第1章1話「夢のような現実と現実のような夢①」

夏が近づいていくのを感じつつ、窓を合えれば涼しい風が家に循環している。

瞼を開けた。いつも通りの光景。突然異世界に渡るなんかしていない。

腕を上に伸ばしながら、ソファーから起きた。そして「6:30」とかかれたスマホのアラームを止める。


「ふぁぁぁ」


大島 流河はこれといった特徴はない。そう自身で自覚している。

17歳。黒髪の短髪で顔も普通。身長も普通。運動も勉学も普通。家事が特別できるわけでも特技も何もない。

彼女も出来たことも無い。どこまで頑張っても、友達止まりで終わってしまう。どこにでもいるただの高校生、一般人だ。これで自分の人物像は事足りる。

普通じゃない所といえば隣で寝ている彼の兄である所と言うところか。


「おはよう、大翔」


そう言って、隣のソファーにいる弟に向かって小さく声をかけた。

大翔は流河と違って何でも出来る完璧超人だ。

おまけに顔もいい。化粧をして仕草を変えれば自分でも女性だと思うくらいだ。幼さを隠し切れせず釣り目のその顔は口を閉じればイケメンになり、喋れば可愛さでめろめろになる犠牲者が多く存在していた。血管が見えるじゃないかと思うほどの透き通る白い肌。声もほどよく高く、美声だ。足もすらっとしていてモデルのように長い。スタイルも良く、また見た目の割に考えられないほどの力がある。少女漫画の男かと思うような設定の持ち主だ。本当に同じお腹から生まれたのかと思うほどに。


これで頭が馬鹿なら調和がとれているなと思うのだが、残念ながら頭もハイスペックだ。

部屋には大量の本が積み上げられ、勉強も大学の試験なら満点は余裕と本人も言っている。

しかもまだ13歳なのだ。11歳でもう高校の内容は全て理解したと言っていた。つまり今はどうなっているのかもう想像がつかない。そしてなによりその経済力だ。10歳で10万円から投資して、今は億単位の大金まで資産を作り上げた。


そして言われた。兄貴を養うことは出来ると。

その時の悲しみは忘れ去ることが出来ない。それ言われた当時はバイトをしていた。大翔が将来何かしたいといった時に出来るように。でもそんな必要はないと言われたときの悔しさとやるせなさは言い表せない。半分くらいあげようかと言ってくれたが丁重にお断りした。


そして今は老後までのお金はあるからと様々なところに投資で儲かったお金を寄付や募金をしている。運動も怠らず、家の花壇づくりや料理の研究など、一日をだらけることなく活動している。

どこまでも完璧な弟だ。


「本当、寝顔まで完璧だな」


そんな大翔は隣でタオルケットを抱いて寝ている。少しヨダレが垂れているがどう見ても可愛いとそう思われる。イケメンな一面と可愛い一面があるのが大翔の顔だ。女子が見ても多分ギャップ萌え可愛いとしか思われないだろう。羨ましい。結局顔が良ければすべての顔が面白いか、愛おしいか、可愛いか、かっこよいかで決まってしまうのだ。


「ねっむ……」


ものすごくねむい。それこそ寝ぼけて自己紹介を頭の中で考えるくらいには。

テレビはつけぱっなしで放置されている。流河はテーブルに置いているリモコンを持ちテレビのチャンネルを変える。


「…月15日。朝のニュースです。…性が殺害され…各領の代表者が………今日の朝ごはんは…」


ご飯が流れているチャンネルを回した。朝はニュースが多いためどこも同じようなニュースをやっている。 だからこそこうやって食欲をそそるような番組でないと眠気が抑えられない。

昨日は友達と夜遅くまで遊んでしまい、帰ったら軽い夜食を作ってくれていた。一緒に夜食を食べ、寝る身支度を整え眠気が来るまでタブレットを適当に眺めていた。


「美味そう…」


そうリポーターがハンバーガーを食べている映像によって食欲を掻き立てる。

昔こそ朝ごはんを食べずにいたのだが、食べるようになってから日々のルーティンになっている。

チャンネルを合わせば、いつも通りの日常が始まっていた。

何も変わらないただの日常だ。なにも起きるわけでもなく、なにかが変わるわけでもない。ただの平凡な一日。


もう一度あくびをして体を延ばした。朝はコーヒーがないと頭が覚醒しない。早く顔を洗って朝ごはんとお弁当を作らなければ。

口を抑えた左手を使って、立ち上がろうと、ソファーに手を置こうとした。

できなかった。


人だ。

柔らかくて暖かい感触が手に走る。反射的に腕に入れていた力を抜いた。まるで人間の肌みたいにすべすべで。人間の肉、いや脂肪のように柔らかくて。


「え?」


思わず、声が出た。 意識が完全覚醒していく。

掴める。とても暖かい。そしてこの肉感。おそらく今まで振れたことがないであろうこの柔らかい感触。もしかして………

恐る恐る左手を見る。


「え?」


美少女がいた。美少女がいる。美少女が存在している。

思わず三回同じことを確認するくらい動揺してしまった。

なぜか分からないが寝ているソファーに美少女がいるのだ。


「女の、子?」


手は胸の前にある腕を握っていた。二の腕だ。一瞬残念な気持ちを抱くが、直ぐにそんな邪念が消えた。

目を何度も閉じて開けても、眉間を押しても頬を叩いても手を噛んでもその子はいた。寝不足ではない。可愛い寝顔で呼吸をしている。体がもぞもぞと動き始めた。体も温かい。生きている。本物の人間なのだ。

絶対にこの子は可愛いと。ただ寝顔しか見ていないがよく分からないがもう分かる。それだけは分かった。


「かっっっわ」


髪は日に当たった麦のようで、白色のような金色のような髪の色で肩より下まである。その髪は風に揺らげばとても綺麗だろう。まるで黄金の海と言えば良いのだろうか。鼻に甘い果実の香りが理性を狂わせる。腕はとてもすべすべしていてとても暖かい。体が勝手に感触を楽しんでいることに驚いた。思わず手を離してしまったが、なぜか惜しいと気持ち悪いことを考えてしまうほどに心臓がどきどきしている。 体の熱が上がっている。


金髪のロングヘアーでかわいい系の女子が好きな流河にとってまるで自分の好みが具現化してきたかのような女の子と言えばいいのだろうか。

自分の語彙力のなさによってこの子をとらえきれないと悔やむくらいだ。

もし語彙力があれば恐らく1000文字以上はこの子について語れる。


思わずつばを飲み込んだ。

そして………視線を一瞬下に下がったのだが、直ぐに上に戻す。でもやっぱり見てしまう。

その服では隠し切れない大きな膨らみが存在している。大きい。確実にdはある。

何度見ても減ることも消えることもない、確かなものがここにある。


そうやってすぐその膨らみを見る自身の性に少し辟易しつつ、その美少女の存在に頭がパンクして、その可愛さしか考えられなかった。


思わず顔をそらす。

今直視してしまえば自身の理性が持たない。

身体は密着していて、体内の温度が上がり、体が今から運動するんだろと言わんばかりに覚醒している。


このままではまずい。これは制御できない。


弟を見て一度落ち着かせる。

この中で自分だけが浮いている。

自分位は不釣り合い、自分には不釣り合い。どうせ弟に目がいってしまう。

そう強く思い、溢れかえったこの高鳴りを沈めていく。

今までの言動を思い出すしかない。必死に働いたバイト代が大翔の三分で稼げるようになった時。

気になる女の子を家で遊ぶことになったときに大翔に目を奪われたときの事。

そして詰め寄られたときの事を。


一度大きな息をついて落ち着かせる。

こんなかわいい子と付き合えるわけない。

色目で見たら人生終了と。


心を静めることが出来て、平常心に戻った。

現状とそしてこれからの事に頭を回すことにした。


「で、何でここにいるんだ?」


どうしてここにいるのだろうか。理性を取り戻せたがだんだんと不安になってきた。心は赤から青に変わる。


1度も彼女が出来たことがない。大翔もいるはずがない。

昨日はこんな所に美少女が寝ていなかった。

もしかして、窃盗なのか。それとも強盗。

もし、強盗や殺人が目的ならばどうすればいいのだろうか。 この女の子を動かさず大翔を起こす手段なんてない。

この美少女の足は暖をたるためか、太ももに深く入っているから。


声を出すか、物を投げて大翔を起こすか。

身体を動かして、声を出してこの子が起きて大翔が起きなかった場合。もし起きてもリアクションを起こした場合。

大翔を如何したら守れる。起きるまで待つか。


「ぎゃあああああああ!!!」


その時急にその少女がこちらの腕を力強く掴んだ。その少女の手からは考えられないほど強かった。

そんな恐ろしい想像をしていた結果あほみたいに大声を出してしまった。

思わず体が離れ、少女を掴んで、離れようとする。大翔に一歩でも近づこうと音を出して走る。それが原因で


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


その瞬間強い衝撃が体に走る。今まで感じたことのない痛みだ。風が頭や背中から感じた。


「ごぼぉぉぉぉぅぅぅぅ?!?!」


―――あぁ飛ばされた。

そう知覚した瞬間、頭に大きな衝撃が入り、世界が反転した。


**************************************


流河が次に意識が目覚めた時、最初に見えたのは天井だった。


――ここは、どこだ?


そう思ったものも徐々に既視感が感じる、そんな天井だった。でも家の天井ではない。体を上げると、どこかで見たようなリビングだった。

でも自宅ではない。

視線がいつもより低い。テーブルも違うのもあるがどう見ても脚の高さと視線が普段見ている時と合わない。どうしてだろうと思って下を見ると、はるかは電車が描かれたパジャマを来ていた。それに手が小さい。身体も小さい。


「夢なのか?」


そう思いつつ、服を上げたり、ズボンを引っ張ったり、更に下着まで引っ張った。

夢の割には、下着はヒーローもののパンツで、そしてその中身も、年相応だった。


これは非現実だ。そう理解した。

見た目は4歳、心は18歳だ。こんな恥ずかしい寝間着を着てられない、早く着替えたいという気持ちが状況を確認し着替えを探し始める原動力となった。


「もしかして、転生?」


もしくは時間逆行か。とにかく流河は子供になってしまった。

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