第2章19話「英雄の子供」


 地に刺したシュルーブハドネアートという名の魔剣を大翔は上に挙げる。

 名前を叫んでも、剣を大事しなくても剣に意思はないので問題なく使える。

 なら名前は魔剣とそう呼称しよう。


「始まった……」


 そう、始まったのだ。

 この戦いでこちらの生死が決まってしまう。

 民間人がどうなるか全てこの戦いで決める。


 大翔は気持ちを変える。

 勝つため、誰も死なせないため気持ちを全て戦闘に向けた。


 初撃は対応することが出来た。


 予想通りに相手は空間魔法で地下に移動してきた。

 最初から地点を確保しに来たのか、それともこちらの様子を確認するために隠れてきたのか。


 それは分からないが、一般人を守れることが出来た。

 あらかじめ人を配置しておいてよかった。直ぐに魔法をかけて無力化をしている。

 魔石も少しは確保できるだろう。


 相手も空間移動魔法を発動させて攻撃してくることは少しは躊躇するはずだ。

 だがいつ第二波を仕掛けてくるか分からない。


 いつ来るか分からない第二波に大翔は待つことなど出来ない。



 ―――どれだけ先手を取れるかが勝負のカギだ。



 大翔は空間移動魔法で移動した。

 目に力を入れて異能を使って対象の魔力から人とロボットに変える。

 敵の数はかなり多い。


 ビルの奥にも中にも地下にもいる。

 

 大翔は魔剣を背中に背負い、敵へと向かった。


 相手に見つかり、相手の目が一斉に大翔に向けられる。


 相手の種類は主に三つ。


 現代武器を使う地球連邦軍の人。

 魔法を使う異世界側の人間。

 そしてロボットだ。


 地球連邦軍は数が多い。

 戦力としては乏しい。だが民間人を殺す力は会って、何より被害者だ。

 殺すことなどできない。


 異世界側の人間はこの中で一番強い。

 だが魔石と戦力差という安心材料から油断している。

 

 さっきも敵地に侵入したのに簡単に捕らえられた。

 それに魔石があるとはいえ実戦は10年ぶりくらいになるだろう。

 それをつけば例え油断していなくても何とかなる。


 そしてロボットだ。

 おそらくロボットの中の人は下級の剣士かこちら側の人間だ。

 ロボットは魔石の量が多く、こちらは空中移動魔法を使っているため油断していてもその防御力が厄介だ。


 倒す時間を考えたらロボットが一番かかるのではないだろうか。

 体を軽くするために魔力を全体的に使っているので、すぐさま魔力障壁を撃つことが出来る。


 発砲音。それと共に爆風が大翔を襲う。

 瞬間移動魔法ですぐさま撃ってきた相手に接近した。


 地球連邦軍に関してはは異世界の人たちと違って直ぐに目を回復させることが出来ない。


 大翔は電撃を浴びせる。

 地球連邦軍は魔力が少ないため、直ぐに気絶させることが出来た。


 大翔はロボットに剣を向けた。

 人と違ってロボットは現代兵器では絶対に倒せない。

 

 異世界人は自衛隊でも最悪引きつけることは出来るが、ロボットに関しては本当に相性が悪い。


 本当は全て大翔が引き受けたいがそんな余裕がない。

 だから優先してロボットを破壊しなければなければ。


 ロボットの肩にはミサイルポッドが追加されていた。

 大翔にミサイルが放たれ、大翔を襲う。


 大翔は上昇して上に飛び、ミサイルが追いかけてる。

 大翔は下に降りつつ横に加速する。

 ミサイルが大翔についていくために曲がろうとしたことにより、ミサイル同士が勝手にぶつかり爆発した。

 

 痛みさえないが爆風を感じる。

 その圧と熱が鼻に入る。火薬のにおい。

 未だ慣れることのない臭いだ。大翔はその臭いを感じながら接近する。


 相手が一体だけならいいが相手の数は三体。

 それに相手はご丁寧に機関銃とショットガンを装備している。

 空間移動魔法を使って、裏を取ってももいいがそれだとその後の加速が続かず、また親衛隊の悪魔の探知魔法に引っかかる。


 探知魔法も魔力量があればその分小さな残留子に気づかれる。


 悪魔はこちらで引き取った方がいいので、位置はばれてもいいとはいえ、まずは悪魔を動かさず静視してもらいたい。


 悪魔が戦場にいないに越したことがない。

 悪魔が戦況を見て動き出すまで、出来るだけ多く相手の数を減らしておいた方がいい。


 大翔の身体では、移動魔法は魔剣からしか発動できない。

 機関銃相手に機動性を維持できないので、その意味でも使うのは空中移動魔法だ。


 大翔は接近する。ミサイルの第二波だ。

 それだけでなく機関銃を大翔にめがけて撃ってくる。ショットガンを大翔に構えた。


 大翔は岩魔法でミサイルを迎撃しつつ、空中移動魔法を使いながら風魔法で何度も加速する。

 機関銃は見たところ機械でロックをしている。

 ロックしたタイミングで体を動かせば相手は撃つことが出来ない。


 最後にショットガンだ。

 

 大翔は魔剣と両手の風魔法と合わせて大きく自身を吹き飛ばした。


 ショットガンの弾が発射される。

 大翔は弾からの風圧に体が吹き飛ばされそうになる耐えきった。

 大翔は風魔法で一気にロボットに近づく。

 

 相手が防御魔法を展開する前にロボットに近づく。

 そして二体を一気に岩魔法で内部のコード、関節に岩を入れ込んだ。


 ロボットは機械で作られたものなのだ。

 ハッキングしたり、中の部品をいじるだけで簡単に行動を停止させることが出来る。


 電撃魔法でハッチを開かせ、パイロットを引きづりだした。


「うわああああああああ!!!!」


 中にいた人を気絶させた。

 更にロボットが大翔の元に来る。


 大翔を見るや直ぐに防御魔法を展開し、ショットガンやミサイルなど弾幕を張ってきた。


 ミサイルが一発だけ撃ってきて大翔に当たる前に爆発した。

 爆発した瞬間またミサイルが発射される。

 ミサイルを事前爆破にするのはいい手だ。


 でもそのプログラムは既に見えている。


 身体を回転し、加速や減速、左右上下に動きミサイルの爆発をかわしながら接近する。

 

 そしてショットガン。

 弾の種類はさっきと同じだ。

 そしてその威力、弾の分散具合も全て頭に入っている。


 大翔はショットガン相手に突っ込む。

 体を縦にして表面積を小さくし、発射タイミングと自分の位置を合わせた。

 加速して、回避と距離づめを同時に行う。弾から生み出される風圧とプレートに防御魔法を張って耐え、そのままロボットに突っ込んだ。


 相手の防御魔法は固い。

 大翔は魔剣から流れる魔力を手に持っている剣に流し教えてもらった魔法を剣に込める。

 剣が白く光った。周りには白い光や赤い光が漂う。

 断裂魔法を剣に発動させた。

 

 その攻撃は相手の防御魔法を通り抜け、相手の腕を切断した。

 大翔は直ぐに近づき剣を突きさし、さっきと同じ手順でロボットを無力化する。


 一度王級クラスの魔法を見せれば相手は警戒するだろう。

 その魔石だって使う量が限られている。

 警戒しているからこそ部分的な防御魔法を張ろうとするはずだ。

 異能によってどの魔石を使っているかがわかる。

 それにロボットという存在が魔石と発動する人間に距離が空く。


 相手が防御魔法を展開する前に削れば、ロボットも大したことがない。

 相手の裏を取り、うなじ辺りを狙った。相手の防御魔法を張って対応しようとする。


  大翔は手を上に向けて風魔法を撃った。体が急速に下に方向変換する。


 魔剣に断裂魔法を与え、ロボット肩からコクピットに入れて切り込みを入れる。

 そしてそのまま搭乗者に電気信号魔法を当てた。



 ―――とりあえず第一波はしのげたか。



 でもまだロボットはいる。まだ時間はかかる。

 親衛隊の悪魔も来ていない。

 まだ戦いは始まったばかりで。


 他の所は大丈夫なのだろうか。


 //////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 誰も死なない戦いをしましょう。

 そう大翔は言い切った。

 

 ジェイドは大翔に目が行って離れなかった。

 それはもう既に決まっているのだ。何か策があるのだ。

 

 周りを見ても言葉を出さない。

 大翔は何か作戦を考えている。そして誰も相談することなく一人で決めた。


「それで私は何をしたらいいんだ?」


 そういったのはプーバだ。


「私はそういったことは専門外だ。何か変更点があるなら早く伝えてほしい」


 そういってプーバは大翔を見る。フーパは大翔の情報に価値を見出した。

 

 大翔の作戦はこの状況を変えられるかもしれない。

 だがそれは……

 大翔は目を閉じ、息を整えた。


「はい。この魔法があれば相手を殺さずなおかつ魔石を手に入れることが出来ます」


 そう大翔は同じことをいった。

 それは殺すという選択肢にノイズを入れているのと同じだ。

 その魔法があればリターンがあるかもしれない。

 そのノイズが洗脳された人を見ると頭に入ってくる。


「僕は、逃げるのではなく徹底抗戦をするべきだと思います」


 徹底抗戦。戦いだ。逃げるより立ち向かうというのか。

 それも誰も殺さないようにして。民間人を守って。

 そういって大翔は地図を取り出す。この16区内の地図だ。

 

 そこに線を描いた。

大きな円を描こうとしている中で大翔は話を進める。


「もう一つポイントなのは個人の力です」


「1人1人の技量の差がそのまま戦力に影響する。王級以上の人が多くの数を減らせばその分戦力差は減る。逆に自衛隊1隊員がで魔石を持った異世界の人を食い止めるだけで戦力差を更に縮めることが出来る」


 それはジェイドが言ったことだ。

 王級以上になると、相手が上級クラスの戦闘の才能なら人数の差を無視できると考えた方がいいと。

 魔力量に王級と上級では魔力量的に致命傷を与えることは出来ない。


 戦力差とは戦う前と、実際に戦っている時で刻一刻と違う。

 死傷者もあるが、誰がどの相手と担当するか、結果はどうなったかで一秒一秒変わる。


 上級の魔法使いが王級の魔法使いが止めれば、その間は戦力差が縮まる。


「こちら側で王級以上の戦士は、ここにいる、ジェイドさん、タンドレスさん、ハルバートさん、チェリアさん、パケットさん、プーバさん、そしてアインス、異能と魔剣を持っている僕です」


 そういって地図の中に円を描き、そして7分割されていた。

 でもその大きさは一つだけ違った。


「この中で一番対複数戦が得意なのは僕です。僕はこの4分の1を担当します。異能も最大限活かせますし。チェリアさんは全体のサポートを行ってもらい他の6人でそれぞれ各個撃破してもらいます」


 確かに大翔の異能は複数戦向きだ。

 殺してはいないとは言え、悪魔二人相手に追い詰めることをした。その時よりも急成長を遂げている。

 そしてプルプラス相手に生き残った。その実力は相当なものだ。


「そしてある程度戦力を削りつつ、魔石を奪い取って、そのまま相手に反撃する。それが僕が提示する作戦です。」


 相手から魔石を作る。考えたことのない発想だ。

 

 此方は長期戦という欠点が少し緩和される。

 理想的な動きをとることが出来ればフラガリア救出においてかなりの前準備を行える。


 何より捕獲という難しさがかなり簡単に行える。

 

 捕獲は魔法がある世界でとても厳しかった。

 身体魔力は自動的に回復する。

それを縛る手段がなかった。

 番人に強い人を配置することを出来なかったため相手が脱獄しないようにするためには相手の強さによっては両腕を切断しなければならなかった。

 

 今回洗脳された正気に戻る余裕がない以上、そのくらいのことはしなければならない可能性があった。

 余り人道的ではないと今まで何回か議論を挟んでいたが代替え論がなく、どうするか迷っていたのだ。

 

 前の時は睡眠導入剤や麻酔をかけて何とかしたが、それも限界があった。

 

 それが出来れば危険にかける価値はある。

 悪魔の高い身体魔力を毎日持続的に魔石に変換させることが出来るのだ。


 何より決戦に向けて相手の戦力を削ることが出来る。

 勝てるかどうかは分からない。

 だが成功すれば船に脱出するよりも返ってくるものは大きい。

 

 しかしそこには疑念がある。


「悪魔の狙いは魔力が高い人物だ。それをどう対処するつもりなんだ」


 相手もまた生け捕りを狙っている。

 それは大翔も直接聞いたからこそ認識しているだろう

 アドラメイクは洗脳をして戦力の増強をよくやる。

 

 前もそうだった。

 小さな事件を起こして、騎士を出し、それに過大戦力で生け捕りにして戦力に加える。

 遠く離れた村で直接赴きその住民丸ごとを魔石に変換させる。

 

 これだけの戦力差があるのだ。それを狙っているのかもしれない。

 だからこそおそらく爆撃はしない。


 ミサイルも大型を撃つことはないはずだ。

 前の戦いからずっと、巡行ミサイルも、弾道ミサイルも、空間魔法による爆撃もなかった。

 プルプラスの話もあったことだ。悪魔が武勲の欲しさになめてかかっていると。


 おそらく遠距離から攻撃し続けることもない。


 相手に作戦を預けるという怖さも危険性もある。

 だがどんなに罠があったとしても、相手がぶら下げてくれている以上それに飛び込まなければいけなかったのがジェイド達だ。


 今回に関しては少なくともそれは賭けるしかない。 


 だからこそ悪魔の存在が、その対応が大翔の作戦には不透明だ。


「だから皆さんには魔法ではなく、身体魔力と技量で圧倒してほしい。ロボットはペルシダさんに任せれば大丈夫なはずです。相手に情報を整理させて出来るだけ悪魔が来ないようにして……」


「戦線を作れば必ず相手は対抗するはずだ。王級以上なら身体魔力を使っただけで相手の位置がばれる。もしくはこちらの陣を荒らすかもしれない。悪魔には自分たちが当たらないといけない。そして君は悪魔に狙われるぞ」


「その時はチェリアさんを戦線に立ってもらいます。戦線を分けて下げたり、上がったり、防衛範囲を変えるとか、罠を張ったり、二次配置を……」


「それは今はどうでもいい。問題は君の事だ」


 この作戦はそもそも無理があるところがある。

 それは大翔だ。


「アドラメイクは直属の部下が12人いる。その12人に近い悪魔もおそらく何人くらいはいるだろう。最低でも王級以上の魔力と実力を持っている。二人減ったとは言えまだ10人以上いる。魔石もある。君があの剣を持って戦えばすぐにフラガリア様の息子だと分かるはずだ」


 大翔があまりにも目立ちすぎる。

 4分の1を抑えるには、大翔の異能を最大限活かすには空中移動魔法や空間魔法の発動は避けられない。

 

 そうなれば悪魔に必ず見つかる。


「君の所に悪魔が何人来るか分からない。もし君の所に上位の悪魔が来たら……」


 捕らえられるかもしれない。

 もし殺されてしまったら、助けることが出来ない。どれだけ傷つけられるのか分からない。


 例えフラガリアを助けたとして今度は大翔の身体を使って何かされる。

 仮にフラガリアを助けたとしても、フラガリアが大翔を見捨てる選択肢なんて考えられない。


 ただ単純に魔石に変えられるかもしれない。

 拷問してぼろぼろになった状態で捨てられるかもしれない。

 

 余りにも大翔が危険だ。

 悪魔の複数戦においても大翔を当てられたら、戦局的にはかなり有利だ。

 それは想定して訓練はしていたとはいえ、その数と悪魔が問題だ。


 魔石を持っている親衛隊の悪魔相手に大翔を当てる。それも何人来るか分からない。


 まだ訓練をして1カ月、実戦は一回しかしていない。

 まだ自分の体の制御も出来ていない子供を。


「でもこれ以外に勝つことが出来ません」


 だが、大翔は退かなかった。

 その心は折れることなく言葉もつまらない。


「悪魔が僕に集中するなら他の所は手が空く。僕の異能は相手の人数が多いほど輝く。悪魔の魔石は手に入れることが出来ませんが、仲間の生存と奪還とそれなりの魔石の確保が可能なはずです」


 大翔は息を吸い、


「僕がこの作戦を決めたんです。なら僕が責任を取ります」


 とそう言い切った。

 

 まるでその姿はフラガリアのように、英雄のような力強さをジェイドは感じてしまった。

 

 だがこの作戦を、大翔一人に負担をかけることなど受け入れられなかった。

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