第2章3話「近づいて遠ざかって」


 流河は図書館にいった。

 目的はもちろん意中の女の子に、ペルシダに近づくためだ。


 あの笑顔に心を奪われた。

 その笑顔を見るたびに鼓動の高まりが大きくなって、彼女の喜びが自分の幸せになっていた。

 もっと見たい。もっと笑顔にさせてあげたいとそう思えた。


 自覚し一カ月たったがまだ告白は出来ていない。


 まずは友達になりたい。

 ペルシダ自身が流河と一緒に遊びたいと思えるようなところまで発展したい。

 そして自分を品定めする土俵に持ってもらうために接触を続けよう。


 接触という言葉は気持ち悪いかもしれないが。


 ただ単純に一緒にいたいという気持ちの方もある。

 戦いでこれからどうなるかという不安を捨て、今はただ友達として一緒に過ごせればなと思う。

 せっかく知り合えたのに楽しいことを何もしないのは嫌だ。


 幸いにもペルシダが合う口実を作ってくれるので、会う機会は少ないことはない。


「おう、流河」


「と、道真じゃん。どうした?」


 あくまで普通に、そう決意したところを突然後ろから声をかけられてきた。

 後ろを振り返るとそこにはなじみ深い顔がそこにはあった。


 苅田 道真かんだ とうま

 見た目はいたって普通の人だ。

 メガネがかけていて、そのもさもさの髪を見ると整えばもっともてそうなのにと毎回思うことも変わらない。


 同じクラスメイトで流河が高校に入って出来た友達だ。

 道真とはよく一緒にいることが多いし、よく遊んで帰ったりするかなり仲のいい友達だといえるだろう。


 といっても戦いが始まって二日目で思い出したくらいなので、案外そんな程度なのかもしれないが。

 再会したときは喜んだし、また今度大和と絶対遊びに行こうと約束したくらいだ。


 でも今は正直会いたくなかった。


「お前、昨日図書館で異世界の人と話してたよな。遠目でも結構仲良さそうに話していたけど知り合いなのか?」


「い、いや。そんなんじゃねえぞ」


「そうなのか? 気のせいか」


 思わず咄嗟に嘘をついてしまった。

 

 申し訳ない気持ちになる。 

 道真は嘘を疑ったりする様子はなかったのが少し来るところはある。


 ペルシダがいるところを道真に見られてしまった。

 それはあまりよろしくない。


「でも、あの女の子お目当ての女なんじゃないか?」


 そういって道真は流河の首を腕で捕まえ笑いかけてくる。

 予想された言葉に流河は思わずため息をついた。


「……はあ、お前はいつもそうだな」


「そりゃそうだろ!! だって異世界だぞ!! ピンクの目に紫の髪!! 現実ではありえない組み合わせだろ!! これは創作意欲が油田並みにあふれるってもんだろ!!」


 道真は生粋の女好きだった。

 次元を問わず、自分の直感がいいと感じてしまえばそのことを大声で話し続ける。

 そしてクラスメイトの女子からは一つ距離がある状態だ。


「まじぶれねえな、お前……」


 というより芸術志向というべきだろうか。

 絵を描いたり、漫画を描いたり。

 漫画と絵はやってみたことがあるが全然違う。

 それを聞いたらうまく描ける努力をしたのだという。


 正直言って道真はかなりの変人だ。


 本人曰く美人画らしいが、高校最初で休憩時間中に女体の画像を見続けていたことがばれ道真の噂は学校中に広まってしまった。

 道真が廊下を通るだけで、少し周りの目線が警戒の色に変わって、流河も少し被害を食らっているじゃないかと思ってしまうくらいだ。


 流石に学校の人を描いていたり、またじっくり見たりなどしてはいないらしい。

 そこら辺のモラルはちゃんとあると意味わからないことを言っていた。


 そんなことを言っていたら、たまたま通った異世界の人を見た瞬間道真の目は爛々と輝きだした。

 異世界の人は軽蔑してこちらに目を背けた。


 流河はため息をつくしか出来なかった。

 せめてあの女性が流河の存在を認識していないことを願うしかない。

 大翔の義兄弟が女好きになんて広まったら大翔に被害が出てしまう。


 確かに異世界というだけであって、目の色がピンクだったり、暗い黄身の赤色だったりと、明らかにこの世界では生まれない色の目を持った人がいる。


「世界中では24種類しか目の種類はないというが、異世界の人は青色だけで20種類ある。これはこの世界にはないことだぜ」


 そういえば会ったときにそんなことを言っていた気がする。


 よく青色の目に20種類も分別出来たなと思いつつ、流河も少し異世界の人について気になった。


 人種といえば、人間と天使、そして魔人しかいないことだ。

 よくある異世界漫画ではエルフや鬼、犬などの亜人がいないということだ。

 何でそこだけないのか、気になるものはある。


 もし犬耳や猫耳をつけた人が目の前に来たら流河も興味をもってしまうかもしれない。

 天使も大翔を見る限り良く分からないし、魔人も雰囲気的に人間と違う名とくらいしかわからない。


「でも、異世界の人だからって別に髪の色とか目の色とかなんて今の時代紫でも何でも変えれるくない?」


 今の時代、カラコンやカツラ、ヘヤスプレーなど色なんていくらでも変えられる。

 異世界の人間は基本的に顔が整っている。

 でも顔の美しさはあまり採点には響かない道真がなぜそのように興奮しているのか分からない。


「ばか。それはそれでもいいんだがやっぱり重みが違うんだよ」


「重み?」


 こうやって道真はたまに意味わからないことを言う。

 分からなそうにするとちゃんと説明してくれて、その周りに人がいなくなるのがセットだ。


「薄香目や紫目を20年やっているとな、髪や目に重みを与えるだろ?」


「どゆこと?」


「長髪を6年続けた人が突然短髪にしたり、今まで茶色で毛先を遊んでいるやつが坊主にしたりしたらを違和感しかないだろう?」


「そりゃ、まあ知り合いならそうかもしれないけど」


 つまり生まれ持った天然ものを描けることの喜びを見つけているということか。

 実際大翔の髪が白金の色になって違和感しかない。


 ここまで振り切れるのもなかなかすごいと思う。

 多分異世界から人がいたことに一番喜んでいるのかもしれない。

 

 でも少し道真がうらやましい。

 戦禍で落ち込むより楽しむほうがよっぽどいいのかもしれない。

 流河も何か戦禍を忘れるほどの熱中するものを見つけた方がいいのだろうか。


 流河は気が抜けていたのを、慌てて気を引き締めた。


 こんな感じで道真はやっぱり女の子が好きだ。

 間違えなくペルシダを会わせたら、本人はいい気持ちにはならない気がする。

 

 話してみると結構面白いし、その熱意以外は普通にいい人だから仲良くしてくれたらいいのだが。というよりも道真がおとなしくすればいいだけの話だが流河が言えばばれてしまうので、出来ない。


 道真と共にいれば軽蔑されるかもしれない。

 それはまあ仕方ないとして、一番ダメなことは迷惑をかけてしまうことだ。

 

 一度ペルシダを見れば、道真はモデルを頼むかもしれない。

 ペルシダは自分からすれば一番かわいい顔をしている。


 そして道真が他の人に何度か声をかけていることも知っている。


 ペルシダは何か頼みごとを断れそうな感じがしない。

 あまり断り切れない性格なのかもしれない。


 言いごねられた了承してしまうかもしれない。


 きっぱりと断ればすっと引くのが道真だ。

 車花も最初にターゲットとなったが無理だと言わればきっぱりと諦めた。

 

 せめて流河が傍にいれば、またきっぱりといえる車花がいればいいのだが。



「……ん、車花?」



 何か違和感を覚えた。

 そう、車花だ。道真が反応するほど美人ではある。実際異世界の人間だった。

 そうは、異世界の人間だ。


 だがその違和感を考えることを、道真は許してくれなかった。


「なあ、それであの女の子の事どう思ってんだよ?」


「だから違うって」


 何か気づいたような気がしたが今そんな状況じゃない。

 そんな小さいことよりも今はペルシダの身の危険が最優先だ。


「でもお前、金髪の青い目がいいっていってたじゃん」


「それは可愛いって思うことが多いだけだから!!」


「ねえ、流河」


「何!!?」


 思わず道真の怒涛の質問に声量のボルテージを上げてしまった。

 そのままの流れでつい大きな声を出してしまった。


 それが後で後悔すると知らずに。

 その声の持ち主はさっきまでは会いたいと願い、でも今は会いたくない人物だった。


「ペルシダ?」


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 ペルシダは困ったような表情で流河の目を見る。

 流河の目の奥の心を見ようとする目。

 

 だがこの時あまりその目の意味を考えることが出来なかった。

 意中の相手に見つめられることもそうだが、道真の目が光ったのだ。

 このままではペルシダはモデルにされるかもしれない。


 頭をフル回転させる。

 目に入る情報を全て流しこの場をどうやって切り抜け、ペルシダと道真を遠ざけるか。


 答えは数秒で出た。


「じゃあな、道真!!」


 そういって流河は二人に背を向け、走って遠ざかる。


「え?」


「は?」


 その予想外の行動にペルシダと道真は声を出した。


「最近勉強教えている人がいて、その人待たせてしてるから!!」


 そういってわざと時計を見て流河はその場を去った。

 図書館の中を誰もいないからと走り、二人の真逆な方向へと走った。


 部屋の構造、何十の本棚によって完璧に視界を遮られたその先で流河は立ち止まる。


 少し息を整え、そして数分立ったぐらいだろうか。


「どうしてあんなことを言ったの?」


 と後ろにはペルシダがいた。


 異世界から来た時の服も可愛いが、地球の服も完璧に着こなしていて、いつ見ても保養になる。

 思わず頬が、だらしなく開けてしまうのを身を引き締めて閉じる。


 ペルシダは不思議そうに流河を見た。

 不信は募ってしまったが出来たが何とかやり過ごすことが出来ただろう。

 道真には申し訳ないことをした。

 また何かジュースでも驕ろう。自販機が使える時になったら。


 ペルシダとは会う時間がない。

 学校で会える友達の道真とは違って、一度タイミングを失えばその関係が失われる気がするのだ。


 一カ月以上は

 ほとんど会えていない。


 そんな流河の意中の相手で、まだ関係性が不安定であるペルシダのことについてまとめておこう。


 ペルシダは基本的に昼間は訓練を行っている。

 ジェイド達と話し合い、ペルシダは戦士となったのだ。


 その決断は早かったという。

 

 洗脳を解除するにはそれ以上の魔力を込めないといけないらしい。

 魔力を込めることなく触れただけで解除できるペルシダはかなり貴重だ。

 またロボット相手にも特効がある。


 ペルシダは前線に使っても、後衛に使っても役に立つ。

 そしてペルシダが望んだのは異能の解除の仕方。


 ペルシダの異能は解くことが出来ないという。

 魔法の攻撃を防ぐこと出来るが、魔法の恩恵を受けない。

 正確には、身体強化魔法、魔力防壁など身体魔力を主に使う魔法なら大丈夫なのらしいが、炎や水といった精神魔力と身体魔力を組み合わせて魔法を撃てない。


 もし戦いが終わっても、元の世界に帰ることが出来ない。

 回復魔法をかけることが出来ない。


 戦いで敗走して異世界に逃げることがあってもペルシダは逃げることができず、殺されてしまう可能性がある。


 でもあまり進展はない。

 異世界転生など当然知識がなく、前例と再現性もない。

 ジェイド達も認知したのは最近だ。

 

 また大翔の異能でも、ペルシダの異能の詳細が見れないという。

 今は色々実験を重ねている所だと。

 

 ペルシダをどう逃がすのかその手段は今の所まだ見つかっていない。

 つまりもし逃げるなら流河はペルシダと離れ離れになる確率が高いということだ。


 異世界系の漫画を読んで似たような展開を探してはいるが、中々ペルシダの状況になった展開を発見できていない。ペルシダが何故異能を解けないのかが分からないのだ。


 流河はペルシダに告白することなど出来なかった。

 今告白してもぎくしゃくしそうで。 


 まだ考える時間はある。

 ここはそのことではなくペルシダとの親睦を深める為に時間を使いたい。


「あいつうるさいからな。せっかくここに来たんだし、静かに勉強したほうが頭に入るかなって」


 そういって流河はごまかしながら椅子に座る。

 ペルシダは一応納得してくれたのか、流河の隣の椅子に座った。。

 

ペルシダは地球の文化というものを楽しんでいる。

 特に食事と娯楽品を楽しんでいる。


 ゲームや音楽機器、漫画、映画にラジコンなどペルシダ達の世界ではないだろう娯楽で遊んでいる。

 戦士の職務である見回りを使って、いつも何かを持ってきて使い方を聞いてくる。


「ねえ、流河。これどうやって使うの?」


「すっごく面白いわ、これ」


 そうやっていろんなものに楽しんでいる姿は微笑ましい。

 傍にいてつい見たくなる。聞かれたら何でも答えたくなってしまう。


 またご飯を食べている姿も可愛い。

 ペルシダはおやつも好きだ。特に甘いものに目がない。

 餌付けしたくなる気持ちを止めることが出来ず、何度か自分のお菓子を上げてしまったことがある。


 そして流河が何かしてあげる度に


「いつもありがとね、流河」


 と笑顔でお礼をしてくれるので、自尊心が高まり勢い任せて告白しそうになったことも多々あった。


「じゃあ、さっそくだけど色々教えてくれる?」


 ペルシダは鞄から本を広げた。

 ペルシダに文字やこの世界の事を教えることも流河がしてあげている。

 それに付いて特に不満を持つことはない。


 だが、気になる点がひとつある。

 ペルシダが車花以外と話しているのを流河はあまり見ていないのだ。


 一カ月たったが気を許せる人は出来なかったのだろうか。

 この状況で友達を作れたのだろうかと。


 現状避難生活でふたつの派閥が分かれている。

 異世界組と被害者組、その二つの派閥があった。


 異世界組は流河の母さんでもあり、英雄であるフラガリアを助けるためにやる気に満ち溢れている。

 士気も大翔が戦いに参加したことによって高い。

 この避難生活も率先して引っ張ってくれているし、強い団結力がある。


 一方被害者組は巻き込まれたからこそ熱意も希望も何もない。

 しかも今まで洗脳されていたからか解除されてこれから何をしたらいいか。

 何を目指して生きていけばいいか分からない。


 中には異世界組に巻き込まれたのだ、と思っている人もいるとか。

 大勢の人を殺した相手が悪いのだが、死というのは判断を狂わせる。

 逃げようとして、あるいは異世界の人を襲ってそれを手柄にあっちに行こうとする人もいるという様々な噂が後を絶たない。


 洗脳されている間はその直前の記憶がない。

 助けてもらった記憶がないのもあって関係はかなり冷たい。


 当然被害者の中には異世界から来た人との交流を頑張ろうとする人。また単純に被害にあっていない人もいる。

 その人たちは友好的で、学校でも普通に登校している。

 でもペルシダには誰がどこに所属しているのか分からないだろう。


 それにしてもペルシダにそのどちらにも入ろうとする気がない。


 ペルシダは異世界転生してきた。

 そのどちらにもペルシダは属していない。


 どちらかに入るには難しい立場だったとはいえ、接点を作ろうとする気があるのだろうかと。



 学校に行ってみたらというと、訓練の時間があるからと学校にはいけないと。

 学校に興味を持っていないのだ。


 でもペルシダはどちらかというと巻き込まれた立場だ。

 なのにずっと訓練をしているのだろうか。気を休めているのだろうか。


 内向的なのかと思っていたが、でも休憩の時誰か傍にいるのだろうか。

 俺たちは昼間を今まで通り遊んでいる時もあるのに、ペルシダは羨ましくないのだろうか。


 確かに毎日が忙しい。

 あすはもペルシダと仲良くしたいけど普段どこにいるのかとわからない、と少し嘆いていた。

 皆いろんなことをして、そしてこの広い敷地内で会う事はあまりない。


 流河も約束をしなければ大翔と一度も出くわすこともないし、紫花菜達とはクラスも違うため、3日に1回程度だ。


「じゃあ、ここからここまで聞きたいんだけど……」


「前見た時よりページ数だいぶ進んでない?」


 そういって開いた本は全体の7割くらい進んでいた。

 夜の見回りや他にもゲームや映画などを触れているペルシダにしては異常に速い。


「私最近夜寝れなくなっちゃって」


「それはなんか嫌だな。体調はどうなんだ」


「ううん、頭はすっきりしているの。昔は8時間寝ないと頭が覚めなかったら変な感じ。体は横にしていたら疲れは取れてるし」


「なんかあったら俺に…大翔とか医者とかに聞いておくよ」


「分かった……ありがとね、流河」


 流河は少し待った。

 待ったがペルシダからは特に口を開いてこない。

 いつもならここで何か聞いてくる。

 しかし今回は聞いてこなかった。一瞬間があいてしまった。


 普段は目をキラキラさせて聞いてくるのに。

 気になる部分は普段から付箋を貼っているので、流河が口を開けばいいが。


 でも何か違和感を覚える。

 何か気まずい。


「あのさ」


「う、うん」


「さっきの男、道真っていうんだけど、気を付けてな。何か嫌なことが言われたらちゃんと断れよ」


「そ、そうなんだ。分かった」


「……そんな簡単に頷くんじゃなくて危機感を持ってほしいけど……」


「私強いから大丈夫よ。それよりこれはどうしてこう考えているの?」


 話を代わった。


 こうやって勉強はするのに、どうして学校に行かないのか。

 確かに訓練があるが、車花と同じようにすればいいのに。


 そもそもどうして勉強をするのだろう。

 ペルシダはこの世界の社会に生きるためにはアドラメイクを殺すしかないのに。

 紛らわせていているのだろうか。

 一人で楽しめるようにしているのか。

 

 何もしゃべらない時間が多くなっている。

 質問を聞くより考える時間が長い。


 やっぱり様子がおかしい。

 流河は何かしてしまったのだろうか。


 ペルシダとの体の距離は近いのに。

 でもペルシダの心は流河からものすごく遠くにいる。


 流河から異世界の事や、普段の事ならいっぱい話してくれる。

 逆に学校に行かないかと質問したり、過去のことを聞いたりするときに口数が減るのだ。


 ペルシダの口から親の話をまだ流河は聞いたことがない。

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