第2章4話「訓練と雑談、そして試練」
「筋がいいな」
―――これが初陣で親衛隊悪魔二人を無力化した大翔の実力かと。
大翔の剣は振り下ろしたジェイドの剣をしっかりと受け止め、そしてジェイドの剣を押し返した。
何度も何度も木と木がぶつかる音を響きあった。
ジェイドの攻撃についていく。攻撃回数を増やしても大翔は更に上に行こうとする。
1秒に1回の打ち合いが2回、3回と増えていった。
回数が増える度にジェイドの心は高揚していった。
ジェイドは剣を今度は横に切り払う。
ジェイドの剣を大翔は頬に当たるんじゃないかと思うほどにすれすれにかわしてきた。
そして大翔は剣で突いてきた。
ジェイドはギリギリまで剣で剣先をそらしながら、前に出る。
大翔は直ぐに水魔法を使って氷剣を取り出した。
そしてすぐに後ろに下がりながら剣を振る。
―――二刀流か。
また新たな戦い方にジェイドは更に心が躍る。
だがしっかりとジェイドは心を静め、戦いに集中する。
大翔は両手で二つの剣をジェイドに振った。
しっかりと体が乗っている。
一撃はさっきより軽いが重さはある。
何より手数が多い。
大翔は剣を振り続ける。
剣先もぶれていない。狙いもいい。
「二刀流でいくのか?」
だが手数だけではジェイドは押し切れない。
大翔は剣を一本強く振り、こちらが剣を縦に置いて防御した時間を作った。
そして足に力を入れて大翔は首と足を撃ってこようとした。
二本の剣を受け止めるにはそのまま剣を縦に置いた方が楽だ。
手の位置も自然とある程度決まってくる。
それを大翔は狙って、足は身体で体当たりする姿勢を見せていた。
ジェイドは素早く上に飛んで、剣を上から振り落とした。
大翔は剣を逆手に持って膝を落としながら剣を受け流す。
大翔はそのまま膝を延ばして剣で突きさそうとしたが、ジェイドは胸を押して大翔は
後ろに下がった。
「一応は考えているんですけど……どちらがいいか見てもらおうかなと」
「そうか。では訓練を続けよう」
ジェイドは大翔と剣の打ち合わせを毎日行っている。
来るべき防衛戦には大翔の成長は必要不可欠だ。
大翔は当然戦いの経験がない。
今のうちに戦いの経験を入れて、悪魔と戦っても帰ってこれる力をつける必要がある。
あれだけの怪我を絶対にさせるわけにはいかない。
大翔は今魔法による遠距離攻撃や身体強化魔法は使わない訓練をしている。
そして、体の作り方や剣の振り方、戦い方を学んでもらっている。
初日は魔法も身体強化魔法をも使っていたが身体魔力で剣を尻尾のように使ってきた。
経験を積ませるのには、発想で変に脳の容量を割いてしまうのと、それをやらせると訓練の意味がなくなるので使わないことにした。
それにしても発想と体の動かし方。
実戦経験がないとは思えないくらいの動きだった。
何よりその目。こちらの動きについていく。
これで戦いは初めてというのだから、強く叩けばもっと強くなれる。
そう思うと口が緩むを止めることが出来ない。
大翔は強い。悪魔を倒せる実力なだけあった。
―――だが今はジェイドの方が強い。
お互い前に飛び出して交錯した。
ジェイドは大翔の持っていた氷剣を切り飛ばした。
大翔の持っていた氷の剣の刀身は回転して地面に突き刺さった。
手がしびれていたのに驚いたのか、大翔は動けなかった。
ジェイドは更に近づく。
一本と一本の剣の戦いではジェイドの方が経験と強さが違った。
ジェイドは木剣を大翔の手から落とした。
ジェイドは大翔の心臓に木剣を当てる。
大翔の大きく息をついて体の力を緩めた。
「まいりました」
////////////////////////////////////////////////////////////////////
大翔とジェイドは反省会を行うことにした。
「君は逆襲を狙うのが多いな」
そうジェイドは切り出した。
大翔は基本的に受け身が多い。
此方の動きを見てから行動を決めていたことが多くあった。
「相手の攻撃を見えるなら、カウンターを狙うのが一番だと思ったんですけど……」
「カウンター……逆襲の事か。確かに君の目を考えるとだが、それだといつまでたっても君は成長できない。君は私を見てどう思った」
「何か僕とは違う気がします。僕が振ってもこうはならない。…後ジェイドさんは剣を振るのが自然になっている」
「そうだ。剣を振れば振るほど、体が勝手に振ってくれるようになる。剣の振り方、その角度、そういったものを無意識で出来るようにした方がいい。そうすればその分考えることが減って戦いやすくなる。君はまだ初めてだから仕方ないとは思うが」
「無意識ですか…」
大翔には難しいことなのかもしれない。
異能があったから今生きている。
そして戦いを初めてまだ剣の振り方なんて知らないだろう。
攻撃の仕方が無意識で思いつかない。
意識的にも無意識的でも異能を頼ってしまう。
大翔は頭でどう勝つか、どう攻撃をしのぐか考えすぎなのだ。
勝つか負けるか、それに囚われていたらそうやって剣を振り続ければ体は覚えてくれない。
反射的に剣が振れるようになれば大翔はもっと強くなれる。
「自分が攻撃することで相手の攻撃をつり出して逆襲を狙う戦い方だってある。偶に君もやっていたな。無意識で攻撃出来た方が君の異能もその戦い方も磨きがかかる」
「確かにそうですね……無意識で攻撃できるようになれば相手にカウンター型だと悟らせないように出来るし……出来るように頑張らないといけませんね」
「そうだな。といっても君は魔法の扱いも長けているのだから問題ないかもしれないかもしれない。それに状況も状況である上、あまりそれに囚われるのもいいと言えない」
大翔の異能の目は魔法の術式さえ見えるらしい。
実践してもらうと帝級の魔法を一度で、しかも無詠唱で放った。
魔法を撃つときは、皆必ず詠唱することで魔法の使い方を覚えていく。
だが大翔はその過程を飛ばして、魔法を撃つことが出来るのだ。
魔法の才能も、魔力量も両方既に大翔の方が上だ。
先天の差というのを思い知られる。
人間より魔人や天使の方が魔力量は多いとはいえ、ジェイドもかなり魔力量を増やすのに頑張った。
大翔は今まで鍛える機会などなかったのだろう。
だがジェイドよりも魔力を生成する量は既に勝っている。
そして、剣に対する才能もだ。これは遺伝ではなく才能だ。
大翔は初めてでここまでジェイドと戦えるのだ。
ジェイドは初めて剣を持って父上と訓練を行ったときの事を思い出す。
あの時のジェイドとそして今の大翔なら、間違えなく大翔の方が何倍も強い。
いずれジェイドは抜かれる。遅くても数年で確実に抜かれるだろう。
ジェイドが今の大翔の状態になるのに何年もかかったというのに。
そして大翔の目と魔法、そして魔剣を使えればその戦闘力は恐らくすでにジェイドと同等。
大翔の身体の問題が解決すれば、今にでもジェイドを超える存在だ。
でも何故か不思議と悔しさより嬉しさの方が大きい。
「そういえば、魔法を聖級以上使ったらだめだとチェリアさんに言われて。聖級とか帝級って何なんですか?」
「ああ、それは……」
魔法には7種類に区分分けされている。
初級、中級、上級、聖級、王級、帝級、そして神級。
水砲弾は初級、砂嵐は聖級など、その技を発動させたときの魔力の消費量によって区分されていて、魔法使いは王級魔法を使えれば王級魔法使いとなる。
級で分けている物も正直言って戦いにおいてあまり関係ない。
戦う時の指標にはなりにくいが戦力を割り振る時に使われる。
「例えばあの剣。あれは帝級魔法以上の魔力をためることが出来ない」
「そうなんですか? でもアドラメイクは神級魔法が使えるといっていましたよね。王級までしか使えないということはあの剣を母さんは使うより他の人に……」
「それはあの剣は刃がかけたことがないからだ」
「欠けたことが、ない?」
「あの剣は偶然岩に埋められたのを200年前に発見したものなのだが、当時は今と全く変わらないらしい」
そういった魔道具や魔剣は数は少ない物も時々発見される。
此方に来て、世界の広さを知った。
ジェイド達の国ではあまり見つからなかったが他の国に行けばそういった魔道具や魔剣のような何か性質があるものがもっとあるかもしれない。
「そんな貴重な物、母さんが使えたんですか?」
そう、大翔は疑問を持ちかける。
先日説明した話だけだと、フラガリアは王を打倒するというのに、そんな貴重なものを王が許すと思えなかったのだろう。
「王様は現状しか考えない」
「というと?」
「フラガリア様は王様にとっても戦時中士気を上げるために使えたのだろう。アドラメイクに従おうとしたのも苦しい状況になったからだ。あまつさえ戦い抜いたフラガリア様を始末しようと画策していた」
王様は現状を最小限の損失で抑えようとする人だ。
損失を抑えるのはいいのだが、其の後の事を考えられない。
アドラメイクに支配されたらどんなことになるか分からないのに、降伏して友好関係を結ぼうとしていた。
フラガリアも後で始末しようと思っていたのか分からないが、フラガリアの立場が大きくなっても結局野放しにしていた。
先の損失を考えられない人を王に立てるべきではない。
そう思い、ここまで来たのもその理由だ。
フラガリアが居なければ、もしアドラメイクがジェイド達の国に攻めてきたとき、確実に負ける。
「そうだったんですか……」
「君の母さんは戦う気持ちと諦めない心を持っていた。人の命を大事にする人だった」
瞼を閉じればフラガリアの姿が思い出される。
戦場に誰よりも先に立って相手を倒し、そして見回りを怠らず、野営では皆に声をかけて励ましてくれる。
「決して折れない剣、正義を貫き、仲間の分まで戦う姿を見て、私はフラガリア様についていこうと思ったんだ」
その立派な姿を思い返していると 目を開けると大翔は絶妙な表情をしている。
「ジェイドさんは母さんの何なんですか?」
「失礼、まだ言っていなかったな。私はフラガリア様の元に仕えていた騎士だよ」
少し熱が入りすぎてしまっただろうか。
今のジェイドを見れば、大翔は母親を好ましく見ているように見えたのだろう。
「部下……そうだったんですか。だから今回母さんを助けるためにここまで…」
「あぁ、王となる方の傍にいて、剣を持つ。そして近衛騎士として国に、王の元に仕える。それが私の夢だ」
「そう、なんですか」
大翔はジェイドを見る。
大翔は休憩がてら色々質問を繰り返す。これまでいろんな雑談を連ねてきた。
大翔の質問に答えるのもジェイドの楽しみでもあった。
また話は切り替わり、また雑談になる。
「話戻しますけど、僕は王級魔法使えないのにそれでも王級以上があると言われたのが気になって」
「そうだな……身体魔力の量を元に判断されることもある」
「技量というか出力は関係ないんですか?」
「嫌王級以下の身体魔力を持たない人でも王級と判断されれば王級だ。結構適当にやっているんだよ」
なるほど。と大翔は頷いてしまった。
魔法を教える。剣を交える。質問に答える。
それだけなのにものすごく気持ちが満たされる。
もしフラガリアがアドラメイクに捕まっていなかったら、大翔の勉強や訓練にジェイドが担当していたのだろうか。
夢を少し叶えた気分だ。心が温かくなる。
「そう思えば剣士や闘士、騎士は何で分けられているんですか?」
「騎士は魔法も剣や拳何かしら流派を備えたものだ。逆に魔法使いは…」
だが、そんな温かくなっていた気持ちは直ぐに打ち砕かれた。
「おい、大翔!!」
話の途中で一人の男の子が二人の前にやってきた。
その手には剣を持ち、片手で剣を突き、膝に手をついて呼吸を整える。
「俺に剣を教えろ!!」
背筋を伸ばし、胸を張る。
自分はやれるぞとアピールしている。
ジェイドは心を引き締めた。
どうやって、断ろうかと。
名前は確かマシロと言っただろうか。
確か妹を失ったといっていた。
だから復讐をしたいと。
一度ジェイドに持ちかけられたこともある。その時もきっぱりと断ったが、また来たのだ。
「マシロ……駄目だよ」
答えたのは大翔だった。
様子は一変し、和やかな雰囲気は壊れてしまった。
ジェイドの前に立って大翔は、マシロに体を向けて目を伏せる。
その顔は見ることが出来ない。
大翔の心境が気になり、ジェイドは最初に大翔を止めることが出来なかった。
「魔力を持っていない以上戦いに参加することは出来ない」
大翔はそう事実をいいつつも目を、余り合わせなかった。
大翔とマシロとの関係が分からない。
何故大翔はマシロを見ると罪悪感を抱いているのだ。
「なら銃でもいい。このまま何もしないだなんてできない!!」
「剣を持って走っただけで疲れる人を自衛隊は取ろうとしない」
ジェイドはそう答える。
今成長期の彼には銃を持ったところで戦力にならないのが現状だ。
まずそもそも体作りなど1カ月あっても出来るはずもなく、剣を抱えて走った結果膝に手をつくくらいでは戦場で出せない。
「相手は洗脳した人を戦場に出すだろう。君はそれを撃つのか」
ジェイドは大翔に変わって説得しようとした。
大翔が苦しくなっている。理由は分からないが見て居られなかった。
マシロはそれに一瞬たじろぐ。
人を殺すといった罪悪感を覚えることになる。
一般人である彼にはそれが一番効くと。
でもその説得は意味をなさなかった。
「だったら何をしたらいい!? 俺が出来ることはないのか!!」
どう説得しようか。
団長の立場としてどのように納得させるか。
でもそれより早く大翔は首を振った。
「何もないよ」
大翔はそう言い切った。
マシロはそれにキレて、大翔に近づき首元を掴んだ。
「魔石があるんだろ!!?」
復習という生きる目標を見つけるしかないのだろう。
こういう人が何人か戦闘に参加したいと希望する人がいる。
でも民間人をジェイド達が勝手に志願兵として扱うなど出来ない。
あくまで協力体制。他国の人間を自国の兵として扱うことは出来ない。
おそらくマシロは自衛隊にも足を運んだはずだ。
でもおそらく断られたのだろう。子供を兵士として扱えないと。
子供でも戦わせるジェイド達なら通してくれるんじゃないかと。
思えばマシロは同年代だ。
もしかしたら友達なのだろうか。
お互い、名前で呼び合っている。
そういえば大翔はほとんど訓練で体を動かし、この状況をまとめる仕事をしてもらっている。
友達と会う事などあるのだろうか。
「そこまでいうなら……やってみる?」
そういうと大翔は魔石を作り出した。
人を魔石に変化させる魔法ということは、自分の魔力を魔石に変化させる魔法でもあるということだ。
大翔がやったのは、14年間ジェイド達が溜め続けた魔力を出来るだけ損失しないように作った魔法だ。
自分の中にある身体魔力と精神魔力、そしてそれを移す器があれば魔石は作ることが出来る。
そして魔剣を渡した。
実剣だ。
大翔はマシロに投げ渡した。その剣の重さに思わずマシロは身体を落として剣を取った。
立った状態で、大翔を見ながらなんて彼には出来なかった。
「僕は魔法を使わない。その魔剣があれば僕の攻撃を全て防ぐことが出来る。魔石があれば剣を強く振り続けることは出来る」
「そんなの、勝負に……」
「行くよ」
大翔は接近した。
マシロは反応できない。マシロは目をつぶってしまう。
でも大翔は接近するだけで後ろを取る。
マシロは咄嗟に剣を構えた。
マシロの準備が完全に終わった状態で大翔は手招きをする。
「ふざけんなよ、お前ぇ!!!!」
マシロは剣を振り続けた。息が切れるまでずっと。
大翔はかわす。それも全てすれすれで。
剣の振り筋がなっていない。
マシロの剣の軌道はブレブレだったがそれすら大翔には見えてしまうのか。
そして大翔はマシロの腕を抑える。
剣は振れない。
マシロがそれを気づく間に大翔は剣を取り、マシロの膝を下ろさせた。
力があっても、反射と判断能力に差があった。
「何で!!」
「この世界の人とこっち側の人では反射神経が違う……マシロを無意味に死なせるわけにはいかない」
マシロは大翔をにらみつけて、でも負けてしまったのだと逃げるように走った。
ジェイドは止められなかった。
大翔が何故その対応をしたのか、大翔の心を分からなかった。
大翔はまだ会って数カ月もたっていない。彼の事を知るには成り行きを見守ることしかできなかった。
「……頑張らないといけませんね」
大翔はそう小さく呟いた。
その覚悟にとても心苦しい気持ちにジェイドは返事をすることが出来なかった。
大翔は戦ったことがない。
人を殺したことがないのだ。
でもこれから行われることにどうしようもないことに、ただジェイドは憂うしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます