第2章20話「騎士として」
その言葉は覚悟の入った言葉だった。
迷いのあるジェイドとは違う。
一瞬呼吸が止まった。
その言葉はジェイドが言うべき言葉だ。
作戦を決め、皆を従え、皆の勇気を奮わせる。
全て大翔がやっている。
殺したくない。失いたくないという気持ちが彼を危険な方向へと導いている。
責任すら大翔は果たそうというのか。
何故。何故自分は大翔にこんなことを言わせてしまうのだろうか。
決意が固まっているのは大翔で、乱れているのはジェイドだというのか。
だが団長として、決断しなければならない。
大翔が何を思っているのかは、 自分の気持ちなど全て後だ。
何を取るべきか。
逃げるよりは立ち向かった方がいいのか。
逃げるということは陣地を放棄すること。
防衛するときの為に用意していたものも、捨てることになる。
いざという時の避難ルートを使わず、船に乗り込む際の訓練をまた一からやらないといけない。
それなら戦った方がいいのだろうか。
戦うということはそれだけ物量戦を仕掛けてくれるわけで。
でもどのみち物量戦になるというのなら。
こちら側が船を奪取するために攻めるより、準備を整える防衛戦の方がいいのか。
民間人を地下に送れば、逃げる民間人を守りながら船を制圧するという無謀な作戦をしなくていい。
逃げると戦うでどのくらいの死傷者が変わる。
戦場に巻き込まれ、大勢の死者を出しながら、先が分からないまま異世界に飛ばせるか。
民間人を地下に押し込み、余計な重りを外せば戦いに勝てるのだろうか。
同じ死傷者が出るなら。
戦果があるかもしれない防衛戦か、全滅だけは回避できる逃走か。
民間人の心は。
どれだけ犠牲になるか分からず、新天地にたどり着けるか分からないまま異世界に行くのか。戦いに勝って、安心を持ってこの世界で生活を送るか。
仮に戦うとしてどうする。
もし親衛隊3位と4位の悪魔が大翔を襲ってくるなら。
仲間の安全を取るか、目の前の子供の危険を緩和するか。
もし大翔の危険を緩和するなら。
今の戦力。騎士としての心構え。フラガリアの事。大翔の事。
そして……ジェイドは流河の事を見た。
流河の表情にジェイドは決めた。
「だめだ」
その答えに大翔は引かなかった。
その言葉に対して直ぐに引かず、ジェイドの目を見た。
「どうしてですか。何か考えがあるんですか」
「ない。それに今言われて急に戦うか、逃げるかなど決めれるはずもないだろう。それに関してはもう少し詰めてから考える」
「なら、何が駄目なんですか」
「君の覚悟などいらない」
その言葉に大翔は面食らう。
このままでは逃げるにしても大翔はきっと無茶をする。
大翔が作戦を考えていなかったら、きっとジェイドはその大翔の覚悟に気づけなかっただろう。
「フラガリア様を奪還した時、君が死ぬようなことあってはいけない。
君は家族を苦しめるつもりか」
大翔はその顔に流河を見た。
流河の苦しそうな顔に。
流河も思う所があるだろう。
だが何も言うことはしない。流河は知らない。
流河はただの一般人でこちらの戦力、相手の戦力も何も知ることはないし出来ない。
大翔に対して何も提案することも考えることも出来ないでいるから、その無力感に。
流河は大翔が顔を向けていることに気づいていなかった。必死にそれでも何かしようと考えているのか。
だがそれで大翔の心は折れた。
「そんなに背負おうとするな」
何が正しいのか分からない。
でも大翔をこのままにしてはいけないと思ってしまった。
大翔は流河から目をそらすようにジェイドを見た。
「だったらどうするんですか?」
戦うか、逃げるか。
大翔が作った魔法は魅力的だ。
得られるものは少ないが最悪の事態を抑えられる逃走。
危険は最悪の事態もあり得るが、得られるものは限りなく大きい戦いか。
だが騎士として。
今まで戦い続けていたものとして。
最良の結果を望むものとして。
ジェイドの心はほとんど決まっていた。
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ジェイドは剣に電気信号魔法でまとわせ相手の魔力を放出させていた。
片手に持っていた魔石にそれを吸わせて、魔石の魔力の濃度を上げていく。
電気信号魔法はジェイドの相性に会っていた。
ジェイドは長年使い続けた剣に電気信号魔法をまとわせた。
恐らくこの世界ではサーベルと呼ばれるものだ。
刺すことも、切ることも両方を出来るように特別に使ってもらったジェイド専用の剣。
切るより刺す方が目に見える傷は小さく抑えられる。
そして刺す方が相手のより深い傷を負わせることが出来る。
今は殺さない方がいい。
剣に入れる力は緩めるので、楽で良かった。
次々とジェイドは相手を剣で刺していった。
今の所順調だ。そう順調なのだ。
相手はどこにでも顔を出してくる。
相手が狙うのは正面突破だ。
というより戦力差を考えたら当たり前だろう。
魔石を持っていて防御は固くなる。
警戒して進むより正面突破で攻撃を受けて位置をさらしてくれる方が戦果は挙げられる。
前回で死闘だった。
タンドレスたちが戻ってきたとはいえ、この広さを守り切れるわけがないとそう考えるのが普通だ。
数カ月でこちら側が成長すると、相手は誰も思わない。
だからこそ今の状況に少し驚いている。
ジェイドの守らなければならない範囲が大きくなることもなく、またどこか被害で戦線を下げることもない。
魔法の練度が上がっていることが大きい。
魔術師が戦果を上げている。
また剣士や闘士が魔法を撃てるようになったことも大きく、そしてなにより隠密性だ。
探知魔法により息をつく暇もなく相手と接敵することが予想されていた。
負傷者も、死亡者も増えてきている。
数の差、そしてロボットの存在が大きい。
ロボットがどうやっても破壊できない。
ミサイルを防いでショットガンを防ぐとなると魔力の消費がかなり多くなる。
それを連射してくるので、魔力の枯渇でやられるのだ。
例えロボットの攻撃を防いだとしても、他の人がその防御魔法を張って動けない人を攻撃する。
近づくにもその防御魔法を突破しなければその時点で詰みだ。
また防御魔法はロボットほどの巨体になると、一転攻撃に変わる。
その防御魔法が体を潰すことが出来る。
防御魔法で地面を滑るように動けば人は簡単に潰れてしまう。
だがこちらの死傷者よりも相手の方が数は減っている。
空間魔法を覚えることが出来たからだ。
魔法を使うには練習が必要で、何度も失敗して体になじませる。
だが魔力量は少なければ当然練習しても定着しにくい。
練習という過程をすっ飛ばせる電気信号魔法。
その効果はかなり相手に衝撃を与えている。
中級の闘士が瞬間移動魔法を使っていると。
ジェイドは移動し敵に近寄る。
ロボットがショットガンを構えた。
ジェイドは迷わず前に跳んだ。
やはりロボットは下に弱い。
下に居続けたら対策されるが挙動の遅さがこのロボットの弱点だ。
初撃は下に入れば簡単にかわすことが出来る。
ジェイドは剣に魔力を込めた。
火、水、風、土、雷、光。
その魔術は、詠唱したときの威力は空間断裂魔法よりも威力が落ちる。
断裂魔法。
ジェイドはそれをロボットに向ける。
扱いやすさはこちらの方が上で、属性が一つ落ちるだけで魔法の発動の安定度と維持は比較的上がる。
それは安定と継戦性能が高いことを意味する。
ジェイドは再び跳びロボットのうなじに移動した。
その剣でロボットの防御魔法を切りそこに岩を出してロボットを破壊する。
ジェイドは指示を受け、 場所を移動した。
そうしてたどり着いた先に仲間がいた。
仲間が何人もやられている。
仲間が立って服に血が染まっている。
「ジェイド様!!」
そういってジェイドの名前を呼ぶのは手に仲間の血を染めた男だった。
その顔はとてもまぶしくて、前も何ら変わらない。
おぞましく思えた。
そこにいたのは同じ志を持った騎士の人たちだ。
他にも洗脳されたかつての仲間が集まっている。
これが被害の増大の原因なのだろう。
何度同じ目にあってもためらう気持ちが心の中で埋めいてしまう。
「ジェイド様。私強くなったん……」
ジェイドは再び剣に魔力を大きく籠める。
その魔法に相手は魔石で全身に防御魔法を張り突っ込んできた。
その仲間に剣を振るった。
足に身体強化魔法を入れて早く移動する。
相手の防御魔法を切り、相手の体に剣を刺す。
断裂魔法をまとわせたら剣なら、通常ならかすっただけでも魔力により剣の体積が増え相手に削ることが出来る。
剣に振る力がなくても簡単に剣が通る。
ジェイドは圧倒した。
断裂魔法を使わなくても勝てる気がした。
別の相手に接敵する。
ジェイドは後ろに回り、剣で相手の肩を突き刺した。
ある程度皮膚に入れば、例え相手が魔法を使わなくても痛みで身体強化魔法を使えなくなる。
だからこそ足に力を入れ、素早く動き回ることが出来る。
騎士という役割を忘れている。
剣士と闘士、魔術師、そして騎士。そう割り振りを。
騎士とは魔法と体術及び剣術を組み合わせて戦う才能を持った人間が与えられる。
その両方を習得し、実戦で振舞うことが出来る頭の力がある人に騎士の称号は与えられるのだ。
戦いにおいて意識の容量というのは、ものすごく大事である。
身体の動かし方、相手の動き、位置、魔法。
全身を防御魔法で覆ったところで、この剣は聖級の防御魔法を超える攻撃力を持っている。
やるとしても剣を振る直前にだ。そうなれば少しは防げていたかもしれない。
相手の判断は遅かった。
そしてその魔法を張るタイミングは早すぎた。
一転狙いにしてくる人もいたが、これもタイミングが早く、簡単に剣先を変えれば、剣は通った。
その判断が出来ない時点で、剣を振るタイミングにリソースを置けない時点でもう負けは決まっているのだ。
簡単だった。
魔力量がそれなりにあるジェイドに取って幾ら魔石を相手を持っていようが、その場を統べることなど造作もないことだった。
今までの十年で何にも成長していない。
むしろ退化している。
訓練を重ねることがなかったからだ。
物の数十秒で相手を無力化することが出来た。
電気信号魔法で回復魔法をかけさせ身体魔力を抜いて戦闘能力を無くす。
「ありがとうございます!!」
仲間がそう言って頭を下げた。
ジェイドはそのお礼に答えられなかった。
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