第2章34話「異能」
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「ちょっと協力してほしんだけど」
そういってガーベラとペルシダが大翔の前に来た。
ペルシダの異能について気になることがあると車花から話しかけてきたのだ。
確かに大翔も気になるところだ。
内診をしようと思っていたらそれすら出来なかった。
その時は機器もなく、質問に答えてもらうだけで終わってしまったのだ。
ペルシダの異能については少し特殊だ。
作戦にも関わるため一度徹底的に調べないといけないと思っていたからちょうどいい。
元々全員ショートスリーパーなのか明朝が明けるくらいに三人集まった。
「本当に見えないの?」
「何もかも遮断されますね」
様々なやり方でペルシダを見たがどれも反応がなかった。
例えばサーモルカメラという物体から出る赤外線を検知してそれを画僧に表示するカメラ、よくいう熱探知カメラがある。それではペルシダを知覚出来た。
それと全く同じように赤外線を感知するように目を変えてもペルシダに反応しなかった。
そもそも大翔の異能がどのような物理現象を起こしているのかも分からないが。
何故大翔の異能は遮られて、サーモルカメラには反応するのだろうか。
打ち消しに何が反応するのだろうか。
ガーベラは顎を掴んで考える。
「攻撃魔法には二つタイプがあるのよ。ペルシダ、手出してくれる」
「ええ」
ペルシダの手の上にガーベラは手をかざした。
「何するんですか?」
「魔法は色々あるの。ひとつは、魔力をそのまま物質に変換するやつ。まあ一般的な魔法ね」
そういって氷の球をペルシダに渡す。
その氷の球はペルシダが触れた瞬間、形が崩れ粒子となった。
車花はまた氷の球を作る。
しかしさっきよりその氷の球を作るのに時間がかかった。
そして作り上げた氷の球はペルシダに触れて……
その氷の球は消えることがなかった。
「え、冷たい」
いつまでたっても消えることなく崩れる気配もない。
思わずペルシダは驚き、大翔も興味深くそれを見た。
「これがもう一つ大気中の水分の熱を奪ったものよ。魔法で現実のものに色々作用させたものを事前に作っておけば、あなたの異能でも消えないみたいね」
「身体魔力で飛ばした石とかも気を付けないといけないの?」
「そうね多分あなたの異能は精神魔力で作られたものを壊す異能なのよ。魔法で作ったものは駄目だけど、魔法で状態を変形したものは通せる。タンドレスさんの異能も発動できないとなると異能の効果もおそらく消せるみたいだけど」
「不思議な力ですね」
異能を消せる異能。
何故そんな能力は作られたのだろうか。
「だからあなたの異能か何なのか分からないけど、魔法の打ち消せるからって油断は禁物よ」
「異能に一人物質を出す人がいて、それに援護出来るんじゃないかって話がありましたよね?」
「そうね。一度話したその異能を使える悪魔は危険ね。異能で出せるのなら別にいいけど、もし物質変換なら攻撃が通るかもしれないわ」
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そういって車花がいっていた悪魔はまさしく今目の前にいるやつだろう。
大翔は心と裏腹にあまり相手に怒りを振りまくことが出来なかった。
それは単純にチェリアの死よりも紫花菜達を守るのに必死で攻撃の質は下がっていく。
相手を如何倒せばいいのか。
それを考えることと相手の攻撃をいなすことに全てのリソースを割かれたからだ。
相手は大翔を紫花菜たちと挟むように大翔を攻撃してくる。
焦りと不安がチェリアの死を薄れさせていく。
それくらい相手は強く狡猾だった。
大翔は光魔法を撃つ。
相手はそれをはじいた。
防御魔法でもなく、ただの金属が光魔法で溶かされながらも光魔法を防ぎ切ったのだ。
相手は常に防御魔法と瞬間移動魔法を確保しながら異能と魔石による光魔法をこちらに飛ばしてくる。
強い。
その要因はやはり異能だ。
確かに異能は発動がものすごく簡単だ。
術式がなく、思うままに異能を発動させる。
タンドレスも大翔も異能がバフタイプなので、今回初めて攻撃タイプを見た。
その発動スピードも威力もすざましい。それでいて隙が全く無いのだ。
これと同じようにすることできない。
車花が魔法をパラパラ漫画に例えていたが、異能の発動に関しては頭で想像した絵を読み取ってプリントできるかのようだ。
その速さに見ることは出来るが対応することが難しかった。
相手の異能は何なのだろうか。
相手が魔法を使わずに出してくるものは鋼だ。
しかもその鋼もずっと残っている。
まるで自然にあるかのように消えることがない。
鋼を出す異能なのか。
攻撃が激しい。集中力が落ちていく。
そして瞬間移動魔法。両手で一回ずつ行われ防御魔法を張ろうとした瞬間後ろを取ってきた。
空中移動魔法で距離を取りながら振り向き防御魔法を張ろうとしたが攻撃を受けてしまった。
「回復魔法…」
だが回復魔法をした途端痛みが広がる。
それと同時に熱が来た。
「…!!」
予想外の痛みに思わず集中力が乱れた。
そこに相手の攻撃が入る。
制限を解放して瞬間移動魔法で逃げ、空中移動魔法で機動力を上げて相手から距離を取る。
ここで声を出してしまえば子供たちにばれる。
大翔は口を閉じて、その痛みを体の中に収めた。
痛みを我慢して腕に入った金属物の成分を確認する。
その皮膚に残ったものはナトリウムだった。
皮膚に入れば体内の水分を反応して発熱しながら水酸化ナトリウムという皮膚を溶かす物質を作る。すなわち毒になる金属元素を相手は生み出した。
回復魔法の原理は光魔法と水魔法だ。
回復魔法をすれば急激に水酸化ナトリウムを生成することになって体は溶かされ、回復魔法をしなければ血が止まらず、結局体も溶かされる。
初見殺しだ。
水酸化ナトリウムを知らなければ確実に痛みに気を取られて相手の攻撃によって殺される。
大翔は空気中の水分を集めて大量の水と作り出した。
幸いナトリウムをそこまで体に入ってこなかった。
大量の水で水酸化ナトリウムを薄める。体の中で分散させれば体を溶かすとはいえ、大翔の体と回復魔法を当て続ければ何とかなるはずだ。
そして回復魔法を当てて患部を治療する。
思ったよりも痛みはなかったが何より精神的に疲れた。
そうして一通り元に戻ったのを確認して大翔は対峙する。
相手は何か出すわけでもなく
こちらの様子を確認した。
「これに耐えるとはな。相当魔力が高いらしい」
その粒子は毒になる。
だがその毒を紫花菜たちに何か被害を出すわけでもない。
あくまで人質として自分の動きを阻害できるように攻撃してこなかった。
大翔はそんな相手に対して攻めあぐねていた。
決定打がない。
相手は異能によって基本的に金属の破片と水銀を展開している。
金属の破片は防御時に一枚が破れてもまた別に一枚が攻撃を防ぎと光魔法などの遠距離攻撃はほとんど通用しない。
展開された金属片の塊は攻撃になり大質量の攻撃が破片を組み合わせることでチェーンソーのように斬撃にもまたその大質量から打撃にもなる。
更にが金属に熱を与えること更に攻撃力も上げることが出来る。
おそらく魔石を使えば空間断裂魔法すら受け止めることが可能だろう。
そして水銀だ。
相手はその水銀の先端を酸素と化合させて大翔を攻撃してくる。
それがもし体内に入れば毒となってこちらも魔法で威力の底上げをすることが出来る。
毒と大質量の攻撃。
そのどちらにも魔法をまとわせ貫通力を上げてくる。
その鋼の一本一本の金属の集合体が渦が出来て大翔を削ろうとしてくる。
その悪魔自身の空間断裂魔法をまとわせた剣と同じ威力を持っている。
そのまま防御に使え、自身の魔力を温存し、そのシンプルさからリソースを割くことなく、魔法の併用がしやすい。
隙が無い。
大翔の攻撃力では遠距離戦は戦えそうにない。
だが近距離戦はリスクがあり、また紫花菜たちと距離があく。
それに単純に攻撃が通らない。
強い。触れることが出来ない。
今の所全て相手の剣を受け止める時以外全て周りの鋼によってはじかれている。
相手がこちらに近づいてくれれば攻撃が出来るが、その異能と魔法の手数から攻撃するのに魔法の火力も防御にも大翔自身から出せる魔力では太刀打ちができない。
得意の空中魔法も使わないと勝てないので魔剣で攻撃魔法を使えない。
じり貧の状態だ。かなりきつい。
どうすればいい。
ベルブの攻撃を受けながら大翔は必死に考える。
どうすれば……
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紫花菜はその戦いを見ていた。
嫌見ることしか出来なかった。
突然周りが岩で囲まれる。
だが相手の斬撃がその岩を壊す。
再び大翔が岩を出して相手の攻撃を受け止める。
アスハは頭を伏せて、動かない子供の頭を無理やり下げさせる。
背中に衝撃が来る。その痛みが現実だと無慈悲に告げる。
巡りまわるその光景に皆叫び声をあげていた。
いつ死ぬのか分からない。
皆死という恐怖に怯えている。
いつになったらこの恐怖から逃れることが出来るのだろうか。
そして紫花菜達は急に上に飛ばされた。
下を見ると上に飛ばした氷の台が四方からの金属物によって粉々に砕け散っていた。
紫花菜たちは空中で制御できるはずもなく、自由落下して地面へと急速に近づく。
相手は光魔法でこちらを狙うが、紫花菜たちの下にいた大翔が防御魔法を張り、
そして大翔は相手に近づいて持っていた剣で相手の剣と撃ち合った。
その瞬間大翔達は紫花菜達の下から消えた。
その代わり下から大きな水の球が出来ていく。
それはおそらく衝撃を吸収するためのものだろう。
「息を吸え!! 上にいる人は下に子供がいないか注意しろ!!」
大和の声に皆覚悟を決めるしかなかった。
下に落ちることしかできない紫花菜たちは息を吸って目を閉じた。
身体に大きな衝撃と共に体が水に包まれた。
次々と入ってくる人に紫花菜は押されて直ぐに体を水の外に出された。
身体に再び衝撃が走るが、こけた程度で済むことが出来た。
直ぐに立ち上がり、子供を引っ張って落ちていく人で水の球がいっぱいにならないように子供たちを直ぐに外に引っ張る。
泣き声はあるがうめき声はない。
無事何とかなったのだ。
肺に水が入ったものはいなく、問題なく動けそうだ。
今の季節が夏で良かった。
冬ならば恐怖と相まってこんなことをすれば一気に体力が削られる。
紫花菜はそうやって周りの確認を済ませた後に大きな音が鳴り響いた。
ビルが崩れたのだ。
その場所から悪魔が紫花菜たちに向かってくる。
大翔は相手に触れようとした。
だがベルブは大翔と間に距離が開ける為に鋼を出した。
そしてベルブの目はこちらに向ける。
大翔が空間魔法で前に現れ剣を受け止めた。
大翔は守るために魔法を使う。大翔の機動力は失った。
氷が紫花菜たちを下から押し上げた。
増援の人が身体魔力で氷に紫花菜達が浮かないように押し付ける。
一階から一気にビルの天井まで上がり、まるで遊園地にあるアトラクションのように上下に動き回る。
紫花菜たちのいたところが次々と魔法で削られている。
大翔は守ってくれている。
紫花菜たちは何もすることが出来なかった。
ここで走って逃げても相手の射程圏内だ。
それにさっきから大翔を相手と紫花菜たちで挟んでいる。
そして大翔は壁を張り続けている。
紫花菜たちが移動したところで体格や性格の差、こける人など様々な理由で紫花菜達は広がってしまう。
相手はその端から端まで狙うことが出来る。大翔はその両方、あるいはすべてに防御魔法を張ることになる。
ここで逃げだせば大翔の守る範囲が広がってしまう。
ここで移動という体力の消費と大翔のリソースの消費を考えると動かない方がいい。
大翔の指示に従い、大翔の思いのままに動かなければ紫花菜たちは死んでしまうのだ。
そう大翔は戦っている。
必死になっている事は分かっている。
大翔がいなければとっくに紫花菜たちが死んでいることも分かる。
なのに、この気持ちは何なのだろうか。
この心の中で芽吹くこのどす黒い感情は何なのだろうか。
皆大翔が勝ってくれることを願っている。
大翔は優しいのは子供の時から何も変わらない。
大翔が引きこもりになったのも。大翔がずっと苦しんでいることも。
ずっと紫花菜に気を使ってくれていることも何もかも知っている。
大翔は毎年父さんの命日に手紙を送ってくれている。
紫花菜宛とそして父さんに向けた手紙。
絶対に父さんのことを思い出す日にだ。
「本当に申し訳ありません。この手紙を送ってもきっと何にもならないと分かっています。でも二人に謝罪する機会もなくこのように手紙を送ることにさせてもらいました。
あの日、僕はとんでもない過ちを犯してしまいました。
大きな悲しみを背負わせてしまいました。大事な命を、家族を奪ってしまいました。
許してほしいとは思いません。ただ何か僕に出来ることがあるなら力になりたいです。
僕が何かできることがあって、少しでも前を向けれるかもしれないと思えるなら何でも言ってください。大事な家族を殺してしまって本当に申し訳ありませんでした」
今にして思えば、10歳の子供がこんなかしこまった文章を書かせていたのだと思う。
毎年来る手紙を紫花菜は無視していた。
流河とアスハの繋がりから少しだけ情報を得られた。
知っている。
あの日大翔が銃を父さんに向けたのは、紫花菜を守るためだと。
銃は銀行員の人もを無理やり奪ったと聞いている。
もし大翔が奪われなかったら、紫花菜事父さんは撃たれていたのかもしれない。
そして大翔は身体を寝かせて膝に銃を置いた。
それはどんなに銃がぶれても紫花菜に当たらないようにするためだ。
当然大翔が弾を外していたら、大翔は死んでいた。
大翔は命を賭けて紫花菜を守ろうとしていたのだと。
怖くて。逃げ出したい。その気持ちは紫花菜たちにはある。
でもそれは大翔も同じはずなのだ。今まで戦ったことがない大翔だって怖いはずだ。
なのにどうして苦しんでほしいと思ってしまうのだろうか。
子供たちは信用している。
何故大翔を信用するのかという気持ちが心の中でとげとなって傷ついている。
父さんをどうしてその力で助けてくれなかったのか。
その何もかも妥協せずいつも誠心誠意の対応が父さんを殺すしか選択肢がなかったのだとそう認識させて来るかのようで。
父さんと同じ目にあってしまえばいいのに。
そう紫花菜の耳に憎しみに満ちた自分の声が聞こえる。
どうして応援することが出来ないのだろうか。
どうしてその紫花菜達を守ろうと縦横無尽に動く大翔に怒りを覚えているのだろうか。
どうして大翔の顔に人を殺したという影が一つもないことに嫌悪感を抱いているのだろうか。
どうして仮面を買って正義を名乗るヒーローをしようとしているのか。
どうしてその心は戦おうとしているのだろうか。
殺し合いをどうして大翔は出来るのだろう。
どうして紫花菜は、大翔が他人のために命を懸けてでも守ろうとするのを喜ばしく思っているのだろうか。
醜い。
ただのその言葉が紫花菜を締め付けられた。
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