第2章21話「悪魔襲来」


「状況はどうなっている」


「王級が一人帝級以上が2人います。ですが聖級以上の魔石を持っている人が一般兵にやられているのがほとんどです。いかがいたしましょうか」


 と下級の悪魔が自分に対してそう呼ぶ。

 ベルブ様と言われ、膝を付き、顔を下に向けている。


 ベルブは椅子に座ったままだ。

 ベルブは努力とそして異能により三位に選ばれた。

 今回第二位と第一位は待機命令が出ている。

 幸運だ。第三位であるベルブがこの中で一番上なためこの場を指揮するのはベルブということになる。


 アドラメイク様に頼られた。

 魔力探知を使って、細部を見る。


 確かに王級以上が三人しかいない。

 だが上級クラスが多い。


 元居た世界の事については分からない。

 ただ捕えたフラガリアを王にするため奪還しに来たと。

 ベルブが捕らえられた間に色々とあったらしい。


 そのことはどうでもいい。


 ただ欲しいのは勝利だけだ。

 今どれだけの戦力がいるのか。

 相手が何故王級以上の魔石相手に立ち向かえているのか。


「相手の民間人はどうなっている」


 想定より速く二人が戦いに縛られ、被害を出さずに終わってしまった。

 だが結果的に今回


 確かに大勢の人を殺せたが、肝心の相手の数を減らせるに行かない。

 かなりまだたくさんの人がいるはずだ。利用できるはずだ。


「今の所発見できていません。ただの相手の陣営の中にいるとしか」


 ばかな話だ。

 そんな大人数を抱えて勝つつもりなどと。


 隠すせいで陣形が広がって密度が小さくなっている。

 攻略できるのも時間の問題だろう。


 親衛隊が集まっている。

 その目は殺意の目だ。

 それはただ相手に向けられただけでなく、ベルブに向けられている。


 どれだけ相手を倒せるか、どれだけアドラメイクにアピールできるか。

 それくらいの方が、張り合いがあっていい。


「では行こうか」


 そうしてベルブは剣を持ち飛んだ。


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 その時が遂に訪れた。

 大翔が空中に飛んで別の相手に向かおうとしていた時だ。

 ビルの陰からいきなり現れた。


 悪魔が4体、大翔の周りに現れる。

 大翔は後ろに回転し、少し距離を取る。

 そうして相手の位置を全て目で見える範囲で抑える。


 戦況が変わる。

 大翔は意識を悪魔に向けた。

 大きく深呼吸し意識を変える。

 だいぶ引き付けることが出来た。




 相手を捕えることが出来れば、この戦いを勝つことが出来るかもしれない。

 早く倒せば、その分戦況が動く。


「お前、フラガリアの息子か」


 そのうちの一人が大翔に向かって言ってきた。

 それは期待の目だ。


 下に見られている。

 そこまで自分は劣っているように見えるのだろうか。


「まだ子供じゃないか」


「あれが」


 そう声が聞こえる。

 2人は分かる。


 確か8位のエルリトと

 11位のバフォット。


「私の名前は親衛隊第8位エルリト」


 黒い髪と青い目。顔はボディービルダーのような自信のある顔だった。

 何よりその巨体だ。

 身長は2メートルは軽く超えていて、そして体を厚い。


 確か防御魔法を常にまとわせ戦う格闘家だ。


 そしてバフォットは赤い目と白い髪が特徴的だ。

 モレクと違う点は元々王級の悪魔だという事。

 モレクは小さい頃は上級魔法使いだったらしく、後から伸ばした。


 対してバフォットは小さいころから応急魔法使いだったため、訓練を幼少期から行われている。


「顔見たことがないから分からないけど、みんなそうだって言ってたよ」


「本当にお前がプルプラスと渡り合ったっていうのか」


 バフォットはそう大翔に聞く。


 やはり気づかれる。

 そこまで似ているのだろうか。

 それとも身長が分かりやすいのだろうか。


 ここまで悪魔が引くことになるのならそれでいいのだが。

 なんにせよ、相手を倒さなければならない。


「だいたい、なんでそんなことを聞くの? 僕が誰だろうと関係……ないんでしょ?」


 大翔は横に一歩ずれる。

 そこに光魔法が飛んできた。そのまま大翔は脚に力を貯めて、エルリトに近づく。


「そうだな」


 そういってエルリトは笑う。

 余裕の笑みだ。

 魔石もある。そして4人だ。

 相手からすれば、フラガリアの子供を魔剣ありで手に入れるチャンスだと思っているのだろう。


 大翔は一気に加速して下降する。

 車のボンネットで姿勢を変えて、一気に前に加速する。


 後ろから相手が追いかけてきた。


「逃げる気か!!」


 相手の攻撃は今までと段違いだった。

 そもそもの魔力が高いうえに魔石を多く持っている。


 ビルを覆るような岩の塊。

 ビルを真っ二つにするくらいの光線が四方から大翔を襲ってくる。


 大翔は出来るだけ低空維持を専念する。

 地面すれすれで相手の攻撃を回避する。


 空中に浮いていたら下から攻撃も攻撃がある。

 制御は難しいが、低空で飛べば魔法の維持と高度を取らない分加速や減速が出来る。


 それに相手は低空維持をすることはなかった。

 というより出来なかったのだろう。

 この低空中移動魔法は他の人も出来ないと言っていた。


 これで攻撃は上だけを意識すればいいだろう。


 防御魔法を使うと機動力もなくなる。機動力のある複数人相手の攻撃をさばくにはこれしかなかった。


 相手はビルに触れた。

 ビルからコンクリートの破片と共に大きな岩の塊が大翔を襲う。


 破片をかわしつつ、ビル群が魔法によって景色が変わっていくのを感じながら、大翔は攻撃を回避しつつ、光魔法や断裂魔法でけん制した。


 最初は様子見だ。相手の攻撃をかわして相手の特徴を調べる。


 後ろからトラックが飛んできた。

 対象を人と魔法だけで魔法と一瞬反応が遅れてしまった。

 トラックが光線で貫かれ、爆発した。

 破片が頬をかする。


「つっっ」


 痛みをこらつつも、大翔は素早く爆発から逃れる。


 自身の魔石で増幅して光魔法を撃つ。


 相手は続けさまに攻撃してきた。

 しかも攻撃もちゃんと片側に大翔を寄せる。


 光線を横なぎに払い、ビルが順々に崩れていく。

 ビルとビルの間、ビルと地上の間を大翔は回避する。


 そして分かれ道があることに気づいた。

 だがさっきより狭い。

 それか真ん中のデパートに突っ込むか。


 だが相手は魔石を多く持っている。

 もし室内に入ったら回避範囲が狭くなり、相手の攻撃に当たるかもしれない。


 空間魔法を使うにしても、相手と距離を取るためには一度空中移動魔法を切らないといけない。


 それはあまりとりたくない選択肢だ。

 どちらかに逃げようとした。


「逃さない」


 だがそれを当然相手は許してくれなかった。

 悪魔が瞬間移動魔法で先に道を分かれて阻んだ。


 4人に大翔は囲まれる。

 大翔はデパートに突っ込むしかなかった。


 状況は最悪だ。

 柱に触れれば地面から魔法を出してくる。

 身体を回転させ、岩柱を回避する。


 デパートの中は更に道が狭くなる。

 とにかく外に出なければならない。


 相手は奇襲をかけてきた。

 ビルの奥からいきなり壁を壊して一度回避して、剣で剣先をそらす。


「何だその目は?」


 バフォットはは驚いた。

 そして目線が大翔の目に行く。


 奇襲をかけられた。

 魔石を捨てたのだ。

 今まで魔力を使っていた魔石を捨て、探知できない状態で奇襲を仕掛けてきたのだ。


 しかも近づいて目を見られた。

 異能の存在がばれてしまったのだろうか。


 まだ能力の詳細はつかめていないと思うが相手に警戒を与えてしまった。

 目を閉じておけば良かった。


 さすがに反撃しないと相手の動きを制限できない。

 このまま回避をしていても、いずれ相手に動きを読まれて攻撃されていく。

 他の事に頭を使わせなければならない。


 近接も駄目だ。

 魔石を持っている相手に攻撃は届かない。

 そして魔石で増幅された空間断裂魔法には勝てない。

 エルリトは闘士だ。それで8位まで上り詰めた。

 近接で4人を相手するには勝てる可能性が低い。


 それは今までの戦いと同じなのだ。

 魔力量と魔法、そして人数全て相手が上だ。

 それに加えて、彼らが長年戦い続けてきた戦い方にこちらが乗ってしまえば、経験の少ない大翔は勝つことが出来ない。

 やるとしても人数を減らし、そして何か勝ち方が見つかってからだろう。


 だが空中移動魔法は親衛隊である悪魔にも通用した。

 精度なら大翔がこの中で一番うまい。


 空中移動魔法は制御が難しい。

 相手は空中戦になると基本的に遠距離で攻撃しかしてこない。

 それは近接になるとさらに読み合いがあり思ったように攻撃は届かないからだ。

 遠距離戦も慣れている光魔法はともかく、こちらを追い詰める岩魔法は少し発動に時間がかかっている。


 実際空中で戦いが始まったときは暗黙の了解のように地上に降りて戦うとジェイドが行った。


 この機動力と異能による先読みを組み合わせれば、この戦いで出し抜けるかもしれない。


 まずは相手の勢いを落とす。


「そんな攻撃意味がないぞ!!」


「!!」


 とにかく大技を、天使らしく使った。

 複数人相手にけん制しようとするなら攻撃範囲が広いものを使わないといけない。


 そうして何とか攻撃をしのいでいった。


 光魔法を撃つ。何度も、何度も。方向、加速度、相手の魔法を撃つタイミング。

 それに合わせて光魔法を撃ち、相手の反射神経が一番弱い人を大翔は見つけた。


 その瞬間、大翔は瞬間移動魔法でその分断した相手に近づいた。


 電気信号魔法は使えない。

 まだ相手は余裕がある状態だからこそ魔力を全て使うことも出来ないし、直ぐに寄ってくるはずだ。


 だからそれ以外の方法。


 大翔は魔剣を逆手に持って、相手の腕を抑える。

 魔法を撃とうとしたが、大翔によって腕を動かせない。

 大翔は相手の目に向かって口に入れていた針を吹いた。


 身体魔力によって吹くスピードは上がっている。

 予想外の攻撃に相手は対応できなかった。


 相手の目にいくつもの針が刺さった。

 そのうちの何本か完全に中に入り込んでしまったものが有る。


 相手は耐えられなかったのだろう。

 目を抑えて回復魔法を使い続ける。


 体の中の異物を身体魔力で取り除くことが出来るが、目は神経が集まっている場所だ。


 手で取り切ることが出来ないものを取るにはかなりの時間がかかることだろう。

 回復魔法を使い続けないと痛みでまともに戦いに参加出来ない。


 これでしばらく一人離脱することになった。

 勝機がぐっと上がる。大翔も攻めれる。


 大翔は地面に降りた。

 ここはモレクたちと戦った場所だ。


 大翔の腕が結晶化しはじめただ逃げ回ることしか出来なかった。


 でも今は違う。

 大翔は英雄の服を着て、背中には魔剣がある。

 たくさんの事を教えてもらった。


 ―――大丈夫だ。


 大翔は剣を取り、そして抜刀した。

 手に力を入れる。


 反撃開始だ。


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