第2章30話「追ってくる絶望」
リリィが親衛隊の悪魔を抑えてくれた。
だが相手は依然とし流河達を襲ってきている。
魔人だ。
しかも二体。
例えリリィが親衛隊の悪魔を防いでくれたとしても、絶望はまだ襲ってくる。
「伏せろ!!」
増援が来てくれた。
流河達と交錯するかのように相手を向かい撃ってくれた。
後ろから爆発音が聞こえる。
名も知ることは出来ず、そして顔を覚えることも出来なかった。
顔は見たのにどんな顔かもう分からない。
その人がどんな人なのか、もう分からない。
逃げるのが必死で戦っている人に応援することも、死なないでと声をかけることも出来ない。
何人戦ってくれたのだろうか。
何人の人が今戦っているのだろう。何人勝って、何人負けたのか。
今どれだけ相手は迫ってきているのだろうか。
後どれだけ犠牲にすれば逃げれるのだろうか。
流河達はただ逃げることしかできなかった。
車花は今だ流河の腕の中で意識を失っている。
救援に来てくれたものも車花を直す余裕がなく、流河が抱え続けている状態だ。ほっ最初は息があると安心したが、今は不安とその重さで余裕は全くない。
背中で車花をおぶさることにして少しは楽になったがそれでもきつい。
正直言って車花を抱えながら走るのは無理がある。
敵が来たら逃げ切ることが出来ない。
だから早く目覚めろと思うが、一向に変化がない。
「後で絶対貸しだからな!!」
車花に貸しを作れると頑張る気持ちとそしてもう誰も来ないでくれという願いを胸に流河は走り続けた。
流河の願いは全く叶う気配がない。
敵が来る。
それに合わせて増援に来る。そのたびに人が死んでいく。
流河は何も出来なかった。もう魔石も何もない。流河に出来ることはない。
紫花菜達を守るという約束を流河は出来ているだろうか。
紫花菜達は隊員に連れられているだけで流河は何も出来ていない。
「逃げてくれ!!」
そういって流河の背中を押して、増援の自衛隊は相手にライフルを撃ち続ける。
魔法を使えないのに、銃で魔法を使える相手には勝てない。
肉が割ける音も聞こえた。
叫び声も断末魔も聞こえる。
後ろを振り返ると
ビルに挟まれた場所で戦いが行われていた。
炎が、氷が、岩が、光が街に飛び交う。
魔法が放たれ、剣を打ち合う。
互いが互いの死を望む、そんな状況。
戦況は激しく電気信号魔法で無力化出来る余裕がない。
巻き込まれたのかどうかも分からない。
後ろを振り向く余裕は今の流河にはない。
どうして相手に位置がばれている。
魔力反応がなければそもそもばれることなどない。
そこに民間人がいるかどうかなど分からないはずなのに。
増援が次々に来て、守ってくれる。
自衛隊の人も、異世界の人も皆流河たちのために戦ってくれる。
どうしてこうなる。
罠も作ったりしているが、全てが急造で大した足止めにはならない。
左右から攻撃を挟んでくれるおかげで洗脳された人は撃退出来ているが、それも通用しなくなる。
空に巨大な影が出来た。
「ロボット……」
ロボットは流河達を襲った。
チェリアの方を向かえば増援は直ぐに来る。だがロボットによって直ぐにやられてしまう。
ビルから挟んで攻撃していた人たちがロボットに接近して戦いを始めた。
増援が来る回数が多い。
今までと同じ前線と後方の間にいれば両方から攻撃することが出来るとはいえ、前線はどうなっている。
最適なのは攻撃を受けないこと、相手から身を隠すこと。
何処か一度建物に隠れるという案が一瞬思いついたが
全員が建物の中に入ってしまえば相手が辺り一帯焼け野原にしてしまう。
だから誰かを生き残らせるためには大勢の人数を走らせなければならない。
ただ走ること。逃げることしか流河達が出来ることはない。
だが逃げても、逃げても敵が現れ続けている。
いつ攻撃が来るかもわからない。
いつ相手が突破してくるか分からない。
いつ死ぬかもわからない状況。
それでも走らなければあるのは死それだけだった。
流河たちはただ奪われるだけだった。
尊厳も命も、約束も。
嫌、支配されているだけなのだろう。
生も死も何もかも、思えば流河はずっとそうだった。
洗脳され生き方は決められていた。
だから今流河達は死を決められている。
抗えるのか分からない。
周りを見る余裕などなかった。ただ走って少しでも前に、前に。
また空が暗くなった。
空間移動魔法。
そこから相手が現れる瞬間、光がその黒い穴に入り込んだ。
「早くこっちへ!!」
杖を持っている。おそらく魔石の杖だ。
黒色に輝いた石の杖から光魔法がまた放たれる。
茶髪で緑色の目をした女性。母さんの友達である……
「チェリアさん!!」
そこにはチェリアがいた。
「よく頑張ったわね」
チェリアは車花を見て、直ぐに回復魔法をかけてくれた。
回復魔法をかけ終わると車花は直ぐに目を覚ました。
「車花!!」
「流河?…!!」
車花が無事と分かった瞬間、車花事倒れてしまった。
もう限界だと息を吐き、地面に座ってしまった。
火薬のにおいがしなくなった鼻に大きく息を入れる。
何とか車花を運びきることが出来た。
その達成感に少し自信を持ってしまった。
そして周りを見た。
「あ……」
何を勘違いしていたのだろう。
思えば増援者はいつも流河の傍にいた。
それは流河が大翔の義兄弟だからだ。
人がほとんどいなくなっていた。
半分以上は死んでしまった。
近くにいた紫花菜や大和達は生きている物も残った人もほとんどが15歳以上だ。
それ以下の子供は紫花菜達に引っ張られたものだけなのだ。
「あぁぁ」
何を達成感を得ようとしていたのだろう。
いつの間に皆を守ることから車花を運びきることを目的にしてしまったのだろう。
大勢の人が死んだ。
なのに流河は達成感を感じてしまった。
ボテナ。ナマン。バルナ。ベオデ。
彼らはどうなった。
流河たちのために戦ってくれた人。
死ぬと分かりながら、銃を撃ち引きつけようとしてくれた自衛隊の人たち。
大勢の犠牲者が出たのに、どうして流河は目的を変えたのか。
それはきっと体を立ち止まらせないから。意識が弱くて何か言い訳できることを探して見つかったからだ。
生き延びれてよかったと。生き延びたいと。
そう体が思ってしまったのだ。
どれだけ心を取り繕っても、体はそう本当の自分を逃してくれなかった。
「流河。皆、分かっていて戦った。それにあなたたちのためじゃない。防衛するために戦ったのよ」
「でも……俺、今助かったことに喜んで……」
それはそうだと理解するとしても、どのみち大勢の人が死んだのは変わらない。
流河は救えなかった。嫌、何もしていない。
なのに喜んでしまった。
周りを見ずただ自分の命が助かったことに安堵を覚えてしまった。
結局言われた役目を果たせなかった。
最後なんてほとんど走っていただけだった。
突然でこに痛みを加わった。
チェリアがでこピンをしたのだ。
「流河。私も失敗を沢山したわ」
そうチェリアは頬を持ってこちらを向けさせた。
その目は流河は持っていない覚悟を決めた目だった。
「それで大勢の人に迷惑をかけた。戦いに負けて戦線を崩壊させて何人もの人が死んだ。それでもみっともなく生きのびて、そして今ここにいる」
そうチェリアが流河の肩を叩く。
「あなたが醜いかどうかなんて知らない。でもそれでも動かないといけないことがあるってあなたは知っているはずよ」
そう言われて自分は足を止めて座り込んだのに気づいた。
まだ役目は終わっていない。
流河は一度深呼吸をする。今度は間違えない。
前の戦いを思い出せ。あの時だって流河は醜くても動いた。
今度はちゃんと、言われた役目を果たさないといけない。
「……分かりました。ありがとうございます」
流河は立ち上がる。今度は大丈夫なはずだ。
チェリアは回復魔法で疲労を取り除いてくれる。
皆疲れていたが、回復魔法によって元気を取り戻したのか顔色が良くなった。
再び流河達は移動した。
チェリアは流河たちの前に行き、戦ってくれた。
チェリアは空間移動魔法で現れた人を次々と光魔法で
速い。空間移動魔法を相手が使った瞬間そこに現れた人は撃たれた。
さっきまではこちらまで被害が及んでいたが、チェリアによって安全が確保されている。
それに皆安心感を抱こうとしていた。
「あなたたち、早く私から離れて」
そうチェリアが言った。その声色は邪魔だと言わんばかりの荒々しさがあった。
チェリアの目はただ真っ直ぐ後ろに目を向けている。
あったのはまだい10cmも満たない黒い穴。
まだ敵も現れていない。
そう敵が現れていないのに、チェリアは最大限の警戒心で構えている。
そしてそこから見える目。
チェリアは光魔法を撃つも防御魔法で防がれた。
今まで対応できなかったのに、この者はそれを防いだ。
「あ……」
そこでやっと脳で理解出来た。
「親衛隊第三位ベルブ」
悪魔だ。そして親衛隊第三位。
あのプルプラスよりも位が高い悪魔。
「私があの悪魔に勝つなんて無理。だから早く逃げて」
そう言ってチェリアは構える。
何をすべきかは今度ははっきりと分かった。
「あなたたちを守りながら戦うのはもっとね」
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
チェリアは聖級魔法使いだ。
その位に見合う攻撃はしていると思う。
杖を構えて光魔法を放つ。
魔石によって増幅された光線は相手を覆いつくすほどの大きさで相手を光で埋め尽くした。
だが全く効果がない。
相手は防御魔法を張り、それを完全に防ぎきった。
そして同じく光魔法でこちらを攻撃してきた。
チェリアは空を飛び、上から魔法は当て続ける。
それは相手はベルブだからだ。
ベルブの異能は金属を出す異能だ。
攻撃方で足から出しても使える異能。もし地上で戦えば、常に足元を意識して叩かないといけない。
そして空中に飛ばなければ余波が流河達に当たってしまう。
だから今はベルブの上を取って空から光魔法を当て続ける。
だが此方も魔力に限度がある。出し惜しみをする気もないが、かといってこのままやればすぐに魔力が無くなってしまう。
地面に降りたタイミングでベルブの目つきが変わった。
咄嗟に杖を突き、氷を生み出し飛び台にする。
そして氷が飛び出した勢いを使ってチェリアは離脱した。
氷の飛び台から足が離れると同時にそれは来た。
チェリアはベルブの後ろを取れた。
とりあえず流河達に被害は出ないだろう。
魔力の温存が出来る。
でもここからが相手の本領発揮だ。
相手は自分の周りに金属の渦を生み出し、そしてそれをチェリアに襲わした。
チェリアは氷魔法で素早くその場を離脱するも、ベルブは更に金属を生み出し、チェリアを襲ってくる。
チェリアは要所要所で空中移動魔法によってかわすも、金属の渦は中に飲み込ませるような動きをこちらに向けて、襲い続けてくる。
隙が無い。相手は異能によってまだまだ金属を生み出し続けることが出来るだろう。
当然金属は防御にも役に立つ。そこに両手の防御魔法と、魔力障壁、そして魔石がある。
相手は金属を生み出す。
圧倒的な物理攻撃。例え防御魔法で防いだとしても単純な押し合いで負ける。
だからこそよけ続けなければならない。
やり過ごすしか道はない。
正直言って勝つのは無理だ。
元々魔法使いなだけあって得意なのは遠距離戦だ。
だがこのような状況で遠距離に離れることは出来ないだろう。
ベルブはそれに近接戦でも強い。空間断裂魔法も瞬間移動魔法も使える。
常に相手はこちらに飛んで襲うことも出来るのだ。
襲ってくる金属の渦、残りの魔力量、ベルブがいつ襲ってくるか。
常に瞬間移動魔法の分を残しておかなければいけない以上、集中して回避しなければならない。
チェリアの集中力と体力は削られ続ける。
とにかく流河たちが逃げれるまで時間を稼ぐしかない。
後ろに下がることは当然出来ない。
相手は近づいてきた。
足を使って接近してくる。当然瞬間移動魔法分はまだ残っている。
チェリアは空中移動魔法で下がるほかない。
余り魔力消費の多い魔法は使えない。
それを使ってしまって相手を倒しきれなかったらその後の戦闘が難しくなる。
相手の方が魔力は多い。魔力消費の多い魔法を使うことが出来れば勝てるとそう分かったときに打ち込むしかない。
だがそれを達成するのは相当難しい。
まずは様子見といっても、相手は魔石があるため、それなりの魔力消費で威力の高く速度を速い攻撃をしなければならない。
相手の反射神経を超える攻撃を出来れば話は違うが、今のチェリアでは相手の反射神経を超える攻撃をしたら威力がおろそかになる。魔力障壁でおそらく攻撃が通らない。
そして威力の高い魔法を放っても、防御魔法の壁を設置して、防御魔法が壊れる前にその射線を避ける。
そして魔石がたくさんある相手から攻撃を避けないといけない。
相手が近づいてくるタイミングで氷の針を出して自滅させようにも直ぐに身体強化魔法を張って対応してくる。
様子見を見るといっても、ごっそり魔力は消費される。
やはりきつい。
何とか隙を見て光魔法で相手に一発撃つも相手は防御魔法で何食わぬ顔をしていた。
相手は剣術と魔法を組み合わせた攻撃。そして異能。
チェリアが剣術があれば話が違っただろう。
チェリアに剣術の才能はなかった。
魔法の才能が特に多かったのが大きいがと剣術をやりながら魔法を撃つというのが難しかった。
魔法もどちらかというと両手で別々の魔法を使うよりも一つの魔法を撃つ方が得意だ。今のチェリアの状態は苦手な状態で戦っていると言ってもいい。
爆発魔法。光魔法。溶岩魔法。
全て防がれる。
チェリアが築き上げた今までの努力が全て粉々に打ち砕かされるように攻撃を受け止められ、ベルブは攻撃魔法を使っていない時と変わらない速度でこちらを攻撃してくる。
その戦い方はまるで今何か自分にしましたかと言わんばかりの戦い方で頭に来るが、冷静さを失えば負けるのは分かっているので何とか心の中で沈めた。
折れてはいかない。
相手は防御魔法と異能を使って防いでくれる。
防ぐほどの攻撃力ではあるのだ。
そう思い隙を見ては光魔法を放つ。
ここで止めないといけない。
チェリアが突破されれば流河達の元に行く。そして流河達も救護所までもうすぐだ。
そしてそこには洗脳された兵士から魔力を回収する場でもある。
その場を破壊されればこちらに勝ち目などない。
だから何としてでも止めなければならないそう思った。
だが
「があ!!」
突然だった。
両腕と両足に痛みが走る。今まで何度も怪我したのに感じたことのない痛み。
チェリアは確認する。
腕と足は穴が空いて肉片が飛び出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます