイノス?」


「あぁ、なるほどね……」


「ちょ、ちょ、待てって! 全く話着いてきてねぇよ!!」


 慌てて話の流れを止めた。

 大翔からの視線を感じた。嫌な目線だ。

 

 ペルシダの顔をずっと見すぎだからだよと顔で言っている。


「あ~~うん。その、ペルシダさんは異世界からきたんじゃないかと思うんだ」


「異世界!? 大翔は何でその……異世界から来たと思うんだ」


 つまり異世界転移か転生か。

 それならTシャツの事が分からなかったり、貴族や別の惑星の名前を出すことも異世界から来たならは理解はできる。でもそれ自体が本当か納得は出来ない。


 だが相手が異世界人だとするならもう少し根拠が欲しい。

 自分が異世界に行くなら分かりやすいが、相手は亜人でもないので判断が出来ない。


「ずっと、ペルシダさんのこと見てたからね。これ見て」


 大翔に渡されたのは紙幣だった。


 そこには見た事のない文字や景色が刷られていた。


「貨幣全てに、統一された偽装対策がされているんだ。空想でここまでやるんだったら流石に誰か止めているし、メリットがまったくないし……こんなものネットで見てもないし」


「確かに……それにこんな物騒なもんをぶら下げて外を歩けねえよな」


 ペルシダを見ていて気付かなかったが机の上にあるものに弓があった。

 

 布も隠さずにごつい布切れでリュックの横にしばっていたらしい。

 弓矢をもって街中を歩く。

 警察に連れられないことがあるだろうか。ありえないだろう。

 

 そして問題は家のセキュリティーサービスだ。

 顔を洗っている時に軽く確認してみたが


 「窓は開けて寝ていたけど、壁で見えないし。ホームセキュリティーサービスにも連絡がない」

 

 異世界から転生してきて家に入ってきたという方が、夢はある。

 

 ペルシダの顔年齢的にまだ成人の年齢とは思えない。

 

 そして偽の金貨を作れるほどの製造能力。

 人の目から逃れ、警察に会わない隠密能力。

 セキュリティーサービスを突破するほどの筋力かサイバー技術のある超絶美少女。


「まあ、そう考えた方が面白いか…」

 

 これで本当は現代人ですと言われても、それはそれで悲しいし何より信じられない。

 

 とりあえず現状はそう納得することにした。


 ペルシダは何を言っているのと、私にも説明してほしいと顔がそう物語っている。

 その表情と声に嘘をついていると思えなかった。

 さっき会ったばっかりだが嘘をつくような人間に思えない。


 ペルシダに人をだまそうという心の余裕はない。

 かといって人をだまさないと生きていけないそんな心の余裕のなさも見えない。


 ペルシダはどこにでもいる普通の女の子だ。


「それで、ええっと、ペルシダはここに来る前何があったの?」


「えっと……その、えっと道を歩いていたらくる…その自分よりおおきなものに引かれそうになって…気がついたらここに来たの」


「それはどこでも共通現象なのね……嫌転生とかわけわかんねえけど」


「だね」


 つまり逆異世界転生というわけか。

 此方としては美少女がいきなりこの世界に来て心は踊るが、ペルシダからしたら知らない世界に転生されて最悪かもしれない。


「えっと…2人とも納得しているけど、結局私はどうなってるの?」


 それもそうだろう。こちらは漫画とか読んでいるから理解は出来るけど、ペルシダにとっては全く分からないはずだ。

 

 ペルシダにここは地球という惑星。そして、異世界転生したんではないかと説明した。


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 もし自分が異世界に行ってみたらどう思うのだろうか。

 漫画やアニメのおかげで理解は速くなるだろう。


 そう思うとペルシダはまだ理解しきっていないのかもしれない。

 ペルシダからは驚きも悲しみもない。

 まだ現状を信じ切れていないのだろう。

 自分がそうなれば理解できず、ペルシダみたいになってしまうだろうか。


「ペルシダさん、ありがとう。とても興味深かったよ」


「あ、うん。こちらこそありがとう。色々教えてくれて」


 ペルシダはリュックをかけて二人に頭を下げた。

 そのやけに丁寧なお礼に思わず笑ってしまう。


「いやいや、頭なんかさげなくても…」


「二人がいなかったら、私何も分からなくて死んでいたかもしれないから」


「…え?」


 そう思わず反応してしまう。

 

 その言葉はまるで、別れを告ぐ言葉のようで。

 その言葉に、流河の心に深い傷が突き刺さり抉っていく。

 

 ペルシダは誠意を込めた笑顔を浮かべた。

 一見普通の事を言っているだけなはずなのに、言葉に引っ掛かりを覚えた。


「ちょっと、待って。その言い方は…もしかして出るつもりなのか? どうすんだそんなの。しばらく俺たちの家にいたほうが…」

 

 対処できないことで家なき子になるのは余りにも可哀そうだ。


 異世界から現代に、しかも東京の24区の住宅街からスポーンしてまともな生活が出来るのだろうか。

 住民票。仕事。住む場所。それを全て手に入れることなど出来るのだろうか。

 

 山に行ったとしても梅雨、そして夏や冬に耐えられるのだろうか。

 

 ペルシダからは害意も感じない。

 家を貸すくらいなら出来る。服や食も用意できないほど余裕がないわけではない。


 ペルシダに取っても悪い提案だと思うが……


「家にいても私にできることはほとんどないわ。迷惑をかけるだけになっちゃう」


「そんなことは……」


 ないと言う前に、ペルシダは首を振る。

 そしてこちらに向けた目に自分は口を閉じてしまった。


「それに、どうして流河は私を助けようとするの」


 そう流河に疑念をかけていた。


 その言葉に口が詰まるような感覚がした。

 お互い一時間も満たない関係だ。

 疑われるのも当然だし配慮がなかった。善意を疑われるのは苦しいが、でも仕方のないことだと……


 ――――嫌だ。


 その気持ちを崩すことが出来なかった。

 なのに、答えを出せなかった。口も動かすことが出来なかった。


「どうして?」


 この心を上手く言葉にできなかった。

 早くしないとペルシダがどこか行ってしまう。

 だが時間が過ぎていく。どうして、その言葉に対して答えが出ない。

 どうしてペルシダを引き留めてしまうのだろうか。


 沈黙の時間、それをいきなり破ったのは大翔だった。


「お腹すいた」


 そう大翔はお腹を手で押さえながら台所に行こうとした。


「おい、大翔!?」


 予想外のリアクションについ大きな声を上げてしまった。

 今この状況で自分の食欲を満たすつもりなことに思わず声を大きくなる。


「何?」


「何って…お前はどうし…」


「僕がどう考えようが、決めるのはペルシダさんでしょ?」


「!?」


 大翔は「あ、でも、ペルシダさん」と呼び止める。


「朝ごはん食べてください」


「え?」


「このまま何もおもてなしせずに家なき子を放置する薄情な奴になりたくないんですよ。だから…」


 そういってちらっとこちらを一瞬見る。


「お願い、します」


 そう微笑んでキッチンへと向かった。

 ペルシダはそれを引き留めることはしなかった。



 ―――そうだ、お願いだ。 流河は何故ペルシダを助けたいと思ったのかそれが分かった。

 自分一人で抱え込もうとしている人を見ていられないからだ。

 

 それが多分一番大きいと思う。 


 ただ単に気にするのが嫌なのだ。暗いことを考えたくない。 

 一緒にいるのなら楽しい方がいい、楽しくなるようにしたい。

 一度話してしまったら、もう知ってしまえばもう見限ることが出来ない。


 だいたいだ。

 人を助けたいにどうしてなんかない。

 どうしてなんかと考えるから変なのだ。


 ただ一緒にいたら楽しそうだから。

 異世界から来た人なんて、話したら絶対楽しいに決まっている。

 

 助ける理由じゃない。一緒にいたい理由なんてそれしかない。


 でも、それはただの自己満足で。自分がそうしたい。自分の願望だ。

 

 だから


「お願いだ」


「え?」

 

「ペルシダ」


「…どうしたの?」


 そう聞くペルシダの顔は不信感でいっぱいだ。

 それもそうだろう。流河は近づいて目の前にいるのだから。


「俺達の家にいてほしい!!」


「……………え?」


「ペルシダ! この家でしばらく住んでほしいんだ!!」


 もう、後には戻れない。もう、ごまかせない。

 顔も体がとても熱い。頭が回らない。頭は真っ白になってしまった。


「やっぱり心配だ。俺はお前のこと、何にも知らない。もし、俺みたいな顔が気持ち悪いとか生理的に嫌なら、今のは聞かなくていい」


「そんなことは……」


「でもほかの理由なら、俺を頼ってほしい!! 俺はペルシダがいて迷惑だなんて思わない。何か嫌なことがあるなら聞く!! ペルシダが嫌な所は治すから!! 洗濯物も分ける!! お風呂もシャワーだけにする!! だから俺を頼ってほしい!!」


 告白するよりも恥ずかしいことを流河はしなければいけない。


 ペルシダは流河の事を信じていない。

 この一時間で流河の何を知ることが出来るのだろうか。大翔がお願いを言わなければ、自分自身でも気づかなかったというのに。

 だったら自分の全部をさらけ出して、ペルシダに判断してもらうしかない。 


 勢いに任せて喋るしかなかった。

 何もいい言葉が思い浮かばない。

 ただこの勢いだけは止めてならないと、ただ心に思い浮かべたことをそのまま口に出し続けなければいけない。


「俺はペルシダの事をもっと知りたい。もっと話したい。

 せっかく知り合えたのにこんな悲しい別れ方は嫌だ!! 俺を…俺を見捨てないでくれ!!」


 反応がない。心は全て出し尽くしたはずだ。

 怖い。ペルシダの顔を見れない。目を閉じて結果をただ待つほかない。

 

 時間が過ぎる度に緊張で震えが強くなる。


「フフッ」


「え?」


 思わず顔を上げると、ペルシダは口に手を当てて笑っていた。

 それが収まり笑い泣きをしていたのか、涙を人差し指で拭く。


「ごめんなさい。あなたのこと疑っていたの。理解できないことだらけだし、何を信じたらいいのか分からない。知らない場所でこれからどうしようっていっぱいになって疑心暗鬼になってた」


 ペルシダが下を向いていることに気づいた。

 でも、彼女の目線はこちらに向いている。ということはつまり


「でもそんな告白みたいに膝を曲げている人を疑えないわ」


 やっぱりそうだった。


 というよりなんだ。

 お風呂に入らないとか。誠心誠意に伝えるのではなかったのか。

 

 邪な考えがあるじゃないか。

 ペルシダがもし流河のことを少しでも信じていたら下心があったって引かれる話ではないか。

 

 ペルシダは勢いよく喋りすぎたので全てをききとれなかったのだろう。そう思わないと家にいられなかった。


 穴があったら今すぐ入りたい。

 

「じゃあ、お願いしてもいい?」


「え?」


「不安だったの。これからどうやって生きていくのか。だから、ここにいても…いい?」


 ペルシダは流河の手の上に自分の手を重ねてくれた。

 

 信用してくれたのだ。

 嬉しくてその手を両手でもってぶんぶんと振った。


「…うん!! もちろん!! 」


「ありがとう…流河」


 ペルシダは屈託のない笑顔を向けてくれた。

 

 まるで、そこだけこの空間だけ輝いて見えた。

 見たかったその笑顔。


 ―――やっぱり美少女の笑顔は最高にいいものだな。

 

 ペルシダのいる空間、それがまるで別空間のように感じる。

 そのくらいにペルシダの笑顔は素敵で、この心臓の鼓動を高鳴らせたのだった。





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