第1章18話「流河の決死の愚策」

 流河は再び戦場に舞い戻り、そして大声でそう叫んだ。


「俺は異世界から来たカーハルだ!!!」


 その声に合わせて、一般人の人々がこちらによって来る。

 四方八方からこちらに寄ってくる。一般人もそして軍人も、異世界の人もだ

 

 やっぱりそうだ。

 相手は異世界人を過剰に反応する。


 紫花菜とアスハが操られたときだ。

 大翔は異世界の人とその言葉を言った瞬間目が変わり、性格も豹変していたと言っていた。


 洗脳がどのような仕組みがあるのか分からない。

 そして今どんな洗脳を民間人と一般兵にかかっているのかも分からない。


 戦いが始まる前にかけていた洗脳はこの70億人にかけた異世界人を殺すという命令。

 それは恐らく異世界人に魔法を使わせるためだろう。

 異世界人だからこそ咄嗟に自然に魔法を出させて、目立たせ、魔力を感知させる。


 世界を洗脳して、異世界から来た人たちに対して追いかけて目立たせるように洗脳した。

 それは強く、そして70億の大勢の人にかけた。

 

 そして今はただ見通しのいい場所に移動する民間人。

 そして民間人を殺すという一般兵。


 その二つの洗脳がかけられている。

 

 

 両方にとって、同じ命令を掛かっていた異世界人を倒すという状況があった場合、洗脳された人たちはどうなるか。

 異世界人を見つけ、目立たせるという役割を行うのか、それが今回の賭けだった。


 魔法は一つの腕に一つしか撃てないのは分かっている。


 就職率や犯罪率の上げ下げも洗脳で行っているのを見るにどう考えても二つ以上はかかっているとは思う。


 方法は分からないが、多分複数人で分割してやっている。


 戦場はこの東京西部だけを見るに何かしらの方法で地域ごとに洗脳をしている。


 もちろんこれらも全て推測だ。

 そしておそらく民間人が見通しのいい場所に移動する命令は、その就職率などの細かな洗脳の命令から変わったのではないだろうか。


 異世界人が少し来ただけで70億人反応する洗脳をかけるのだ。

 人を殺さないという何百年も築き上げた倫理観を変えるくらいの強い魔法。

 多分それをいじったりはしていないと信じた。


 それらも全て推測だ。


 分かるのは異世界の人と疑いをかければそれまでやっていたことを急に行動を変えることだけだ。

 絶交していた紫花菜が大翔に近づくくらいには行動を変える。

 

 もしかしたら洗脳の命令は上書きできるのではないだろうか。

 

 モレクが言っていた。

 

 魔力を検知し、何をされたか分からないため、たくらみを潰すために人ごみを利用したと。

 仲間を増やされたかもしれない。人ごみを使って流れであぶり出すと。

 

 そこまでして恐れる意味は分からない。


 でも異世界人に何かされるのを嫌っていた。


 ペルシダも殺そうとしていた。

 でも仲間を増やすことに関しては過剰に恐れていた。何か魔法に仕掛けることは恐れていた。


 異世界人に支配されるのを相手は恐れている。

 洗脳がどんな仕組みか分からない以上、ほとんど賭けだった。


 異世界から来た人と大声で名乗れば、洗脳された人々は寄ってくるかもしれない。

 この場を支配しようとすれば進行方向を変えてくるかもしれない。


 黒い穴を出す空間魔法は煙を出していた。

 声くらいは届けさせることが出来るのではないか。

 

 電子音声を増幅すれば通信越しでも民間人を声を届けさせるのではないか。

 軍人たちにそれを運んでもらえることは出来るはずだ。


 なら兵士たちがいる所に民間人を集めさせることは出来るのではないか。


 その賭けは勝った。

 人々はその声に反応し声をする方へと歩く方向を変えた。


 流河はそれを確認しつつ、


 「車花、泥はだせるか!!」


「ええ!!」


「お前ら、いい加減目を覚ませ!!!!」


 そう民間人向けて剣を向ける。そこに車花が泥を剣に付与する。

 異世界から来たとして分かりやすいのは騎士としての服かそして剣だ。

 着替える時間がなかったから剣を持つことを選んだ。


 そして剣を両手で遠心力を使って横に振った。

 民間人の服はどろだらけになり、体力が更に奪われるのを少しだけ期待と、そして自分は異世界人だと証明するかのように魔法を撃った。

 

 これが異世界人を捕える為にこちらを追ってくるのか、それとも異世界人を報告しなかった裏切者をあぶり出すためにこちらを追っているのか分からない。

 

「構ってやるから、こっち来い!!」

 

 ここにいる味方と流河の違いは構っていられるか、構っていられないか。


 異世界人の存在は貴重だ。

 民間人に構ってはいられない。多くの敵と戦ってもらわないといけない。

 軍人も民間人を保護や援護など色々あるのだろう。

 流河には出来ないことをもっている。


 この場にいる全ての人は流河よりも強くて、すごい人物なのだ。

 皆努力を積み重ねてきた。


 その努力を無駄にさせることはできない。

 なら何もしなかった、そして声を出すことしか出来ない流河がこの中で一番適任なのだ。


 民間人が途中で合流してきた。

 流河は民間人同士がぶつからないように移動して、車花に回収してもらう。


 魔法を見せた所であまり変わりはないらしい。

 泥をぶつけようが声だけだろうが相手は声の持ち主に反応する。


 ―――行ける。


 憶測は確信となり、今度は自信を持って大声を上げた。

 いちいち魔法を見せなくてもいいなら、より速く場所を変えることができる。

 どこにどこまでの音量で叫ぶかは司令官たちが指定してくれる。


 守るポイントを固定化できつつある。


 犠牲者を減らすために、東奔西走しなくてもいい。

 移動という時間と体力と魔力消費をなくすことができる。

 人数が足りなければ直ぐに応援に出すことが出来る。

 何処に誰が言っているのか、指揮系統に混乱が生じないはずだ。

 

 何よりも大翔の周りの人がいなくなる。

 今まではある地点に人が集まるよう洗脳されていたので、大翔が戦っている地点にどんどん人が流れていくのだ。


 最初の大翔の周りの4つの地点でそれぞれ声を放った。

 司令官に聞くと、民間人は大翔達から離れていると。

 

 流河が洗脳された人達を誘導すれば、大翔は周りを気にして戦わないで済むかもしれない。


 成功するか分からなかった。

 大声で叫んでも誰もこちらに近づいてこなかった場合があった。


 だからこそ司令官が認めた。

 効果があるか分からないから、失敗に対するリスクがほとんどなかったから認めてくれた。


 最悪失敗しても、声を出すことでロボットを引き付けることやモレクの性格にしてこちらに釣れそうだなと思ったが、洗脳された人たちを釣ることが出来た。


 流河が声を上げれば洗脳された人たちが寄ってくる。 


 ただ声を上げる。

 流河が何かを変えることなど出来ない。全てはここで戦ってくれる人たち次第なのだ。

 皆を救うための策など決して言うことなど絶対に出来ない。

 それは余りにもおこがましい考えだ。


 何か彼らにバフをかけることもしていない。 


 脅威は変わらないし、犠牲者は変わらず増え続けているだろう。

 犠牲者の数もおそらく減らない。

 やった所でおそらく死者は誤差程度の物だろう。


 全て戦っている人によって結果は変わる。

 民間人が集まってしまう以上、敵に存在はばれてしまう。

 勝ちもあれば、負けもあるだろう。

 もし負けてしまえば、そこにいる民間人は殺されてしまう可能性は高い。

 言えて、こちら側は待ち構えて、相手は移動する体力やMPが減るくらいだ。


 流河はただ叫んだ。

 ただ自分の居場所を大きく伝える。


 相手からしたら意味が分からないだろう。

 こんな場所で大声を上げるのは。自分はここですと言っているようなものだ。

 どうぞ、殺してくださいと言っているようなものなのだから。

  

 そうこれは流河の愚策だ。

 何一つ持たない、頭もよくない流河だから生まれた愚策。

 何もしていなかったから。体を鍛えることすらしなかった流河がこの場で出来ることはただ声を上げることだけ。

 愚者である自分が考えた愚考。


 これは決して作戦なんか言えない。

 主人公のように急に作戦を思いつけるわけがない。

 流河は何処にでもいるただの人間だ。

 司令官や義信達のような訓練された人間でもない。

 軍人のように戦局を決める作戦を決行したわけでもない。


 もう司令官たちは作戦を決めている。

 それに介入すれば再調整に時間がかかる。

 話し合ったことのない自分が、何もかも未熟な自分がそれを汚してはならない。

 流河は何倍も先に生きて、そして訓練された人たちの考えをより良くするような力を持っているわけでもない。


 狙いが成功した時でも戦局はたいして変わらないだろう。

 移動の分は減るが、敵は集まりやすい。


 それでもただ声を上げる。


「車花、次!!」


「えぇ!!」


 あと残る問題はロボットだけだ。

 市民の洗脳を解くことも大事だが、時間がかかれば土魔法で避難させることは出来る、命の危険は大丈夫だという。


 敵の数を減らす方が命を助けやすい。


  声を出すことによってロボットまで引き連れてしまうことになった。

 ロボットの存在は情報としては入っていた。

 だが魔力量は想定以上だという。並の騎士でも倒せない。

 一般兵なら生き残るのに苦労するという。


 ロボットがそのポイントに入ってしまったらどんなことになるのか分からない。


 その不確定要素を潰さなければならない。

 そこで出てくるのがペルシダだ。

 

 ペルシダの異能はロボットを一瞬で破壊することが出来る。

 

 ペルシダの能力はまだ相手に行き届いていない。

 なら相手が孤立したタイミングでやれば敵全体にばれることもないだろう。

 

 ロボットに対してペルシダがいればその不確定要素を潰せる。

 そのための囮を流河がやる。


「魔法でここを支配してやる!!」


 そう大声で叫ぶとロボットが自分に顔を向ける。

 

 流河はロボットと対面した。

 でかい。自分のちっぽけさがあらわになる。

 でもビルより小さい。怖くない。


 そして仲間が、信じてくれる人がいる。

 頼ってくれた人がいる。

 

 車花がいる。

 魔法で脚の遅い流河を運んでくれて、魔法で援護してくれる。


 義信たちがいる。

 その目は常に自分に向けていてくれる。失敗しても止めてくれる大人がいる。


 ペルシダがいる。

 ロボットを破壊してくれる。何よりこれ以上かっこ悪い所を見せられない。

 

 そして大翔がいる。

 大翔を一人にさせない。大翔が届かないところを流河が全て拾う。


「俺は異世界から来たカーハルだ!!」


 そうやってロボットに向けて剣を向け、宣言する。 

 

 真剣だ。

 ものすごく重い。とてもじゃないけどこんなものまともに持てるはずがない。

 

 剣を縦に振ることなど出来ない。

 こけて刃先がこっちを向いて自滅するのがオチだろう。


 カメラが焦点を合わすためか動いた。

 補足されたことを理解した瞬間、緊張で汗が出てくる。

 

 流河はそれっぽく剣を前に振って、ポーズを取ってそして走る。

 ロボットは肩から機関銃が出てきた。その両肩から出る機関銃がこちらに向かう。

 

 おそらくこちらの動きに合わせて攻撃を合わせるつもりなのだろう。


 機関銃が爆発した。

 義信達だ。弾を取り替え、今度は頭に当てる。

 カメラの部分が爆発し煙がカメラを包む。


「はああ!!」


 ペルシダがロボットの後頭部を蹴った。ロボットはパーツがバラバラになって崩れていった。


 ペルシダはそのままビルの中に入る。

 義信達と連携して次の攻撃対象を絞り込む。


 流河がロボットを引き付け、義信さんたちがロボットの妨害、そして車花がペルシダや自分のサポートを行う。


 ロボットのと戦いの数が増えていくにつれ、ロボット一体に対する処理の時間は短くなった。


 とにかく全力だった。

 空間魔法はあるとはいえ、ロボットにいる所にはいかないといけない。

 大きな声を出してロボットがいるところに走っては、大声でそのロボットを引き付け、また走っての繰り返し。

 

 それを繰り返す。


「俺は異世界から来たカーハルだ!!」


 そう流河は大きな声を出す。

 出来るだけ大きく、まるでこの場にいる騎士や軍人たちのリーダーであるように。


「俺はここにいるぞ!!」


 この戦場に自分という存在を示す。

 自分という存在を皆に知らしめる。自分はここにいると。戦場に立ち大声で叫んでいるのだと。


「全然怖くねえな、洗脳しちまうぞ!!」


 震えも出すな。恐れを出すな。

 大声を上げ、自分という存在を出来るだけ強く示す。

 洗脳された人に、悪魔に、大翔に、そしてこの世界に向けて。


 世界中の人が洗脳されて、地球はアドラメイクによって支配されたことを知った。

 洗脳された地球連邦軍の人たちによって家に銃弾を撃ち込まれ、戦闘ヘリがミサイルを撃ってきた。


 それらも凌いでやっとのこさ安堵出来ると思ったら、悪魔によって街が破壊されていった。

 悪魔によって殺されそうになった。

 

 家は壊され、燃えていった。

 今頃焼け跡も残っていないだろう。


 だというのに何も力がない。

 魔法も使えなければ異能という特別な力もない。

 超絶反射神経や運動能力もなければ、変身して巨大な力を持つ仮面戦士にもなれない。


 何度も死にそうになっているのにそれを変える力が何もない。

 死んでいった人達がいる。置いていった人たちがいる。


 世界は終わっていると流河は思う。

 正直言って終わっている。

 答える人がいれば9割は糞だとそういうだろう。

 

 人が簡単に死ぬ。世界を支配した悪魔は人の命を軽く考えている。

 洗脳されて、何かあったら抵抗することもなく死んでしまう。


 民間人が平気で人を殺そうとする世界。人の死が当たり前だ。ペルシダが居なければ、流河も今頃洗脳されて誰かに殺されていた。


 流河は今まで異世界転生や転移などしたくないと思っていた。

 転生ならまだしもやっぱり、大翔が心配になって帰りたくなってしまう。

 強制的に二度と会うことが出来ないような距離の離れ方などしない方がいいに決まっているのだ。


 でもこの惨状なら大翔を連れて異世界に逃げ込みたくなるくらい終わっている。

 逃げたい。ただ傍観者になるしか出来ないこの世界に行きたい、生きていきたいと思うのだろうか。


 でもこの世界には、流河が生きているこの世界には大翔やペルシダ、大切な人たちがいるのだ。

 今流河が生きているのはこの世界なのだから。 

 

 そんな世界に向かって自分が今ここにいるのだとそう高らかに宣言した。


「俺は生きているぞ!!!」


 生きているのだと、そう宣言する。

 それは世界に向かって、何より大翔に向かって。


 馬鹿な事しか出来ない。

 流河の今の力では、声を出すことしか出来ることなどない。

 

 だから俺を置いて先に死ぬようなことを大翔にさせない。

 生きて、そして流河を守ってもらわなければならない。共に生きてもらわなければならない。

 傍にいてくれないなら、流河はこれからずっと馬鹿な事をしてやると。


 だから流河は大声を上げ続けた。



 民間人がいた。それを大勢こちらに近づいている。


 そしてロボットが3体も後ろから来ている。

 ロボットがこのまま移動してしまうのであれば、民間人をひき殺してしまうかもしれない。


「車花!! あの人たちをどこかに運び出せねえか!!?」


「駄目!! 空間移動魔法は魔力がかかるの!! 人も多いし下手したら途中で千切れるわ!!」


「じゃあやるしかねえよな!!」


「ええ!!」


 テンションがおかしくなったのか、そう決め台詞を吐いてしまった。

 だが車花は同調してくれた。


「車花!!」


 そういって車花に手を出す。

 まずは相手と民間人を切り離す。


 車花は流河の手をとって、横に風魔法を出してビルに足をつける。

 そしてビルを踏み台にして、跳躍でロボットの後ろについた。


「来い!!」


 その声にロボット達は二人の方向を振り向いた。

 民間人から意識をそらせた。


「義信さんたちは保護をお願いします!!」


 その言葉を言い切る前に民間人の元に行き、誘導してくれた。

 

 ペルシダと車花、そして流河。

 相手はロボット三人。もしかしたら伏兵がいるかもしれない。


 でも負ける気がしなかった。


 流河は車花から離れた。

 下に無事着地し、ロボットに向けて走る。車花は煙を出して射線を切る。


 広い道を重い剣を持って、流河は走る。

 両手で剣を持つとなると、しかも走るとなると体力は直ぐになくなり、速度はいつもよりも遅かった。


 直ぐに体力の限界を感じて全然近づける気配がない。


 一機は好機と見たのか、銃口を向ける。

 その瞬間ペルシダがビルから飛び出して、ロボットは崩れていった。


 ペルシダはそのままロボットの後ろを取る。

 他のロボットがペルシダに銃口を向けようと体を反転した。

 

 そのタイミングで車花がビルからロボットに近づき

 カメラと肩にある機関銃を破壊して、再び跳躍する。

 

 ロボットは確かに火力が高い。でも上に上がれば警戒するのは機関銃とそして魔力だけだ。


 そして魔力を出していなくてもロボットを無力化出来、かつビルを破壊していないのであれば、ペルシダの方が分はある。

  

 車花は空中でペルシダと手をつなぎ、ペルシダを投げ飛ばす。

 車花はそのまま空間移動魔法を使った。

 ロボットは魔力を感知したのかその空間移動魔法先の穴に魔力を集め、壁を作る。

 

 車花は何か知っていて利用したのだろう。

 でもペルシダはまっすぐ突っ込むだけだ。

 

 空間移動魔法は解除され、予想外の行動にロボットは対応できなかった。

 ペルシダは二体目のロボットを無力化した。


 そして三体目のロボットは後ろに下がった。

 その二人を射線上に入れるためなのだろうか。目の前の障害をまずは取り除こうとしたのか。


 それを流河は見逃さない。

 グレネードランチャー。ある程度狙いをつけなくても機能する。

 走り続けていた甲斐があった。

 ロボットの横を、関節部分に向けて撃った。


「いっけえええええええ!!!!」


 命中した。

 ロボットは脚が崩れ、体勢が崩れる。


 銃口がペルシダに向けられない。またスラスターを使うにも体勢が崩れて、後ろに下がれない。

 ペルシダは地面に降り立ち、一気に畳みかけた。


「やああああああああ!!」


 ペルシダは再びロボットに触れた。

 勝利を確信させるような音と共にロボットは崩れる。

 

 二人とも地に付き、ロボットに乗っていた人を無力化する。

 

 この調子を続ければ、大翔だけでなく他の人も……



 ロボットの後ろに剣士が見えた。

 流河は手にあるもの全てを手放し、ペルシダに向かって走る。


「「ペルシダ!!」」


 ―――間に合え。間に合え!!


 車花と同時にそう叫び、ペルシダは遅れて気づいたようだが、防御が遅れた。

 一撃は何とか防いだものも、腕が切れて痛みで体に力が入らなくなる。


 二度だ。

 ペルシダを首が掴まれたとき。そしてペルシダが殴り飛ばされたとき。


 どちらもペルシダを守ることが出来なかった。

 一つは見ることすら出来ず。

 もう一つは見ても何も出来なかった。

 

 ……今度こそは、今度こそは守ってみせる!!


 ペルシダの表情に曇りが走る。顔が一気に引きつる。

 

 ……絶対に死なせない!!


 流河はペルシダの元にたどり着いた。

 でも相手も距離は近い。どう剣を振るのか分からない。


 ペルシダを押すしかなかった。


 流河は腕で心臓を守る様に………


「あああああああああああああああああ!!」


 剣が背中を突き抜ける。

 熱い。痛いよりも先にそんな言葉が出てきた。


 急激な変化に意識が保てない。

 体を支えることも出来ず、立つことが出来なかった。

 

 体は倒れ、手は流れる血によって赤く染まっていく。


「「流河!!」」


 ペルシダと車花の声が聞こえる。

 口から血の泡が吹いた。

 

 だんだん意識が保てず、まるで眠る様に重くなった。


 まだ死にたくない。ここまで来た。皆と別れたくない。

 大翔を守らなければ……


 ――――死にたくない。


 そう、頭に思い浮かべながら流河は意識を失った。


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