another world

@miumimiki

序章 この世界の始まり。


意識がある。五感が目覚めていく。初めに感じたのは音……


「すげーコスプレ」


「クオリティやべ。ていうか熱そー」


「何で交差点の中央にいるの? 赤だよ?」


光を見えた。暗闇から薄く白い光が見える。光のある場所にいるのだ。

聞こえる。見える。臭いがする。それだけではない。体の感覚がある。

下を見る。四肢と血ひとつもない体がある。

人がいる。声が聞こえる。多すぎて一人一人何が言っているのか分からない。


―――何だこれは。


目を上に開けるとそこには、 見たことのない景色だった。炎もない。血のにおいもしない。

そして、見たことのない服。手には見慣れない金属物らしきものが、沢山の人が似たものを持っている。


そして、建物は、圧巻と言い様がなかった。こんな高い建物は今まで見たことがない。    

更には空には大きな鳥のような物体が飛んでいる。そして、ここには魔力の気配が全く感じない。ここは、一体………… 


街にいる人達は、板をこちらに向け、あるいは無視した。

そこは奇妙と言えばいいのだろうか想像に付かない、まるで別世界だった。


何もかも分からなくなる。ここはどこなのか。どうやってここに来たのか。そもそも自分は誰なのか。それすら分からなくなってしまう。

自身の認識すら出来ない、周りの大きな不快音が聞こえないくらいそれくらい異常事態だった。


そうだ。思い出した。

自分の名はアドラメイクだ。魔王として国を支配し、そして戦いを…


思い出してきた。

そしてここに来る前、戦いがあったこと。

お互いに叫びながら、また大きく唱え、風が、炎が、氷が、結晶がその戦場で舞い、散っていった戦いがあったこと。

首を切られ、その額に剣を突きたてられたことを。

アドラメイクは死んでしまったことを。



そうだ。アドラメイクは死んだ。だが生きている。

どこか知らない場所にいる。


そして時は数十秒立っただろうか、いつのまにか上を見上げた。

何十年ぶりだろうか、高揚が顔に隠しきれない。今口を大きく開けて笑っているだろう。周りのけたたましい音にも反応が出来ないくらいその位の高揚感に包まれている。


赤い光が街を、世界を包んだ。          

その瞬間、人々の動きが止まる。歩くために、

歩いていた人は動きが止まり、腕は皆時を止めたかのようにだらんと下げた。

止まっていた車に車が突っ込む。人がいるところに車は飛び出し、血と肉が飛び散る。

誰もその惨劇に反応するものはいなかった。          


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


「大翔、おっぱい揉んでもいい?」


「急に何?」


かたかたとパソコンのキーを叩く音が聞こえる。

電球の下でダイニングテーブルに座り集中してパソコンを触っている弟につい声をかけてしまった。


「いや、あるだろ。こう主人公が動転して辛い時に、ヒロインが慰めようとしてさ。

大丈夫、おっぱい揉むとかさ?」


「ごめん、知らない」


つい動転していて読んできたラブンスコミックを口にしてしまった。

幸いにしてそのような知識を大翔が持っていなくてよかった。

大翔以外に聞かれなくて良かったなと思っていたら


「良く分からないけど、つまり兄貴が主人公で、僕がヒロインだと」


「…嫌、いいわ。お前がヒロインとか何もすることがない」


追及されてしまったせいで気づいた。

大翔はヒロインになったら主人公である自分に活躍する場面はない。

そうなってしまったら自分はきっと読者に嫌われる、役立たずの主人公になってしまう。


「主人公になることは決まってるんだ?」


「嫌、なってるんじゃない? 実際」


異世界で生きる。物語である展開の一つだ。

主人公が転生したり転移したり召喚されたりでどこか異世界に飛ばされて、そこで活躍する話。

異世界転移するのは大体中世が舞台になるだろう。

現代で凶悪、大人数の人が徒党となって敵になることなどなく、また国同士が協力していて、戦争になることはなく、何より人の力は限度がある。

炎を出すことや空を飛ぶことなど出来ない。人が体一つで出来ることなどそうたいしたことがない。そもそも何かする前に政府や警察によって実態を暴かれ、事前に解体されている事だろう。

だから物語の舞台に選ばれるのは魔法や超能力がある世界で、舞台ももっと前の時代、そう思っていた。

そして何も力を持たない主人公は異世界転移によって何かしらの力を得ることが出来て活躍して皆にその場面を見てもらえる。


でも誰かが現実は物語だというなら、

その物語の主人公に選ばれたのは間違えなく自分とそう言い切れる自信があった。

そうでないと今起きている状況は何なのだというのだろうか。

悪役がこちら側に転生したことを気づいた現代人はきっと自分たちだけだ。

なら誰が主人公に務まるのだろうか。


「別に触りたかったら好きにすれば? こっちに来て」


「まじで? 何で?」


そういいながらも大翔の横の椅子に座る。大翔の肩に乗せてパソコンの画面を見る。


「…………本当にするの?」


「…察しろ」


そこから大翔にくっつき服をぎゅっと握り締めてしまった。

家族の身体と熱を借りないと現実だと認識できないからだ。受け入れるべき現実だと。


やっぱり主人公なんてなれないのかもしれない。家族である人を抱きしめないと現実を直視できない主人公などいない。


「で、なんだ?」


「僕らを洗脳した相手が、この世界に誕生した時の映像だよ」


映像はライブ配信で10年以上前らしい。画質は今よりもずっと荒い。

交差点の真ん中に立っている一人の映像。クラクションの音がけたたましいのに関わらず、その人は真ん中に立ち続けている。

でも分かった。

ラスボスは悪魔だということに。


悪魔らしき人物から赤い光が見える。その光に包まれた瞬間一斉に腕を下げて映像は地面に移り、そしてそこに車が突っ込んでいき暗転して終わった。

これを意味することは何なのだろうか。


現状の整理、そしてこれから起きるだろうことにただため息するしか出来なかった。


名前:大島 流河(おおしま はるか)

職業:ヒト科

職業:高校生

腕力:凡 脚力:中くらい 体力;普通

敏捷:それなり 器用;平均 精神:人並

武器:・フライパン・包丁・プラスドライバー・トンカチ・ブレイン(大翔)

スキル:家事(一般的)


つい思ってしまう。

果たしてこのステータスで悪魔相手に生き残るなど出来るのだろうか。

世界を支配した相手に勝つことなど出来るのだろうかと。


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